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さあ、ドラフト。とっておきを探せ! その3 今川優馬[JFE東日本]

楊順行スポーツライター
社会人の都市対抗野球大会は11月22日開幕(写真:アフロ)

 21打数8安打の打率.381で、1本塁打3打点。東芝との準決勝では、現西武の宮川哲から先制2ランを放つなど、昨年の都市対抗でJFE東日本の初優勝に大きく貢献した超攻撃的二番が、今川優馬だ。この大会では若獅子賞(新人賞)を獲得したばかりか、昨年の公式戦通算でも4本塁打22打点、打率.330で、社会人の年間ベストナインにも輝いている。

 メジャーリーガーのような、独特なクラウチングスタイル。極端な、アッパースイング。頭の硬い指導者なら「そのフォームのままなら、起用しない」とばっさり切り捨ててもおかしくない個性だが、JFEの指揮官・落合成紀監督は、今川の入社後すぐに、「だれになんといわれようと、即スタメン」を英断した。すると、昨年開幕のスポニチ大会からホームランを記録するなど結果を残し、同じ1年目の平山快、峯本匠らとともに定位置を勝ち取った。

 見ていて痛快なフルスイングは、緻密な試行錯誤の末に獲得したものだ。今川は振り返る。

「大学(東海大北海道)に入ったとき、当時の岩原旬コーチから"ホームランを狙え"と指導を受けたんです」

 自分はそのタイプじゃない……と最初は半信半疑だったが、長打力はまず試合に出るためのアピールポイントになる。そこからはSNSなどでどん欲に知識を吸収し、ときには発信者に質問しながらたどり着いたのが、昔でいうアッパースイングだ。いまメジャーで主流となっているフライボール革命とも共通点は多く、研究と実践を積み重ねるうちに、おもしろいほど飛距離が伸びた。投球軌道を下から見るような個性的なフォームゆえ、高めが弱点だが、

「高めは本来ほとんどボール球なので、ストライクといわれたら"スミマセン"ですね(笑)。逆に、球の下側が見えなければボール球、と見きわめられるのは利点です」

 と割り切っている。

大学までは球運に恵まれず……

 それでも、成長とはうらはらに出場機会に恵まれない。従来の基本を逸脱したフォームのため、ほかの首脳陣になかなか認められず、2年までは控えだった。そういえば、一般入試で進んだ東海大四(現東海大札幌)高時代も、3年春のセンバツはメンバー外。大会後にようやく定位置を手にしかけたが、遠征で左手首を骨折してご破算になった。大学では3年春からようやくベンチ入りすると、4年春には札幌学生リーグ記録となる5本塁打を放って首位打者、ベストナインとともに特別賞を獲得。年間9本を量産するなど、イッキに開花した。

 ただ……4年の春は、未成年部員の飲酒で開幕直前まで対外試合を禁止され、逆境をはね返して優勝、さあ大学選手権……と思ったら、再度未成年部員の飲酒が発覚。大学は選手権の出場辞退を決め、プロ志望だった今川は、絶好のアピールの場を失うことになる。どこまでも、ついていないのだ。結局2018年のドラフトでは、どこからも指名なし。そんなツキのなさをまとめてひっくり返すような、社会人1年目の大ブレイクだった。

 野球小僧でいたいんです、と今川はいう。

「野球が好きで楽しくて、わくわくして。フィールドに立つだけで笑顔になるんです」

 そうなのだ。今川の場合、快打してニコニコは当然として、三振してダグアウトに帰るときでも、笑顔を絶やさない。これほど楽しそうにプレーする選手、ちょっといないのではないか。確かに、野球小僧だ。

「高校、大学と、なかなか出番のない苦しい時期が続いたので、目の前の1球1球が素直に楽しい。もちろん、三振して笑うのをよく思わない人もいるでしょうが、だからこそ、結果を残さないといけません」

 勝負の2年目。昨年の都市対抗で優勝したため、チームは予選免除で本大会(11月22日〜)に出場する。ドラフト会議はその前、10月26日。今川に吉報は届くか……。そういえばJFEに入社したのは、「練習参加の日のシート打撃で、たまたま須田(幸太・元DeNA)さんと対戦し、たまたま打てた。運がよかったんです」。もう、運に恵まれなかった大学までの今川じゃない。

 

いまがわ・ゆうま/JFE東日本/外野手/右投右打/1997年1月25日生まれ/北海道出身/176cm84kg/東海大四高→東海大北海道

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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