日産ゴーン事件でも話題 知っておきたい領事官通報
フランス大使やブラジル総領事がカルロス・ゴーン日産元会長と相次いで面会した。さすがに駐日トップらの登場は異例であり、関心の高さがうかがえるが、この手続そのものは重国籍の外国人被疑者における通常の取扱いにほかならない。
すなわち、1983年にわが国が加入した「領事関係に関するウィーン条約」や、個別の国々との二国間条約により、「領事官通報」という制度が存在する。
逮捕や勾留された外国人被疑者は、捜査当局や裁判所に対し、自国の領事官に対する通報を依頼できる、というものだ。二国間条約によっては、本人の希望とは無関係に、必ず通報をしなければならないものもある。
そのため、捜査当局では、身柄拘束後、旅券などに基づいて必ず国籍を確認している。
通報があると、その国の担当領事官は、わが国の法令に反しない限度で、身柄拘束中の被疑者と文書で連絡をとったり、必要に応じて面会をする。
さらに、必要に応じ、弁護人や通訳人に関する情報提供を行ったり、親族への連絡なども行う。
もし非人道的な措置がとられていれば、捜査当局に改善や是正を求めることもある。
ただし、刑事司法手続はそれぞれの国の国家主権に基づくものであり、領事官には事件に関して事実関係を調査したり、法律解釈をめぐって捜査当局と交渉することまではできない。
身柄の釈放などの措置を捜査当局や裁判所と交渉することもできない決まりだ。
それらはあくまで被疑者本人が弁護人を介して行うべきもので、弁護料や保釈金などを立て替えてもらえるわけでもない。
また、国によっては領事官の対応にかなり温度差があり、ほとんど何もしてくれないという国もあって、初めから通報を希望しないという外国人被疑者も多い。
ところで、刑事訴訟法では、共犯者や関係者と口裏を合わせたり、証拠の廃棄などを依頼する可能性が高い場合、これを防止するため、弁護人や弁護人になろうとする者以外との面会や物のやり取りを禁じることができるとされている。
「接見等禁止処分」と呼ばれ、裁判所の判断に基づくが、条約の規定の方が刑事訴訟法よりも優先するから、その場合でも、裁判所は「○○国の領事官を除く」といった決定を下すのが通常だ。
ただし、領事官との面会の際は、通常の面会の場合と同じく、警察官や拘置所の刑務官(場合によっては通訳人も)が立ち会える。
とは言え、基本的には立ち会わない、という運用になっているし、アメリカやイギリスなど二国間条約の内容によっては、誰も立ち会えない場合もある。
領事官が被疑者から証拠隠滅を依頼されたとしても、応じるはずがない、という高度の信頼関係に基づく。
海外旅行中にトラブルに巻き込まれ、捜査当局に逮捕されるような事態となった場合、異国の地で心細いはずだ。
ほとんどの国が「領事関係に関するウィーン条約」に加入している。
さすがに駐在大使や総領事本人がやってくることはないが、まずは領事官に通報してもらい、援助を求める、という制度を覚えておくとよいだろう。(了)