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「すずめの戸締まり」アメリカで公開。批評家の96%、観客の99%が絶賛

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「すずめの戸締まり」が現地時間14日、北米公開された

 新海誠監督の「すずめの戸締まり」が、現地時間14日、北米公開された。英語のタイトルはシンプルに「Suzume」。英語字幕版と英語吹き替え版のふたつのバージョンでの公開だ。限定ではなく全国規模の公開であること、今月上旬にはロサンゼルスのアカデミー映画博物館で吹き替え版のプレミアを華やかに行ったことなどに、北米配給を手がけるクランチーロールの自信が見える。

 人々の反応を見るかぎり、その読みは正しかったようだ。批評サイト「Rottentomatoes.com」によれば、現時点で、批評家の96%、観客の99%が、この映画を褒めているのである。新海監督の最近作を振り返ると、「君の名は。」は批評家が98%、観客が94%、「天気の子」は批評家が92%、観客が96%だった。毎回、非常に高い評価を得ているが、今回、観客から99%を得たというのはすごい。もっとも、まだ公開から2日なので、この後変化していく可能性はある。しかし、まずは批評家がどう言っているかを見てみよう。

 批評家は、口を揃えてビジュアルの美しさを絶賛。また、2011年の東北地方太平洋沖地震という大きなテーマに、成長物語、ファンタジーを組み合わせた独自のストーリーを褒めている。

「Los Angeles Times」のトップ批評家ジャスティン・チャンは、「ティーンを主人公にした感傷的なファンタジーの中で自然災害に触れるのは、新海監督にとって初めてではない。この映画は『君の名は。』ほどの美しい複雑さや感動の強さを達成してはいないものの、魔法のブレンドの仕方、フィーリングに魅了されてしまう。『君の名は。』と、それに続く『天気の子』同様、『すずめの戸締まり』は日本で大ヒットした。北米でも拡大公開されるのはふさわしいこと。吹き替え版と字幕版の公開だが、私は字幕版を見た。あなたたちもそちらで見るべきだ」と書いた。

 彼はさらに、「核心の部分で、これは楽観的な物語。鈴芽が子供時代に受けた悲しみも、彼女を育ててくれた叔母との関係も、癒やすのは不可能ではないのだ。これはまた、日常の中で他人に優しくすることについても語る。それに、お腹の空いたこの主人公に差し出される食べ物の美味しそうなことったら。これは新海監督の映画でいつものことながら、決して飽きることはない」とも述べている。

椅子になった草太がもたらすコメディにも評価が
椅子になった草太がもたらすコメディにも評価が

「New York Times」のマヤ・フィリップスは、冒頭で新海監督と宮崎駿監督を比べた上で、「比較はここまでにしておこう。なぜなら、新海監督は『すずめの戸締まり』で、彼ならではのものをたっぷりと見せているのだから。彼は古い魔法、新しい魔法、神、インスタグラム、テキストメッセージなどが混じった、非常にモダンな世界を作り上げてみせたのだ」と書く。フィリップスはまた、3本脚の椅子になった草太がもたらすコメディや、その恋愛よりも鈴芽と亡くなった母の関係に重点を当てていることについても褒めた。

 その一方で、「成長、喪失ということのメタファーではあるが、この世界のルールがしっかり説明されないことが、ストーリーを弱くする。まっすぐ環境問題を扱うのか、それに触れるただのフィクションなのか決められなかった『天気の子』と似ている」とも指摘。キャラクターのモチベーション、魔法の理論などが疑問を感じさせ、それが「『すずめの戸締まり』を、魅力的でありながら、フラストレーションも感じさせる映画にしている。映画の最初に約束したことを、完全に達成はしないのだ」と述べた。

「RogerEbert.com」のブライアン・トレルコは、4つ星満点中、3つ星をこの映画に与える。批評の冒頭で、彼は「新海誠の映画が広く愛されるのはなぜなのか」と問いかけ、まずはビジュアルのクオリティを挙げた。その上で、「だが、アニメーションの美しさだけではない。彼は、日本に特定した話でありつつ、国境を越えて共感できる話を語るのだ。『すずめの戸締まり』も、日本の歴史、日本人が持つ恐れについてダイレクトに語るのだが、そのトラウマと不安を誰もが自分のことのように感じさせるのである」と書く。

 しかし、彼はまた、「『すずめの戸締まり』は新海監督の最近のヒット作に比べ、長いと感じさせる」ともいう。「予想しなかったところでダレるのだ。とくに前半の『何が起こっているのか』を語るやりとりがある前半。私としては、比較的落ち着いたラストの部分がもっと好きだった。そこで鈴芽は家族の歴史に直面し、フィルムメーカーはこの映画の感情の核を見つける」と書いた。

今月上旬、ロサンゼルスで行われた英語吹き替え版プレミアに出席した新海誠監督
今月上旬、ロサンゼルスで行われた英語吹き替え版プレミアに出席した新海誠監督写真:REX/アフロ

 観客の意見はといえば、「Rottentomatoes.com」に寄せられた250以上の評をざっと見てみると、圧倒的に5つ星が目立つ。時々4つ、3つ半などがたまに混じる程度で、大絶賛されているのは明らかだ。それらの評の多くは、ビジュアル、ストーリー、音楽、CGIを絶賛している。

 新海監督の過去作と比べてどうかについては、「これは最高作品」という意見もあるし、「最高とまではいかない」「『君の名は。』ほどではない」という意見も見られて、さまざま。そこに関しては人によるということだろう。それでも、ここまで満足度が高ければ、オープニング成績はもちろんのこと、その後しっかりと売り上げを伸ばしていくことも期待できる。今週末に出てくる数字を楽しみにしたい。

場面写真:Crunchyroll

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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