大ヒット『葬送のフリーレン』の主人公はエルフ。彼女の時間感覚では、人間の一生はわずか半年!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
2023年9月29日の「金曜ロードショー」は『葬送のフリーレン』2時間スペシャルだった。
これがテレビアニメの第1回で、2回目以降は翌週の午後11時からの新しいアニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT 」で放送されることとなった。
この時点で、半年間(2クール)の放送まで決定していたから、日テレがどれほど力を入れていたかがわかる。
そして、多くの人の期待どおり、このアニメは大ヒットとなった。
原作は「週刊少年サンデー」の連載『葬送のフリーレン』で、この作品はなんと、勇者たちが魔王を倒し、10年の旅から帰ってきたところから始まる。
一行のメンバーは、勇者ヒンメル、戦士アイゼン、僧侶ハイター、そして魔法使いフリーレンの4人。
ヒンメルが「僕たちの冒険はこれで終わりだ」とパーティーの解散を告げ、「楽しかったよ。僕は君たちと冒険ができてよかった」と礼を言うと、フリーレンが「短い間だったけどね」と答える。
ヒンメルは「短い? 何を言っているんだ? 10年だぞ?」。
そう、フリーレンは時間の感覚がヒンメルとは違っていた。
見た目は人間の少女のようなフリーレンだが、彼女はエルフなのだ。
エルフはとても長命な生き物で、ヒンメルたちも彼女がどれほど前から生きているのかを知らない。
フリーレンも詳しく話さなかったようで、彼女が「100年くらいは中央諸国を巡る」と去っていくのを見送りながら、ヒンメルとハイターは「50年も100年も 彼女にとっては 些細なものなのかもしれないね」とつぶやくのだった。
――そんな4人が再会したのは、それから50年後。
勇者ヒンメルはすっかり禿げ上がった老人になっていた。
変わらないのはフリーレンだけで、アイゼンもハイターも年老いていた。
4人は短い旅をするが、その後しばらくしてヒンメルは亡くなってしまう。
彼の葬儀のとき、フリーレンは「たった10年 一緒に旅しただけだし…」と平静を装おうとしたが、気づくと大粒の涙を流していた。
自分と違って、人間の寿命は短い。それゆえに人間とは深く関わろうとしなかったフリーレンだが、このとき初めて「…人間の寿命は短いってわかってたのに…」「…なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…」と後悔する。
そして、人間を知るための旅に出る。事件に遭遇し、人の言葉を聞くたびに、彼女はヒンメルのことを思い出しながら、死者と話せる「天国」のある土地をめざす。
『葬送のフリーレン』は、このようなとても優しい物語だ。
◆フリーレンは何歳だろう?
エルフのフリーレンの寿命は、いったいどのくらいなのだろうか?
彼女の旅が本格的に始まるのは、勇者ヒンメルの死から26年後のことであり、その時点で魔王退治の旅が終わってから76年も経っていたことになる。
だが、フリーレンの容姿はまったく変わらず、いつまでも少女のままだ。
花を探すために同じ村に半年滞在したり、ホテルに入って「10年泊まりたいから仕事紹介して」と言ってみたり……と、彼女のなかで、時間はとてもゆっくり流れているようだ。
一方で、おいしいレストランがあると、驚くほどの量を食いだめしようとする。
「また来ればいい」と思っているうちに、店のシェフが亡くなってしまい、「二度と食べられなくなった味が沢山あるから」だという。
またフリーレンは「最後に同族と会ったのも400年以上前」と言い、ヒンメルがパーティーに誘ったときは「もう五百年以上 魔族との実戦はやってない」と断ろうとした。
極めつけは、コミックス第1巻の「フリーレンが師匠のフランメといっしょに木を植えている」回想シーンで、なんとそれが千年前……!
このフランメという師匠は人間の魔法使いで、もうとっくに亡くなっており、それどころか戦士アイゼンに「人類の魔法の開祖。フランメ自体がおとぎ話のようなものだ」と言われていた。
おとぎ話のような人といっしょに木を植えたヒトが、いまでも少女。
驚くべき話である。
そんなフリーレンは、千年にわたって魔法の鍛錬を続けてきた。
断頭台のアウラ(魔族)との戦いでは、アウラが「私は五百年以上生きた大魔族だ」と威圧してきたのに対して、「アウラ、お前の前にいるのは、千年以上生きた魔法使いだ」と軽く返して、一蹴。
フランメの師匠のゼーリエ(エルフなので存命)も、フリーレンを「最後の大魔法使い」と認め、魔族たちは「歴史上で最も多くの魔族を葬った魔法使い」「葬送のフリーレン」と恐れている。
◆エルフにとって人間の一生とは?
それにしても、千年とは長い。
2023年から遡ると、千年前とは西暦1023年。日本では藤原道長が「この世をばわが世とぞ思ふ」と栄華を誇り、『源氏物語』や『枕草子』が完成した頃。
ヨーロッパでは神聖ローマ帝国が興り、イギリスにはまだ国家と呼べる体制はなかった時代。そんな昔から今日まで魔法の鍛錬を続けてきた……というのだから。
作中の描写では、初めてフランメに会ったときのフリーレンは、10歳ほどにも見える。
ヒンメルたちと旅をしていた頃から現在までの姿は、15歳くらいだろうか。
この場合、フリーレンは、外見が5歳分成長するのに千年かかったことになる。
ここから考えると、成長にかかる時間は人間の200倍!
すると、いま15歳に見えるフリーレンの生まれは3千年前!
彼女が、人間で100歳に相当するまで生きるとするならば、エルフの寿命は2万年……!
オソロシイほど長寿だが、逆にエルフからすれば、人間は自分の200分の1の時間で一生を駆け抜けてしまうわけである。
人間から見たら半年で死ぬようなもので、そういう哺乳類はなかなかいない。
短命といわれるネズミやハムスターも、1~2年は生きる。
フリーレンが一人旅をしようとしているとき、戦士アイゼンに「弟子を取ったりはしないのか? 旅は話し相手がいたほうがいい」と言われたのに対して、彼女は「時間の無駄だからね。色々 教えても すぐ死んじゃうでしょ」と答えていたが、実感としては本当にそうなのだろう。
時間感覚が200倍違うとしたら、フリーレンにとって、人間の1日は7分弱、1年は2日弱に感じられるはずだ。
ヒンメルとの10年の旅も、フリーレンの感覚では「18日とちょっと」でしかない。
なるほど、確かに「短い間」だ。
ここまで時間感覚が違う人間と、よくぞいっしょに戦ったものである。
しかも、2万年というこの妄想的推測すら、エルフの実像には追いつかないかもしれない。
ゼーリエがなんと「私たちの時間は永遠に近い」と言っているのだ。
ひょっとしたら、10億年後といわれる地球滅亡も、50億年後と予測される太陽の膨張と消滅も、フリーレンはその目でしっかり見届けるのかも……。
さまざまな想像が湧くエルフの長寿であり、具体的に考えれば考えるほど、ちょっと切なくもなってくる。