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いまだ叶わぬ新型コロナの最期の看取り 火葬・葬儀の課題とは

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

はじめに

第5波は高齢者の感染者が少ないため、新型コロナによる致死率が以前ほど高くありませんでした。大阪府の新型コロナの致死率は、第3波2.6%、第4波2.8%、第5波0.2%となっています(1)。

しかし、今でもコロナ病棟で亡くなる事例は複数あり、「どのように家族とお別れを実現するのか」という課題はパンデミックから1年半以上が経過した現在も、残ったままなのです。

実際、新型コロナで亡くなった場合、私たち医療従事者はどのように対応しているでしょうか。またその後の火葬や葬儀はどのように行われているのでしょうか。

新型コロナ患者さんの看取り

コロナ禍では、新型コロナ患者さんに限らず、基本的に病院での面会は禁止されています。一般病棟や緩和ケア病棟などでは、亡くなる直前に少数の家族が病室に入ることが許可されている場合もありますが、面会禁止を徹底してタブレットを用いたオンライン面会のみしか許可していない病院もあります。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

家族にとって重大な喪失である死を乗り越えるプロセスとして、たとえばフィンクによる「危機モデル」があります(図1)。患者さんの状態が良くないという「衝撃」から、そんなはずはない、きっと大丈夫だという「防御的退行」を経て、家族の病状を「承認」し、やがて死に「適応」するという流れです。しかし新型コロナでは、病態が悪化していく患者さんと触れ合うことができず、途中のプロセスがスキップされてしまうことから、否が応でも「適応」せざるを得ない状況になります。

図1. フィンクの危機モデル(看護roo!より使用)
図1. フィンクの危機モデル(看護roo!より使用)

医療従事者としては、家族に少しでも会わせてあげたいのが本心なのですが、面会を容認しすぎて病院内の新型コロナ感染リスクが上がってしまっては元も子もありません。「こういう場合に限っては面会可能とする」と例外があだとなってしまい、蟻の一穴からクラスターが出てしまった病院も複数ありました。

その病院の機能に沿った独自のルールを作りながら、できるだけ患者さんや家族に満足してもらえるよう、医療従事者は日々悩んでいます。

現在多くの病院で導入されているのが、タブレットを用いたオンライン面会です。「タブレットだとさすがに満足できないだろう」と思っていたのですが、最近のタブレットは画質や音質がよく、意外と好評です。実際にタブレット面会をおこなった家族へのアンケート(2)では、「本人の様子が分かってよかった」「今後の心構えをする大切な機会になった」などの意見がありました。また、タブレット会導後の医療スタッフに対するアンケートでは、「患者さんの家族の精神のケアや家族看護の実践の場になった」というポジティブな意見も聞かれました。

新型コロナ患者さんの火葬・葬儀

コロナ禍前までは、どのような患者さんであっても、亡くなる間際に家族との別れの時間を作り、葬儀会社が病院にご遺体を引き取りに来て、家族そろって病院を出ていくのが一般的でした。

しかし、亡くなったのが新型コロナ患者さんの場合、看取った後に看護師がご遺体を納体袋に納めてしまいます。場合によっては、続けざまに棺へ納めてテープで目張りしてしまう病院もあります。個人防護具を提供して、コロナ病棟の中まで患者さん家族が入って来られる取り組みが実現できている病院はかなり少なく、手を握って別れの時間を作ることはまだまだ困難です。

新型コロナは通常発症後10日、人工呼吸器装着患者さんは発症後15日もすれば、感染性がほとんどなくなります。また、お亡くなりになると、飛沫やエアロゾルすら飛ばなくなります。多くの死亡例が発症後10日を超えているため、個人的にはご遺体からの感染リスクは高くないと認識しているのですが、亡くなる時期がまちまちであるため、葬儀会社にとってそう簡単に割り切れる問題ではありません。実際、実際コロナ病棟では、ガイドライン(3)に準じて納体袋に入った状態で顔の部分が見えるようにする処置がよく行われています(図2)。

図2. 納体袋への収容(参考資料3より引用)
図2. 納体袋への収容(参考資料3より引用)

パンデミック当初、新型コロナの患者さんが亡くなった場合、24時間以内に火葬していたところが多かったです(※)。そのため、家族が駆けつけると、もう骨になっているという悲しい話もありました。

※通常、死後24時間以内の火葬が法律で禁止されていますが、指定感染症で死亡した場合は24時間以内でも火葬可能です(3)。すみやかに火葬しなければならないという意味ではありません。

火葬場では、遺族の立ち入りを制限している施設がほとんどです。これはガイドライン(3)に「感染拡大防止の観点から、葬儀会館内等を使用している他の会葬者と動線が重ならないようにすること」と明記されているためです。少数であれば立ち会い可能とする火葬場もあります。

上述したようにご遺体からの感染リスクは高くないため、葬儀会社が適切な感染対策をおこなえば、通常の葬儀も可能と私は思います。

しかし現実的には、ご遺族が濃厚接触者であるケースもあることから、火葬後の収骨も制限されていることが多く、骨箱の受け渡しについても、駐車場で待っている遺族に渡したり葬儀社のスタッフが自宅まで届けたりすることがあります。

葬儀についても、平時のように故人のご遺体との直接対面する形式ではなく、ご遺骨を前にして後日骨葬をおこなうケースが増えているようです。

(参考文献)

(1) 第58回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議(URL:https://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku_keikaku/sarscov2/58kaigi.html

(2) 渡慶次果奈、他.COVID-19 に対する面会制限中の ICU におけるタブレットを使用した面会の導入.第1435回千葉医学会例会/第35回千葉集中治療研究会

(3) 新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000653447.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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