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全米オープン予選レポート:西岡良仁、宿敵を破り心身の成長を示しての予選突破

内田暁フリーランスライター

「泣きそうになった……」

そう振り返ったポイントから、およそ10分後――。

西岡良仁はコート上に突っ伏し、両手で顔を多い、大粒の涙で頬を濡らしました。

最初に「泣きそうになった」のは、ファイナルセット4-5の自身のサービスゲームのデュースの場面で、相手のリターンがネットの白帯を叩き、ポトリと自陣コートに落ちた時。

実際に泣いたのは、自身の2度目のマッチポイントで、相手の打球がラインを割っていった時。

「泣いちゃいました、うれしくて。勝って泣いたのは、初めてだと思います」

歓喜の瞬間から数分後、勝者は八重歯をのぞかせて、照れくさそうに笑みをこぼしました。

「次の相手はすごく打ってくる。後ろで守っていてはチャンスがないので、自分から動いていく」

昨日の2回戦で勝った後、西岡は来たる決戦に向け、そのように語りました。予選決勝の相手は、過去6戦し一度も勝利のない、英国の期待の新星カイル・エドムンド。2週間前のチャレンジャーでも敗れている、同期のライバルです。

その宿敵相手に第1セットの西岡は、自らの誓いのままのプレーを見せました。ベースラインから下がらず、フラットで強くボールを叩き、機を見てネットに出てボレーも決める。あるいは長く激しいラリーの打ち合いから、突如ネット際にドロップショットを沈める。牛若丸のように軽快かつ痛快な西岡のプレーは、ほぼ満席となったコート11の観客たちの喝采を浴びました。「カモン、ヨシー!」と叫び続けていた10歳前後の兄弟は、「ヨシのプレーは楽しいし、ミスがない。それにレフティーだからかっこいい。ドロップショットも最高にクール」と興奮気味。打倒ライバルに燃える西岡が、観客をも味方につけ、6-2で第1セットを先取しました。

しかし第2セットに入ると、エドムンドは得意のフォアで激しく攻めたて、サービスにも威力が増していきます。対する西岡は、ダブルフォールトなど自らのミスでリズムを失い、ボールを受ける位置も徐々に後退していきました。第2セットは、0-6で瞬く間にエドムンドの手に。

そうしてファイナルセットに入っても流れは変わらず、西岡は2-5と追い詰められました。

それでも、最後になるかもしれないゲームのコートに向かう時、西岡は不思議と「まだ終わらないだろうな」と感じていたと言います。

まずはサービスをキープ。続くゲームでは、15-30の場面で相手に主導権を握られた長いラリーを凌ぎに凌ぎ、最後は相手のミスを誘います。続くポイントも、西岡の脅威のコートカバー能力が、相手の攻撃と集中力を上回りました。西岡が剣が峰でブレークバックし5-4。ブレークの数では、五分に戻します。

しかし続くサービスゲームでは、勝負を掛けたエドムンド、立て続けにネットに出てボレーを決め15-40に。対する西岡も、まずはバックのクロス、さらにはワイドへのサービスウイナーで、2本のマッチポイントを凌ぎました。

ところがこの直後、試練が西岡を襲います。やや当たりそこなったエドムンドのバックのリターンは、コードボールとなり西岡のコートへ。懸命に走り、シューズがコートを擦る高い音を響かせボールに飛びつく西岡のラケットは、わずかにボールに届きません。彼が「泣きそうになった」のは、この時でした。

それでも「なんとか頑張った」西岡は、この窮地も凌ぎ、最後はエースでゲームキープ。すると次のゲームでは、気落ちしたエドムンドのダブルフォールトにも乗じて、西岡がブレークに成功します。

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迎えた、最後のサービスゲーム――。勝利の瞬間、西岡はその場に大の字に倒れ、しばらく動くことができません。立ち上がり、ネットに駆けより好敵手と互いの健闘をたたえると、こらえ切れずに涙がこぼれました。

昨年の全米予選は、失う物のない挑戦者としての強みを発揮し3連勝。

そしてシードのついた今回は、追われる立場のプレッシャーを乗り越え、最後は宿敵を破り心身の成長を示しての予選突破。

「気持ち的に切れなかったのが、勝った一番の理由かなと思います。プレーもそうですが、最後まであきらめなかった」

もしかして、1年くらい前だったら切れていたかも?

そう問われると西岡は、少し考え、「そういう感じもありましたね」と自嘲気味に笑いました。

テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報をお届けしています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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