元雪組トップ娘役・朝月希和が語る“宝塚の外”に出て気づいたこと 退団後の初舞台は京本大我と!
13年間を過ごした宝塚歌劇団を、昨年12月に退団した朝月希和さん。入団してからは花組→雪組→花組→雪組と3回の組替えを経験し、歴代2位という長い期間(12年)を経てトップ娘役となりました。宝塚の中でも特異な経験を積み、その都度与えられた課題に真摯に向き合って走り抜けてきた猪突猛進タイプの朝月さんが、宝塚の外に出て気がついたこと、変わったこととは?
―昨年退団されてからどう過ごしていましたか。
在団していた期間も長かったので、まずはゆっくりお休みさせていただき、自分自身を整理する時間を取ることができました。国内旅行はしましたが、海外にまでは行かずじまい。私はタイトなスケジュールの時の方が、いろいろ動くみたいです。
―長年生活していた場所から外に出て、いかがですか。
宝塚とは全然違う世界で、OGの方や同期に話を聞いてもなかなか想像がつかないです。不安もありますがワクワク感もあって、新しくいろいろな方にお会いすることが、すごく自分の刺激になっています。
今までは知っている人とお仕事をしてきましたが、今は現場に行くと「初めまして」の皆様にお会いして、新鮮な日々を送っています。「自分にはできない」と決めつけていたものでも、「できるかもしれない」「やったことはないけど挑戦してみよう」と思うようになるなど、勇気と刺激を与えてもらっています。
―退団後の初舞台が『シェルブールの雨傘』です。
お話をいただいた時は驚きました。(ヒロインの)ジュヌヴィエーヴという役に挑戦させていただけること、宝塚を卒業して新たな第一歩にこんなに素晴らしい作品に携わらせていただけることは、大変光栄でありがたいことだと思います。
―セリフがなく、歌だけの作品になります。
これまで、ショー形式で歌と踊りだけの公演はありましたが、全編歌だけで細かい表現をしていくのは初めてです。歌で会話していくのは本当に難しいと思います。
―相手役(ギイ)を務める京本大我さんの印象は?
『エリザベート』をはじめ、毎年舞台に立たれている美声の方。ビジュアル撮影で初めてお会いしました。私は人見知りしてしまう方ですが、優しく言葉をかけてくださって、撮影になったらパッと切り替えてサッと入られて、おかげで緊張せずに撮影することができました。
京本さんは、歴代雪組トップ娘役(咲妃みゆ・真彩希帆)の方とも共演されているので、同じ雪組でご縁があるなと思い、そのお話もさせていただきながら自分を落ち着かせていました。
―『シェルブールの雨傘』で、朝月さん演じるジュヌヴィエーヴが、ギイ(京本)との子供を妊娠しているにもかかわらず、別の男性と結婚してしまう内容に関して、どう思いますか。
やはり17歳という年齢での2年間は、今の私たちが感じるよりもとても長い時間だと思いますし、ギイはアルジェリア戦争があって兵士として戦地に行ってしまう。本当に帰って来られるかは分からないし手紙も届かない。ギイへの思いがなくなったわけではないけど、子供も産んで育てなくてはいけないから、自分の人生も進めなくてはいけない。戦争という個人では抗えない運命が人生の分岐点になることを、いろいろ考えさせられます。
―朝月さんの雰囲気が、役にとても合っているように感じます。
すぐ怒ったり泣いたり、どんどん切り替わっていくところは似ている部分があるように思います。私自身は、ポジティブそうに見えて実はそうでもないです(笑)。不安症ですね。常に「大丈夫かな」と不安に思っているけど、一歩踏み出したら「やるしかない!」と思いっきり飛び込んで進むタイプです。
―宝塚時代は組替えも多かったですね。
今思うと、あの組替え(花→雪→花→雪)がなければ今の自分はいないと思います。こんなに替わる人は珍しいですけど(笑)、確実に自分を成長させてくれました。そして最後に雪組で過ごした大切な時間。あの時間・経験がなければ、今の自分はいないです。
組替えの度に思ったのは、今自分に必要なことはこの組にあって、これが与えられているということ。今自分にはこれが不足だからこれを頑張れ、ということだと受け入れて、目の前にあるやるべきことに取り組んでいたという感じですね。
―組が替わるのはどんな感覚ですか?
最初に組替えした時は、不安と、皆と離れる寂しさしかありませんでした。宝塚の中でも組が違えば他の組のことは全然知らないので、自分のことを全く知らない組に行くのはとても不安でした。
実際に雪組に行ってやっと馴染んで、自分の雪組での道が見えた時にまた組替えだったので、なぜ今このタイミングなのだろうと、すごく悩みました。でも実際花組に行ったら、上級生の方がたくさん卒業されたタイミングだったので、自分の宝塚での最後は、娘役として学んだことをここで下級生に伝えるべき役割なのだと考えました。
―それが雪組に戻ってトップ娘役に。
まさか雪組でトップ娘役のお話をいただけるとは、本当に思っていませんでした。入団12年目でしたから、歴代2番目に遅いんです。驚きと、お話をいただけたことに対する感謝と、また大好きな雪組の皆さんと舞台が作れる喜び。うれしさ・不安・緊張・責任が一気に来た、最後の雪組への組替えでした。
―トップになると変わりますか。
変わることと、変わらないことがあります。それまでは、自分に与えていただいたお役で、歌・踊りという目の前のことをこなしていく、個人集中でした。
それが、トップ娘役に就任させていただいたら、雪組を率いるトップスター・彩風咲奈さんのお隣に立った時、もっと視野を広くしなくてはいけないということが分かり、周りを感じる力と責任が一気に変わりました。
私なんてダメだ、もうできない、あしたはどうしよう、と思うことが日常茶飯事でしたが、下級生の「きょうも舞台頑張ります!」という明るいパワーに支えられました。彩風咲奈さんの「きょうより、あした!」と毎日前に進んでいかれるお姿を近くで拝見していたのも大きかったと思います。咲さんは、私のことを私以上に知ってくださっている、先生みたいな存在でした。
―外に出て気がついたことは。
自分はジェスチャーで気持ちを伝えがちだということ(笑)。私は気持ちが先行してしまうことが多くて、言葉のセレクトをする前に気持ちが溢れてジェスチャーが多くなってしまうんです。現場に行くと皆さん落ち着いてきちんとお話されるので、今自分に足りない部分だなと感じています。
―退団後に変わられたことはありますか。
自分が着たいお洋服を着るようになりました。宝塚の時は、娘役に合うお洋服や公演のイメージなどを細かく考えていました。当時はあまり着ていませんでしたが、実は私はシャツが大好きで、今はスカートやパンツを合わせて楽しんでいます。
髪は、公演ごとに金髪にしたり黒くしたりしていましたが、今は色も落ち着いています。元々の天然パーマが復活してきて、セットもちょっとコテを加えるだけなので、大分髪質も健康になってきました。
宝塚の舞台ではアクセサリーは手作りしていましたが、外の舞台ではお衣装の一環でご用意いただけますね。
―あの豪華なアクセサリーは自前だったんですか。
服と羽飾りは衣装として用意されますが、アクセサリーはお役として着けたいのであれば、演出家の先生がイメージとバランスを伝えてくださるので、自前で用意します。私はアクセサリーや頭飾りにこだわっていたので、自分でパーツを用意して作っていました。
舞台で着ける結婚指輪も男役さんが自前で用意して、お稽古の時等にお声がけくださり、ピッタリのサイズをくださるんです。すごいのは、手袋をしている衣装なら手袋の厚みに合わせたピッタリのサイズをくださるので、何て素晴らしいんだろうと感動していました。今までにいただいた指輪は家宝として保管してあります。
―今後やりたいことはありますか。
お話をいただいたら何でも積極的に挑戦していきたいですが、体を動かすこと、踊りで表現することが私の原点なので、それは大切に持っていたいと思います。
あとは、(日本物の作品を多く上演した)雪組で大好きになったお着物も、大切にしたいものです。今は『シェルブールの雨傘』にエネルギー満タンで向かっているところです。
【編集後記】
お部屋への出入りの際、真っ直ぐ目を見て大きな声でご挨拶いただきました。インタビュー中も姿勢を崩さず美しいので秘訣を聞いてみると、家でも常に浅く椅子に腰掛け、背もたれは使わないとのこと。ソファーにもめったに座らないそうで、寝転がりたくなればベッドで寝るそうです。日常の丁寧な暮らしぶりが人の雰囲気を作るのだと思い至り、今姿勢を正して椅子に座りながらこの文章を書いています。
■朝月希和(あさづき・きわ)
1月6日生まれ、東京都出身。2008年、宝塚音楽学校入学。2010年、宝塚歌劇団96期生として入団、花組に配属。2017年「MY HERO」でWヒロインを務め、同年8月、雪組へ組替え。2019年に古巣の花組に組替えをし、2020年「マスカレード・ホテル」で初ヒロインを務め、同年再び雪組へ組替え。2021年、雪組トップ娘役就任。彩風咲奈の相手役として、同年の「CITY HUNTER/Fire Fever!」でトップコンビ大劇場お披露目。2022年12月「蒼穹の昴」東京公演千秋楽をもって、宝塚歌劇団を退団。『シェルブールの雨傘』は東京・新橋演舞場(11/4~26)、大阪松竹座(12/3~10)、広島文化学園HBGホール(12/14~16)にて上演予定。