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<ガンバ大阪・定期便VOL.4>加入から1年。高木大輔が湘南ベルマーレ戦で残した爪痕。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
今シーズンはJ3リーグにも出場している高木大輔。 写真提供/ガンバ大阪

 昨年8月、ガンバ大阪の一員になって1年が過ぎた。彼にとって初めてのJ1リーグとなった昨年の出場時間はわずか7分。『J1デビュー戦』となった24節の鹿島アントラーズ戦は途中出場で5分間、最終節の浦和レッズ戦は2分間ピッチに立ったが、それ以外は、控えメンバーに名を連ねることもなかった。

 それでも、昨年末はいろんな選手から高木の名前をよく聞いた。そのほとんどが『ムードメーカー』としての存在感を評してのものだ。倉田秋も、宇佐美貴史も、渡邉千真も揃って「どんな時も変わらずにチームを盛り上げてくれた」と話し、実際に練習中は彼の周りでよく笑いが生まれたと言う。長いシーズンを戦っていれば、チームにはいい時も悪い時もあって当然だが、普段から「大人しい」と言われることの多いガンバにあって、彼の存在はチームの見えない力になり、終盤戦での『巻き返し』を支える要素の1つになった。

 そうした姿を示し続けたのは、移籍を決めた時から『自分』を表現する必要性を自覚していたからだ。新たなチャレンジで結果を残すには「自分の全てを注ぎ込まなければいけない」と考えていた。

「18年に東京ヴェルディからレノファ山口FCに期限付き移籍をし、試合にもコンスタントに絡めていたんですけど、プロサッカー選手として常に今以上の自分を目指さなくちゃいけないという気持ちがあった。だからこそ、ガンバからオファーをいただいて、レノファという居心地のいい場所で気持ちよくプレーすることを捨てて、もう一度、勝負をかけてみようと移籍を決断しました。といっても、僕はJ2リーグで長く名前を轟かせてきたわけでもないし、ましてや去年、同じレノファからガンバに加入した康介くん(小野瀬)のようにJ2リーグでも月間MVPを獲得するような目を惹く活躍をできていたわけではないですからね。康介くんのようにすぐに活躍できるとは思っていないし、もっともっと頑張らないとここで試合に出ることはできないという自覚もあります。ただ、僕がガンバでプレーするチャンスをもらえたのは事実だし、プレーも、声も、走ることも、戦うことも、全てを練習から100%、120%でやり続けていればチャンスは必ずあるはずですから。そのチャンスをいつでも掴める自分であり続けるために、時間を1分たりとも無駄にせず、頑張り続けたいと思っています」

 その思いは新シーズンを迎えても揺らぐことはなかった。J1リーグでのプレーを目指して移籍を決めた彼にとって、今年最初の公式戦をJ3リーグで迎えた事実に悔しさがなかったはずはない。だが、いつだって明るく、ポジティブに現状に向き合ってきた。

「U-23にいる若い選手の誰もがトップチームで試合に出たいという気持ちでプレーしている中で、僕はオーバーエイジ枠を使って試合に出してもらっている。そのことに感謝しかないし、J1リーグを目指す上でも公式戦の感覚を積めているのはプラスしかない。ただ、それに応えるための『結果』をまだまだ示せていないからこそ、自分がやるべきことはたくさんあると感じています」

 印象的だったのは直近のJ3リーグ・9節のアスルクラロ沼津戦だ。1-1で迎えた80分。FW川崎修平が決勝ゴールを挙げると、前半でベンチに下がっていた高木が川崎を呼び寄せ、喜びを露わにする。試合後、川崎は「大輔くんに、こい、こいって言われたから」と照れ臭そうに話したが、高木につられて、普段はあまり感情を表に出さない若い選手が喜びの輪を作り、そのままチームも7試合ぶりの白星を掴み取った。

「U-23で出ているときは自分が最年長になることが多いし、U-23で出ている選手よりは少なからず経験していることも多いので。チームが6連敗していた状況の中、ホームで逆転できて…あの試合も、しんどかったとは思いますけど、みんなで残りの時間を頑張ろうぜ、って思いを伝えたかった」

その沼津戦の3日後に戦った、今年初めてのトップチームでの公式戦が、8月12日に戦ったルヴァンカップ・グループリーグの湘南ベルマーレ戦だ。平均年齢22.36歳の若いチームで臨んだ一戦で先発した高木は1-1で迎えた39分。FW唐山翔自の決勝点を演出する。その後、後半は特に相手に押し込まれる苦しい展開になったが、最後まで前線からのハードワークを続け、90分間を走り抜いた。

「各々にとってのチャンスでもありましたが、チームとして戦うことを全面的に出そうと話をして試合に入りました。アシストのシーンは、抜け出したタイミングで自分の体が外に逃げていたので…無理してシュートを打つより、中に翔自(唐山)が見えていたし、彼がすごくいい動きをしてくれていたので出しました。僕のパスは相手に当たって少しイレギュラーになったけど、翔自がうまく決めてくれた。最後、少し足がつりかけましたが、そんなことも言っていられなかったというか。試合ができることに感謝の気持ちしかなかったし、みんなが厳しい状況で戦っていた中で、ああいう展開では前が頑張ることで後ろに勇気を与えられると思っていました。後ろが頑張って跳ね返してくれたボールを僕や翔自がもっと頑張って体を張らなければいけないところもありましたが、最後、バテ気味になりながらもなんとか最後まで続けることができた。チームメイトのみんなに感謝したいと思っています」

  

 もっとも、この1つのアシストで自身の置かれている状況が一変するとは思っていない。ガンバに加入し、これまで以上にポジション争いの厳しさを目の当たりにしてきたからこそ、より気を引き締めている。

「目に見える結果が出せたのは良かったけど、今日は1本もシュートを打っていないし、アシストをしたからJ1リーグに出られるとも思っていない。継続して、練習からもっとアピールしていかなくちゃいけないと思っています」

 それでもーー。運動量にも自信のある彼が、最後は足をつりそうになるほど走り切って残した大事な爪痕は、今後に繋がるものになったと信じたい。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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