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「名前を言ってみろ!」など、詐欺撃退の事例からみえてくる、被害防止の有用性と副作用とは。「剛と柔」

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

不審電話が自宅や携帯電話にかかってくるのが、日常になりつつあるなかで、かかってきた詐欺電話を撃退したという体験談も出てきています。その事例はとても貴重で、そこで切り返した撃退の言葉を知っておくことは、私たちにとっての被害防止のワクチンになりえます。

ただし、その言葉は鉄板ではなく、詐欺に遭ってしまう副作用というリスクもはらんでいます。この両面を知って、より詐欺撃退の有用性を高めて頂ければと思います。

息子とは違う名前を投げてみる

60代女性は、息子をかたって「カバンをなくしてしまった。お金が必要だ」との電話を詐欺と見抜き、警察に通報して、家にお金を取りにやってきた男子大学生を逮捕することにつなげました。

この時、女性が投げかけた言葉は、「息子とは違う名前を言ってみる」でした。電話をかけてきた男は、この違う問いかけにも、否定することなく返事をしてきたところから、女性は息子のなりすましと見抜いたわけです。

電話で息子と違う名で呼んでも返事する…女性が騙されたフリして警察へ通報 詐欺未遂の現行犯で大学生逮捕  2021/4/25 (東海テレビ)

こうした違う名前を投げかけてみて、真偽をはかるのも、ひとつの手です。電話をかける側の詐欺グループにはノルマがありますので、おそらく組織の上からのプレッシャーもあって、お金をだまし取ることに必死だったのでしょう。この点を曖昧にして、話を先に進めた結果、嘘がバレて逮捕につながりました。

ただし毎回、この形がうまくいくとも限りませんので、注意が必要です。

詐欺犯の側に息子の名前も詳細に記した名簿があって、「何言ってるの、おかあさん。息子の名前を間違えてるよ!」と言われれば、逆に、相手の話を信じてしまうことにもなりかねません。

これこそが副作用なのです。

この言葉は、常に有効な方法となるわけではありませんので、あくまでも、詐欺を見抜くためのひとつ方法として利用するのがよいと考えます。

講座などでもよく話すのですが、詐欺犯は「多額のお金が必要だ!」と、大きな嘘をついてくるので、被害を防ぐには、こちらも「小さな嘘をついて身を守る」ことが大事になります。まさに今回のケースがそれにあたります。

それに詐欺電話をかけるのに長けた人物だと、この「小さな嘘をつく」高齢者の行動から、危険を察知すると、すぐに電話を切ることもあります。

オレの名前を言ってみろ!

80代男性宅に、息子を装って「新型コロナウイルスの検査を受けるために病院に行ってきた」という電話がかかってきました。

この形のオレオレ詐欺では、その後、「病院でカバンを盗まれた。そのなかに会社の小切手があって、今日中にお金を立て替えなければならない」というストーリーになります。

この時、男性は息子の声との違和感を覚えて「オレの名前を言ってみろ」と問い詰めたところ、相手は名前を答えました。しかしそれは、本人の名ではありませでした。そしてかけてきた電話が、詐欺と見抜かれれしまい、詐欺犯は電話を切ることになりました。

一時期、漫画・「北斗の拳」(集英社)に出てくる、ジャギが発した「俺の名を言ってみろ!」の言葉で、詐欺を撃退したと、ネット上でも話題になりました。

「オレの名前を言ってみろ」で撃退…”コロナ検査”息子を名乗る不審な電話…振り込め詐欺に注意  2021/2/15(HTB北海道テレビ放送)

もちろん、これにも副作用はあり、名簿を見てかける詐欺電話のなかには、すでに親や息子の名前が記されていて「オレの名」がすべて、言えることもあります。先の事例と同じように、高齢者が名前を聞いたら、しっかりと本人や息子自身の名前を答えられた。そのことで、逆に、本物の息子と信じてしまうことにもなりかねないのです。

ただし、多くの場合、名簿を見て手当たり次第に電話をかけています。それゆえに、今回のように相手の名前が言えなかったり、名簿の段を間違えて、違う人の名前を言ってしまうこともあります。

しかも、マニュアルに沿った形での電話をしているので、「オレの名前を言ってみろ!」と、虚をつく質問には案外、脆い面がありますので、有効な手段でもあります。

今、コロナ不安が利用されて、方々に詐欺の電話がかけられています。甥や孫、警察官や市役所など、詐欺ではいろんな人物をかたり電話がかかってきます。

今回紹介した、言葉を投げかけるという、攻撃的で勇ましい剛の撃退法だけでなく、「怪しい」と思えば、会話を短くしてさっと電話を切るという、柔の撃退法も時に必要になります。

いずれにしても、相手の話してくる電話番号ではなく、自分で調べた番号に再度電話をかけて、確認することが何より大事になります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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