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<朝ドラ「エール」と史実>「一世紀に一つの恋!」現実はより“情熱的”だった…古関裕而・金子の往復書簡

辻田真佐憲評論家・近現代史研究者
(写真:アフロ)

「英国留学の話」「先生が漏らす」「新聞に掲載」「ファンレターが殺到」「金子からも届く」――。朝ドラ「エール」第4週は、驚くほど史実や昨今の有力説にもとづいています。今回は、そのなかでも金子との手紙のやり取りを取り上げてみましょう。

古関裕而と内山金子の手紙交換。これもまた史実どおりです。というより、史実はもっと過激だったといっていいかもしれません。次第にラブレターに発展するその内容が、じつに熱烈だったからです。

「貴女を友以上の人と考へる様になりました」

手紙の現物は、一部が古関家に保管されています。筆者も評伝『古関裕而の昭和史』を書くにあたって、すべて見せてもらいましたが、朱色でハートマークなどが書いてあって、読んでいるこちらが恥ずかしくなってくるようなものでした。

その文面は、たとえば、つぎのとおり。4月3日付の金子の手紙です。

私は貴方が好きです。私は大好きです。好きで好きでたまらないのです。何て云つたらいいか解らないほど大好きでたまりません。言つても言はなくても胸の中は同じに、いつも変わらないのです。一番初めにお便りをいただいた時から。

出典:引用にあたり、一部表記を改めた。以下同じ。

これにたいして、4月4日付の古関の手紙も、負けず劣らず、情熱的なものでした。

只 金子さん! 貴女一人だけです。(中略)

現在、貴女を友以上の人と考へる様になりました。(中略)

友としてではなく、友以上のもの。……もう、あまり興奮して来まして、書く事が出来ません。お許し下さい。(中略)

私の最も愛する(こんな文字を用ふるのをお許し下さい。この文字以外に、自分の胸中を表現する字は無いのです。)内山金子さん。私の事を信じて下さい。私の最も良き理解者となつて下さい。

感情がほとばしっており、現在でいえば、ラインの履歴みたいなものかもしれません。有名人になると、こういうものまで資料として保管されてしまうのですからたいへんです。

「現在のままで進んだら私は狂死するかも知れません」

その後も、暴走状態の手紙は続きます。

「一世紀に一つの恋!」「キス、キス、わたしはこのレターへ一面にキスします。貴方の御手にふれるのですもの」(金子)。

「外国へなんぞは、行きたくない。名古屋に住みたい。貴女の側に居たい」「私達二人は、極度に恋し合ってます。激げし過ぎます。(中略)本当に現在のままで進んだら私は狂死するかも知れません」(古関)――。

「名古屋」とあるのは、金子が当時、名古屋に住み込みで働いていたからです。そこに、我慢しきれなくなった古関が、突如として訪問するというのがふたりの最初の出逢いです。ですから、それまでは完全に手紙だけのやり取りだったわけですね。

古関は落ち着いた人でしたが、内なる情熱は激しいものがありました。だからこそ激動の昭和に、音楽で生き抜くことができたのです。この書簡は、まさにその内面を映し出したものといえるでしょう。

評論家・近現代史研究者

1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『ルポ 国威発揚』(中央公論新社)、『「戦前」の正体』(講談社現代新書)、『古関裕而の昭和史』(文春新書)、『大本営発表』『日本の軍歌』(幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)などがある。

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