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地味にすごい。アジア制覇を目指す鹿島アントラーズの強みは”隙を与えない”コーナーキック裏のカバー。

河治良幸スポーツジャーナリスト
内田が後方に構えるCK裏のカバーは選手全員がリスク管理を共有する。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

鹿島アントラーズはACLの準決勝で韓国の水原三星と対戦する。Jリーグ勢で唯一ラウンド16に勝ち上がり、優勝候補の上海上港、さらに天津権健を撃破。クラブ初のベスト4に勝ち上がり、前回王者の浦和レッズに続くアジア制覇まであと2つというところまで来た。

その鹿島を支えているのが今夏テクニカルディレクターに就任したジーコ氏を源流とする”勝者のメンタリティ”。それは試合の駆け引きやリードして終盤を迎えたときの時間の使い方など、様々なところに表れるが、相手に”隙を与えず隙を突く”という意識の共有は今季のA C Lで目をみはる。

マカオで行われた天津権健戦の2ndレグで鹿島は3得点を奪い、合計スコア5−0と大勝となったが、先制点が入るまでの時間帯はかなりスリリングで、そこで仮に天津権健が先にゴールしていたら、試合は全く違う展開になっていた可能性もある。しかし、そうした状況でも選手それぞれがリスクをコントロールして、相手にゴールを奪わせない。その上で相手の隙を突いて行くという共通意識が結果的な完全勝利をもたらしたことは確かだ。

そのメンタリティを象徴するのがコーナーキックの裏のカバーリングだ。ロシアW杯で日本代表がベルギー相手に2点リードしながら同点に追いつかれ、後半の最後に日本のコーナーキックからのスーパーカウンターで逆転負けしたことは記憶に新しく、日本サッカーの課題にも挙げられるが、鹿島は以前からそうしたリスクを管理するプレーを徹底しており、特に世界での内田の復帰により強化された感はある。

天津権健戦はちょうどコーナーキックから遠藤康が上げたボールにセルジーニョが合わせて先制点を奪ったが、試合を通して鹿島側のコーナーキックを観察すると、内田が最後尾でカバーリングに専念し、その前に二人の選手が立ってセカンドボールを拾えば二次攻撃を狙い、相手ボールになりそうになったら素早くチェックして味方のリトリートを促す役割を担っていた。

その時は安部裕葵とレオ・シルバ、遠藤のキッカーではない方がその役割を担っており、彼らが相手のカウンターの起点をチェックに行く間に、ゴール前から山本脩斗、三竿健斗がスプリントで彼らをも追い越し、後方をカバーする内田と同じ位置まで戻って防水体制を取る。さらに残るターゲットマンが守備に参加するという、厚みのあるディフェンスでカウンターの余地すら与えない。

「それがチーム全員が意識してできていた。だれか一人ではなくて。常にリスク管理しながら攻撃してたし、それでいいバランスで攻撃的ていたと思います」とセットプレーのキッカーも担う遠藤。コーナーキックからゴールを決めたことはもちろん素晴らしいが、リスク管理を徹底しながら得点も奪えるというところに鹿島の強みがある。

中盤から流れでも攻守のバランスをとる三竿も「攻めている間のリスク管理は常にみんなで言っている」と語る。そうした意識を伝統的にもつ鹿島だが、これまでアジアのタイトルだけは無縁だった。「昔のチームのレベルと比べたら、俺らのいまの11人がめちゃくちゃレベル高いかというとそういうわけでもないし、タイミングとかね」と内田。そのチャンスが今まさに訪れたと言える。

水原三星も勝負の駆け引きに定評のあるクラブで、中国勢とは違う戦いになることが予想されるが、鹿島のスペシャリティを発揮できればファイナルは見えてくる。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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