長期国債先物の制度変更も検討すべきでは
一般に債券先物と呼ばれるのは、東証に上昇している長期国債先物で、1985年に日本で初めて上場した金融先物取引である。来年には東証と大証の統合を受けて債券先物のシステムは大証に統合される。このタイミングで超長期国債先物取引が再開されるが、長期国債先物についてもその制度変更を考慮すべきタイミングに来たのではなかろうか。
長期国債先物における課題のひとつが個人の参入である。そのためにミニ取引を導入したが、閑古鳥が鳴いている状態にある。債券取引は株やFXなどに比べて難しそう、ということもあるが、1985年の導入当初は個人の参入もそれなりにあった事も確かである。ところが、時間の経過とともに個人の取引は減少していった。プロ同士の駆け引きの場に個人の入る余地なしと言ってしまえばそれまでだが、日経平均先物やFX同様に値動きがある以上は個人の参入余地も十分にあると思われる。大証とのシステム統合で債券先物を取り扱う業者も増加するとみられ、これもひとつのチャンスとなる。
個人投資家にとって、アベノミクスに対してはここにきて多少薄れてきたとは言え、関心は高いはずである。このアベノミクスの中心にあるのが拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」でも指摘したが、日銀の異次元緩和であり、それにより大胆に買い入れる国債である。今後の日本国債の動向については、債券市場関係者だけでなく個人も多いに関心を持っていると思われる。特にアベノミクスの出口のことを考慮すると、国債市場に大きな影響が出てくることも想定される。
そのような際にヘッジという手段というより、投機的な取引の一環として長期国債先物の運用を考える個人投資家が増えてきてもおかしくはない。そのために長期国債の制度そのものを変更し、個人に少しでもわかりやすい先物取引にしてはどうか。
長期国債先物は標準物という架空の国債を取引するが、その利率は6%に設定されている。6%という利率は東証に長期国債先物が上場された1985年当時の長期国債の利率を参考に決定された。その後の長期金利は低下し続け、現在は1%以下となっている。
標準物の利率は、実際に発行される10年債の利率と大きく乖離し、標準物の利率を引き下げようとの動きが過去にもあった。しかし「標準物利率の引き下げによって表面利率が他の銘柄に比べ極めて低い銘柄が複数限月にわたり最割安銘柄になった場合における長期国債先物取引の流動性への影響に懸念がある等の理由により」(東京証券取引所『国債先物取引市場創設15周年を迎えて』より)、変更されずに現在に至っている。ほかにも債券先物の価格の連動性を考慮して、このままでも問題ないのではとの市場参加者からの声も出ていた。
ただし、長期国債先物が東証に上場してからすでに四半世紀以上経過しており、その間に長期金利が下降しただけでなく、国債の残高や発行額が劇的に増加している。財務省は先物のチーペストのことも意識して10年債のリオープン発行を増やすような対策も講じている。そのチーペストをなるべく残存10年に近いものとすれば、長期国債先物の動きが長期金利に連動しやすくなり、現在の7年債に連動するよりも値動きもよりわかりやすくなる。
標準物の利率をより実勢を配慮して、たとえば2%あたりとし、受け渡し適格銘柄も現在の日本国債の巨額な発行高を考慮すれば、残存9年以上11年未満の10年債としても、1985年当時の発行額と比較して問題はない。もちろん日銀がカレント含めて大量に国債を購入して流通玉が減少している現実も配慮しなければならない。しかし、その日銀による国債の大量購入が債券の流動性を低下させており、その流動性を補完する意味での先物の改革も必要であろう。このため債券取引のなかでも流動性の高い長期国債先物の流動性をさらに向上させ、いまのうちに個人も含めて参加者の裾野を拡げておく必要があると思う。