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総選挙の結果から考える日本の安全保障

田上嘉一弁護士/陸上自衛隊二等陸佐(予備)
2021衆院選投開票日 岸田文雄自民党総裁(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

10月31日に実施された第49回衆院選は全議席の結果が確定し、当初の情勢調査とは異なり、自民党は追加公認を含め261議席を獲得し、国会の安定運営に必要な絶対安定多数を単独で確保しました。

また、日本維新の会は公示前と比較して約4倍もの41議席を獲得、第3党に躍進。国民民主党も議席を増やしました。

他方で、野党共闘が不発に終わった立憲民主党と共産党は公示前から議席を減らした結果となっています。

各党は安全保障について何を訴えたか

私は、総選挙の2日前に各党の安全保障に関する公約を比較しました。各党の経済政策やコロナ対策は注目を集めていましたが、安全保障面に関して比較するというのはおもしろい試みであったと自負しています。

必ずしも国民全体において関心度が高いとはいえない安全保障ですが、今回の結果を踏まえると、安全保障においても国民の意思が示されたといえそうです。

各党の公約を筆者がまとめた
各党の公約を筆者がまとめた

各党の公約を筆者がまとめた
各党の公約を筆者がまとめた

各党の公約を筆者がまとめた
各党の公約を筆者がまとめた

特に立憲民主党は、共産党と連携することで、穏健リベラル層の支持を失ったのではないかと指摘されていますが、安全保障面においても、共産党は日米安保条約の破棄を訴えつつ、辺野古への基地移転中止に加えて普天間飛行場の無条件撤去も主張しており、およそその主張は現実的なものとはいえません。

立憲民主党は、「健全な日米同盟を基軸とした現実的な政策を推進する」とはしているものの、非現実的な政策を訴える共産党と連携したことは、立憲民主党が依然として政権運営を担える政党ではないと思わせるには十分であったと考えられます。

日本の防衛力強化・防衛費増大について

他方で、今回絶対安定多数を確保した自民党や、大きく議席数を伸ばした維新は、GDP1%枠を超える防衛費を訴えております。

背景には大きく防衛費を増大させ、軍事大国への道をひた歩む中国の存在があります。1989年度から2015年度までほぼ毎年2ケタの伸び率を記録する速いペースで増加してきており、公表国防予算の名目上の規模は、1991年度から30年間で約42倍、2011年度から10年間で約2.3倍となっています。

現在の中国の国防費は日本の約4倍にもなり、彼我の差は開く一方です。

防衛白書令和3年度版より抜粋
防衛白書令和3年度版より抜粋

軍事大国である米ロは別としても、ヨーロッパ諸国は2%程度の国が多く、ついには防衛費総額で韓国にも抜かれるという事態となっています。

防衛白書令和3年度版より抜粋
防衛白書令和3年度版より抜粋

日本の防衛予算の対GDP比は世界125位で、G7の最下位となっています。

防衛費1%枠については、1976年の三木内閣で閣議決定した(当時はGNP比)ものの、1987年には中曽根内閣で撤廃しています。にもかかわらず、野党からの批判もあり、依然として1%以内というのは目安として残り続けました。

90年度以降、1%を超えたのはリーマン・ショックの影響でGDPが落ち込んだ2010年度の一度だけであり、直近にいたっても1%を超えておりません。

防衛白書令和3年度版より抜粋
防衛白書令和3年度版より抜粋

もっとも、防衛費というと戦車や戦闘機を買うお金という印象が強いですが、実際には人件費・糧食費が4割を超えており、また、装備品調達や施設整備おいても、複数年度契約に基づいて支払額が確定しており(上の経費別のグラフにおける「歳出化経費」)、単年度予算において自由にできる金額は大きくはありません。

激変する安全保障環境の中で、日本の防衛力強化は重要な論点です。確かに今回の総選挙において、安全保障は必ずしも最大の争点となったとはいえませんが、少なくとも選挙結果だけをみれば、日本の防衛力強化は国民から否定されていないといえるでしょう。

少なくとも2015年に成立した平和安全法制(集団的自衛権を認めた一連の法制度)の是非が大きな争点になることはもはやないでしょう。

第二次岸田政権成立後は、国家安全保障戦略の改定、そして防衛大綱・中期防衛計画の改定が予定されています。今回の選挙結果を受けて、防衛費の増額や敵基地攻撃能力の保有、経済安全保障のあり方などが俎上にのってくると思われます。

弁護士/陸上自衛隊二等陸佐(予備)

弁護士。早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。陸上自衛隊三等陸佐(予備自衛官)。日本安全保障戦略研究所研究員。防衛法学会、戦略法研究会所属。TOKYO MX「モーニングCROSS」、JFN 「Day by Day」などメディア出演多数。近著に『国民を守れない日本の法律』(扶桑社新書)。

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