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富士24時間耐久は一昼夜も脳内をマシンが刺激する、狂気と感動が交錯した、最高のエンターテインメントだ

高根英幸自動車ジャーナリスト
異なるカテゴリーのマシンの混走だからドラマが生まれる。写真/meiju0919

今年もスーパー耐久選手権(以下S耐)の第2戦として、富士SUPERTEC24時間レースが開催された。昨年に引き続き取材に行くことができたので今更ではあるが、その素晴らしさをお伝えしたい。

「レースは走る実験室だ」と言ったのは、ホンダの創始者本田宗一郎氏であるが、まさにS耐のST-Qクラスは、自動車メーカーの開発車両としてこれまでのレギュレーションに囚われない仕様のマシンが集まり、共に挑む姿を見せている。

ホンダも昨年と比べCNFのノウハウを重ね、速さを見せ始めた。これだけの技術をもつメーカーがEVに完全シフトしてしまうのは惜しい気がする。写真meiju0919
ホンダも昨年と比べCNFのノウハウを重ね、速さを見せ始めた。これだけの技術をもつメーカーがEVに完全シフトしてしまうのは惜しい気がする。写真meiju0919

このところ自動車メーカーの認証不正が話題となったが、その内容をよく知れば決してユーザーや役人を騙そうとした意図はなく、時間とコストに追われ、データを使いまわしただけのことで、日本の自動車メーカーの姿勢が悪質なものではないのは明らかだ。

クルマの衝突安全性は、こうしたレースへの参戦でも得られるものがある。衝突実験では得られない、予測不能のアクシデントやクラッシュは、そのまま貴重なデータにも成り得るのだ。

S耐では昨年も大きなクラッシュが起こったが、幸い重傷者が出なかったのは、十分な安全装備とクルマの基本的な衝突安全性能の高さ、それとドライバーの危機回避能力の高さの3要素があったからこそ。

日本の自動車メーカーは高い安全水準でクルマを開発、生産していることは間違いない。その上でより快適で環境性能の高いクルマづくりを目指している。

話を富士24時間耐久レースに戻そう。S耐の中に組み込まれているとはいえ、24時間のレースでは通常の耐久レースとは規則も若干異なる。

通常のシリーズ戦ではドライバーは2名以上4名までが認められているが、24時間レースでは6名まで登録し参加することができる。これにより1スティント1時間としても1度走行したら5時間はインターバルが確保できるのだ。

倶楽部MAZDA SPIRIT RACINGの面々。6人体制で24時間を戦う。ドライバーは皆、全国のロードスターパーティレースの年間王者。王座獲得のご褒美がS耐なのだ。写真meiju0919
倶楽部MAZDA SPIRIT RACINGの面々。6人体制で24時間を戦う。ドライバーは皆、全国のロードスターパーティレースの年間王者。王座獲得のご褒美がS耐なのだ。写真meiju0919

実際には2スティントを連続する作戦は珍しくないし、プロドライバーなら3、4時間のインターバルで24時間を走り切れるから、3、4人でも十分に24時間を戦い抜けるので、そこは作戦次第といったところ。

それと同時に従来の排気量ごとに速さを競うST-1からST-5クラスの排気量別クラス、GT3マシンやTCR(ツーリングカー世界選手権)などのST-ZやST-Xなど多彩なマシンが混走するから、賑やかになる。

ST-Qクラスに参戦中の一台、ロードスターRFをベースにCNFを採用し、ワイドボディ化したMAZDA SPIRIT RACINGのROADSTER CNF concept。写真meiju0919
ST-Qクラスに参戦中の一台、ロードスターRFをベースにCNFを採用し、ワイドボディ化したMAZDA SPIRIT RACINGのROADSTER CNF concept。写真meiju0919

そんなマシンたちが一丸となって、24時間先のゴールを目指し、一昼夜を走り続けるのだ。午後3時にスタートし、日が暮れても走り続け、深夜になり夜明けを迎えても走り続け、朝を越えて昼も過ぎて午後3時にようやくゴール。これだけでもヤバい。

ナイターとなる耐久レースは珍しくないが、一昼夜走りっぱなしは、ル・マン、ニュルブルクリンク、スパ・フランコルシャンとこの富士くらいのもの。日本で楽しめる富士は環境も整っている。写真meiju0919
ナイターとなる耐久レースは珍しくないが、一昼夜走りっぱなしは、ル・マン、ニュルブルクリンク、スパ・フランコルシャンとこの富士くらいのもの。日本で楽しめる富士は環境も整っている。写真meiju0919

メカニックも仮眠をとりながらピット作業をこなし、不意のトラブルにも備えるが、観客だって24時間体制だ。中には完全に徹夜でレース観戦する強者もいるかもしれない。それでも、大抵の観客はマイペースでレース観戦を楽しんでいる。

キャンプエリアもあって、グループでBBQを楽しみながらレースを観戦する人たちもいれば、ソロキャンやカップルでキャンプを楽しみながらマシンやチームを応援する姿も。そう、観客も耐久レースをそれぞれの楽しみ方で過ごしているのだ。

キャンプエリアではテントを張ってのんびりレース観戦したり、仲間でBBQを楽しむ姿も多い。レースだけでなく、ライブでレースを肴に皆で飲食を楽しむ、そんな姿が日本でも根付きつつある。写真meiju0919
キャンプエリアではテントを張ってのんびりレース観戦したり、仲間でBBQを楽しむ姿も多い。レースだけでなく、ライブでレースを肴に皆で飲食を楽しむ、そんな姿が日本でも根付きつつある。写真meiju0919

中にはホテルに一度戻って、翌日また観戦に来るという方もいるだろう。ともかく時間はたっぷりあるので、思い思いのスタイルで耐久レース観戦を楽しんでいるのだ。家族連れが多いこともこのレースイベントの特徴で、子供連れには助かる割引率の大きいファミリーチケットも限定数ではあるが用意されている。

イベント広場で繰り広げられる催しもまた、このレースの特徴的な部分である。通常のレースイベントでは、このスペースはモータースポーツファン向けにクルマのパーツやチームのグッズ、スポンサー企業にまつわるブースがPR活動を行なっている。

スーパー耐久も基本的には同じなのだが、昨年からはST-Qでカーボンニュートラル社会への実験的参戦を行なっている自動車メーカーやその協力企業が様々な催しを繰り広げている。そこでは水素社会への理解を進めてもらおうと、色々な形で水素利用の試みが紹介されている。

イベント広場ではクルマ関連や参戦チームのブースのほか、燃料電池や水素を用いた様々な催しを実施。トヨタのFCEV、MIRAIも現地での発電に役立てていた。筆者撮影
イベント広場ではクルマ関連や参戦チームのブースのほか、燃料電池や水素を用いた様々な催しを実施。トヨタのFCEV、MIRAIも現地での発電に役立てていた。筆者撮影

今回はトヨタが水素をピザ窯の燃料として使ったり、足湯の泡として投入したりと、燃料電池以外にも幅広く活用できることを知ってもらおうという姿勢が見えた。

トヨタは水素を直接燃焼させてピザを焼くピザ窯を製作。水素利用を身近なものと感じてもらうために、色々と試されているのだ。筆者撮影
トヨタは水素を直接燃焼させてピザを焼くピザ窯を製作。水素利用を身近なものと感じてもらうために、色々と試されているのだ。筆者撮影

24時間後のゴールに向けて、決勝レースがはじまる

決勝レースは土曜日の午後3時にスタート。曇り時々晴れという過ごしやすい天候の中、各チームのマシンが順調に周回を重ねていく。

変わりやすい富士の天候にあって、気温がそれほど上昇せずにレースが進んでいくのはマシンやドライバーの負担が抑えられる(それでもサウナに入りながらマラソンしているような状態なのは変わらないだろう)から、ドライバーたちは1、2時間の連続走行も幾分は楽にこなせていったようだった。

それぞれのクラスではスタートから24時間先のゴールを見据えた、戦いが続く。それは自分たちの中で速さを求めた戦いであり、ライバルとの駆け引きもあるという何とも複雑な戦いだ。

スタートして1時間。耐久選手権の常連チームだけに、各車安定したペースで周回を重ねる。今回は海外からの参戦もあり、いっそう華やかなレースとなった。写真meiju0919
スタートして1時間。耐久選手権の常連チームだけに、各車安定したペースで周回を重ねる。今回は海外からの参戦もあり、いっそう華やかなレースとなった。写真meiju0919

昨年は深夜にクラッシュ、炎上したマシンがあり、長時間の中断もあったが今年は大きなアクシデントなどはなく、トップグループはピットインで順位を入れ替えながら周回を重ねていった。

それでも個々のチームをみれば、マシンに何らかのトラブルが発生し、ピットインして長時間の作業を費やすところもあった。それらを羅列してもあまり意味のないことだ。

それよりも夜中に雨が降り始めたことで、過酷さは一気に高まったことの方が、今回の24時間では重要だろう。

雨量がそれほど多くはなく、しとしとと路面を濡らし続ける雨はタイヤ選択を迷わせた。1スティントが長い24時間レースゆえにタイヤ交換のためだけにピットインをためらうチームも多く、スリックタイヤのままでウエット走行を強行したチームもあったようだ。

同じクラスでもFF、FR、4WDが混在しているカテゴリーでは、この判断も分かれた。当然のことながら4WDであるGRヤリスやランサーエボリューションは、ウエットでもスリックで走れる限度が高い。こうした時に4WDは強みを発揮する。

トップグループはすべてFRなので条件は同じだが、ウエットでもAMG GTの安定感は抜群でマシン性能では抜きん出ている印象だ。

多くのマシン、チームが24時間を戦い抜いて得たものとは

最も速く24時間後のチェッカーフラッグをくぐったのは、昨年の覇者中升 ROOKIE RacingのメルセデスAMG GT3 EVOであった。3位までとは3周差と、24時間レースとしてはかなり白熱した戦いが続いたようだ。

終始安定したペースで走り切った中升ROOKIE RacingのメルセデスAMG GT3 EVO。トヨタが開発中のスーパースポーツによる参戦へのノウハウは着々と進んでいるようだ。写真meiju0919
終始安定したペースで走り切った中升ROOKIE RacingのメルセデスAMG GT3 EVO。トヨタが開発中のスーパースポーツによる参戦へのノウハウは着々と進んでいるようだ。写真meiju0919

トヨタは昨年、水素を圧送するポンプを2回交換する作業を行なったことで、レースとは呼べないほどのビハインドを負ったものの何とか完走を果たした。今年は何と水素ポンプを無交換で24時間を走り切るという目標を掲げ、液体水素タンクも楕円形として1.5倍の容量に拡大して臨んだ。

しかしブレーキの電子制御系にトラブルが発生し、合計で8時間ものピットストップを余儀なくされてしまったことから、水素ポンプは無交換で済み、1回の水素充填で31周も走行できたものの、最終的な周回数は332周と昨年よりも26周少ない結果に終わってしまった。

量産車に搭載できるよう技術開発をするのであれば、少なくとも5、6万kmは無交換で走り切れる耐久性、信頼性が要求されるから、まだまだ先は長い気もするが、水素エンジンやその周辺機器の耐久性、信頼性は向上していることは明らかだ。

マツダは昨年バブボルトが折れ、片方の駆動輪を失うというトラブルに見舞われたが、あれから各部を強化して対策したこともあって、大きなトラブルはなく今年の24時間レースを迎えている。

パワフルでエコなクリーンディーゼルを搭載したチーム代表の前田育男氏自らもステアリングを握る。写真meiju0919
パワフルでエコなクリーンディーゼルを搭載したチーム代表の前田育男氏自らもステアリングを握る。写真meiju0919

ただ終盤になってトランスミッションからオイル漏れが発生したらしく、安全への配慮に交換作業を行なったためタイムロスが発生。その後も、何度かピットインしては点検作業を繰り返した。しかし勝敗関係なく、開発のために参戦しているのだから、むしろこうした確認作業こそ重要なのだ。

日産はST-QクラスのCNFを採用したZこそクラス2位でフィニッシュできたものの、ST-Zクラスの2台のZは一台が追突事故に遭い、もう一台はトランスミッションが真っ二つに割れるというトラブルで順位を大きく落とした。

CNFを使っているとは思えないほど美しい排気音を響かせるNISSAN Z Racing Concept。写真meiju0919
CNFを使っているとは思えないほど美しい排気音を響かせるNISSAN Z Racing Concept。写真meiju0919

スバルはCNFを採用したBRZでは最後のレースとなり、クラス3位で有終の美を飾った。次戦からはWRX S4で新たな挑戦が始まるらしい。

一瞬も目が離せないF1GPや耐久とスプリントが融合したスーパーGTのようなレースの観戦も楽しいが、耐久レースは観客も自分たちのペースで観戦を楽しめる。レースを見る、疾走するマシンを様々な角度から見たいからサーキット内を移動する、イベント広場でフードトラックやテントブースのカー用品やレーシングギアを物色する、そんなことを順繰りと繰り返し楽しめるのも24時間レースならではだ。

欧州や米国の24時間レースに近い感覚で、レース観戦を楽しめる日本のレースファンも増えていることが、なんとも嬉しく思えるのである。

総合優勝の中升ROOKIE RacingのメルセデスAMG GT3 EVOと並んでゴールする液化水素のORC ROOKIE RacingGR CorollaH2 concept。写真meiju0919
総合優勝の中升ROOKIE RacingのメルセデスAMG GT3 EVOと並んでゴールする液化水素のORC ROOKIE RacingGR CorollaH2 concept。写真meiju0919

まだ耐久レースを見たことがない人はもちろん、他の耐久レースを観戦した経験がある人も、富士24時間は一度観戦してみるべき価値がある。レースを見るだけでも、これほど体力を奪われる、それでも疾走するマシンたちの姿を最後まで見届けたいと思うからこそ、ゴール後の達成感も一入なのだ。

おそらく耐久レースというレースイベントへの概念が変わる。

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自動車ジャーナリスト

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。芝浦工業大学機械工学部卒。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、様々なクルマの試乗、レース参戦を経験。現在は自動車情報サイトEFFECT(https://www.effectcars.com)を主宰するほか、ベストカー、クラシックミニマガジンのほか、ベストカーWeb、ITmediaビジネスオンラインなどに寄稿中。最新著作は「きちんと知りたい!電気自動車用パワーユニットの必須知識」。

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