2013年の金価格は13年ぶりに下落
2013年のドル建て金価格は、昨年末の1オンス=1,675.80ドルに対して、1,203.80ドルまで下落する展開になった。年間足だと472.00ドルの下落となり、1年間で28.2%の値幅が喪失されている。
金価格は2001年から昨年まで12年連続の上昇相場となっていたが、ついに長期上昇トレンドが一定の終着点を見たことが再確認できる。
振り返れば、2001年から昨年までの12年間はエンロンショック、米同時テロ、サブプライムローン問題、欧州債務危機、米財政危機、世界的な金融緩和と、各種の「信用」が問われた局面だった。エンロンショックは大企業株式、サブプライムローンは高格付け債券、欧米の債務・財政危機はリスクフリー資産とみられていた先進国国債、そして、世界的な金融緩和は通貨と、それぞれ従来は余り意識されてこなかった「リスク」が露呈したことが、安全資産としての金価格を押し上げた。
金融に世界経済が振り回される不健全な状況が続く中、いつ再び安全資産としての金が求められる時代が来ても不思議ではない。今年は、ボルカールール策定などで危機再発の芽を摘む作業も活発化したが、いつまでも金融市場(ウォールストリート)の失敗を国民が税金という形で負担する構図が維持できるはずはない。
しかし、少なくとも足元では世界的な株高圧力が強まる一方で、有事対応としての財政支出・金融緩和拡大にも一定の目途が立ち始める中、金保有のメリットが薄れているのも間違いはない。金は金利・配当を生まない特殊な資産であり、平時には金を積極的に買い進む必要性は乏しく、メインの資産にはなり得ない。常に安全資産には一定の需要が存在するが、一言でいえば有事対応の解除が13年の金価格下落を決定付けたと言えるだろう。
■有事から平時への流れ
危機再発の火種は依然としてくすぶっており、例えば余り注目されなくなってきた欧州債務危機に関しても、未だ引き下げられた格付けの回復は遅れている。米国債に関しては、債務上限引き上げを巡る議会の混乱で政府機能が一時停止され、米国債のデフォルト(債務不履行)のリスクまでも指摘されたことは記憶に新しい。表面的には債務・財政危機は一服した形だが、安全資産としての国債に対する評価はリーマンショック前と後では大きく変わっており、金に対する評価は逆に高まっている。ただ、少なくともユーロ崩壊、米国のデフォルトといった深刻な事態は回避できる見通しが立ち始めていることが、金市場に対する安全資産の一極集中状態を緩和させ始めている。
世界的な金融緩和についても、米国は2014年1月から量的緩和の縮小を決定しており、従来は月額850億ドルの資産購入が750億ドルまで規模を縮小することになる。僅か100億ドルの違いであるが、これは2008年から続く有事対応としてのドル増刷政策がいよいよ最終段階に差し掛かったことを意味し、金市場は早くも金融政策の正常化を見据えた動きを活発化させている。
概ね14年の半ばから秋にかけてドル増刷政策の完全な終了が見通せる状況になる中、ドルの通貨価値下落に対する警戒感は、投機筋はもとより中央銀行の間でも低下しており、「通貨としての金」に加算されてきたプレミアムの剥落が進んでいる。分かり易い例を挙げると、昨年末の段階では金1オンスは原油18.25バレルの価値があったが、13年末時点では12.12ドルの価値に留まっている。金の購買力が失われていることは明らかである。
しかも、異常ともいえる金融緩和で警戒されていたインフレ・リスクに関しては、逆にディスインフレ更にはデフレ・リスクが警戒される状況になっている。
こうした状況にもっとも敏感に反応しているのが金上場投資信託(ETF)市場であり、月間100トン以上の売却が行われる月も少なくはなかった。年間の新産金が2,800~2,900トン程度の金需給の世界において、第1~3四半期のみで697.4トンもの大量売却が行われれば、いくら価格下落を受けて中国などの現物買いが膨らんだとしても、金需給バランスが緩和方向に大きく歪むのは決定的だった。
しかも相次ぐ金価格の値下がりを受けて、実需が割安と感じる価格水準は下落の一途をたどっており、12年までは1,500ドル前後が最終防衛ラインと言われていたが、13年後半には1,200ドル台前半でも十分な買いが入らない「安値慣れ」の時代を迎えている。
以上が、2013年の金価格が13年ぶりに下落した背景である。