Yahoo!ニュース

「スペンス対クロフォード戦は実現する」 元世界王者ポーターがウェルター級戦線を展望

杉浦大介スポーツライター
Amanda Westcott/SHOWTIME

4月16日 テキサス州アーリントン AT&Tスタジアム

WBC、WBAスーパー、IBF世界ウェルター級タイトル戦

WBC、IBF同級王者

エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ/32歳/28-0, 22KOs) 

TKO10回1分44秒

WBAスーパー王者

ヨルデニス・ウガス(キューバ/35歳/27-5, 12KOs)

 スペンスが無敗のままウェルター級3団体統一王者にーーー。テキサス州の巨大スタジアムに4万人近い大観衆を集めて行われたチャンピオン同士の対戦は、パワー、手数、若さで勝るスペンスに凱歌が上がった。前戦でマニー・パッキャオ(フィリピン)を下してこの試合に進んできたウガスも、6ラウンドにスペンスをロープ際に弾き飛ばす見せ場を作り、戦いは盛り上がった。

 試合後、元WBC、IBF世界ウェルター級王者であり、現役時代にはスペンス(判定負け)、ウガス(判定勝ち)の両方と対戦経験があるショーン・ポーター(アメリカ)にこの試合を分析してもらった。

 34歳の元王者の目に、メガケーブル局のショータイムがPPV中継した今回の激戦はどう映ったか。そして、昨秋にはWBO王者テレンス・クロフォード(アメリカ)とも対戦して10回TKO負けを喫したポーターは、ファンが待望するスペンス対クロフォード戦の実現の可能性をどう見ているのか。

勝負の鍵は手数と距離

 スペンス対ウガス戦は素晴らしい試合でした。2022年の年間最高試合に選ばれるんじゃないでしょうか。これから先も多くの好ファイトが生まれるでしょうけど、この試合を超えるのは難しいのではないかと思います。

 両選手ともに良い戦いをしたおかげで、ハイレベルの試合になりました。2人ともやるべきことをやり、より強く、技術的にも優れ、しっかりとした準備を積んできた選手が勝ち残ったということ。試合前の私はスペンスの判定勝ちを予想していましたが、目の負傷による終盤TKOという結果にも驚きはありませんでした。ラウンドを重ねるにつれてスペンスが力強さを増していったという印象があり、それこそが私が予期していたことでした。

 勝負の鍵を挙げるなら、スペンスが精力的により多くの手数を出していったことだったと思います。ウガスはガードを高く上げ、相手の強打を受け止め、その後にパンチを出すタイプの選手。スペンスは絶えずパンチを出し続け、自身が攻めた際にカウンターを取られることを嫌うウガスに反撃の隙を与えないようにしたんです。

 序盤ラウンド、ウガスは遠い距離からパンチを出すことで一定の成功を収めました。ところが、中盤以降はスペンスが手数を出しながら距離を詰めたことで、ウガスのアドバンテージは消失したのです。それと同時にウガスは片目が腫れ始め、おかげで余計に手数が減り、ジリ貧になっていきました。

Amanda Westcott/SHOWTIME
Amanda Westcott/SHOWTIME

 6回、ウガスの右でスペンスはマウスピースを弾き飛ばされ、直後、マウスピースの方に注意がいってしまいました。本来ならばレフェリーが試合を止めるまではそのまま戦い続けなければならないところを、集中を欠いたために追い討ちのパンチを浴びてしまったというわけです。

 これまでそんな経験を味わったことがなかったので、適切に反応できなかったのでしょう。経験は大事だということ。スペンスは、ウガスの追撃を浴びて少し効いたようにも見えましたが、すぐに回復して打たれ強さも示しました。

ウェルター級最終決戦の行方

 こういった山場もあったため、ファンを喜ばせる展開になり、最後まで激しい戦いが続きました。エリートファイター同士が直接対決すれば、このようにスリリングな戦いになるもの。強敵相手の試練の中で、それぞれの選手たちの真価も証明されます。ボクシング界ではこんな試合がもっと組まれるべきなのです。

 試合後、スペンスはリング上でクロフォードとの対戦希望を表明しました。お約束の発言と思った人もいたかもしれませんが、私はスペンスは本気だったと思っています。クロフォードと戦う準備は整った今、4団体統一戦以外の試合は望んでいないはずです。

 これほどのビッグファイトを組むためにはビジネス面で理に叶う必要がありますが、これまではどちらかにまだ他に戦うべき相手がいました。ただ、ついにそうではなくなり、ウェルター級にはもうお互いに適切な対戦相手はほとんど残っていません。スペンス対クロフォード戦はいよいよ実現すると私は思っています。

 スペンス対クロフォード戦はすごい試合になるでしょうね。ほとんどすべてのラウンドが際どい打ち合いになるんじゃないでしょうか。

 先ほど、今年の年間最高試合はスペンス対ウガス戦で決まりだと言いました。ただ、今年中にスペンス対クロフォード戦が挙行された場合、私の意見も変わるかもしれません。ファンは見応えのある試合を楽しむことができそうですね。すでに引退し、ボクシングファンの1人になった私も、これからのウェルター級戦線の行方を楽しみにしていますよ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事