世界に誇るニッポンの「マンガデザイン」 人気の秘密はアイデアとストーリー
日本の代表的な文化で、海外でもそのままの日本語で通じる「マンガ(Manga)」をグラフィックデザインに応用した「マンガデザイン」。2020年の東京五輪・パラリンピックが近づく中、新たなコミュニケーション手法として注目されているマンガデザインを集めた展覧会が、大阪・あべのハルカス内の大阪芸術大学スカイキャンパスで開かれています。
それは、大阪芸術大学デザイン学科や在シンガポール日本国大使館などが主催する「世界をつなぐマンガデザイン展 in OSAKA」です。元電通社員で同大の客員教授、吉良俊彦さんが2011年に設立したマンガデザイナーズラボが、これまでに手掛けた58社・団体の広告作品など約75点が展示されています。
マンガデザインとは、具体的にはマンガの強み、豊富な情報量やスピーディーな伝達力、キャラクターが織りなすドラマ展開、分かりやすさなどを生かしたグラフィックデザインです。言葉で説明するだけでは難しい製品やサービスも、マンガなら、より伝わりやすくなります。
マンガ雑誌の裏表紙などに掲載される「日ペンの美子ちゃん」などマンガを使った広告は、以前からありました。しかし近年、日本のマンガが現地の言葉に翻訳されて販売されるなど、世界で広がっていることから、マンガは言語を超える新しい表現として期待されているのです。
吉良さんは「マンガのすごさは、言葉を絵にしちゃうこと。昔からあるマンガと、昔からあるグラフィックデザインがつながったものがマンガデザイン」と話します。マンガ家は自身が独自に創作した作品を発表しますが、マンガデザイナーは、行政や企業など広告主の求めに応じて、マンガデザインを制作します。
アイデアが決め手のマンガデザイン、「最後の平成カレンダー」も
今回の展示はデザイナーではなく、マンガデザインという手法に焦点を当てているため、観光案内やイベント告知、交通や化粧品といった商品・サービスのPRなど行政や企業、団体が伝えたい内容や、描き手によって、作風はバラバラ。それゆえに、いろいろな表現方法が楽しめます。吹き出しが英語や中国語で書かれた広告も、なんとなく内容が伝わってきます。
吉良さんがマンガデザインを手掛けるうえで大切にしているのが「アイデア」です。「(広告主から)言われたものを描く時代は終わり。自分なりのアイデアをどうやって生み出すのかがめちゃくちゃ重要になります」(吉良さん)
そんな吉良さんの考えは、作品にも反映されています。今回の展示で初めて公開されたドイグロジャパンの「最後の平成カレンダー」は、「平成」最後の1年間、2018年5月から19年4月までのカレンダーです。各月のページにはコンビナートの絵が描かれ、平成のその月に国内や海外で起こった出来事が書き込まれています。平成時代に思いをはせるツールとしても面白いです。
プロサッカーチーム、川崎フロンターレの次節ホームゲーム告知ポスターにも、工夫が凝らされています。試合を重ねるごとに変わる状況を踏まえて、選手のやり取りが描かれているのです。
また、吉良さんはマンガ家志望の学生の受け皿として、マンガデザインが果たす役割にも期待しています。「マンガを描くのがうまい学生がいても、卒業後の就職先がない。この才能を生かせない仕組みを変えなきゃだめです。マンガデザインで、学生たちの絵を生かしたい」と話します。
世界をつなぐマンガデザイン展は、6月24日まであべのハルカスで開かれ、7月以降、中国・上海やシンガポールでも開催される予定です。「外国人に何かを伝える時には、マンガを使った手法が絶対必要になってくる。エロ・グロ・ナンセンスなしの明るいマンガを日本と海外との友好のかけ橋にしたい」(吉良さん)
入場料300円(大阪芸術大学グループの学生、高校生以下は無料)。6月10日に大阪芸大の卒業生によるトークイベント、24日には劇団四季を運営する四季の吉田智誉樹社長、技術・劇場担当の近藤建吾取締役の特別講義など、週末ごとに催しも企画されています。
日本発のマンガデザインが、これからどのような広がりを見せるのか、期待が高まります。
撮影=筆者