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三木谷オーナー介入&田代コーチ辞任「カネは出すが口は出さず」が理想のオーナーか?

豊浦彰太郎Baseball Writer

楽天の田代富雄打撃コーチの辞任をきっかけに、三木谷浩史球団オーナーの現場介入が波紋を呼んでいる。しかし、大騒ぎするほどのことかな?とも思う。球団経営者が現場に口出しすることはそもそもいくらでも前例がある。他球団であれ、メジャーリーグであれ同様だ。

日本では、「カネは出すが口は出さない」というのがオーナーの理想像だとされている。しかし、これは現場サイドからの都合による価値観で、少なくともぼくは同意見ではない。カネを出す限り、その人物の発言は尊重されねばならないし、「カネを出すだけ」の経営者は組織をダメにすると思う。

一方、経営者が現場に口を出してはならぬとするほど、NPBはユニフォーム組とフロントオフィスと経営者の役割分担が明確になっているのかと言いたい。もし、それが明確なら今季オリックスの森脇浩司監督は「休養」などする必要はないし、西武の田辺徳雄監督は「解雇」されても良いと思う。

本件は、楽天球団の母体が時代の先端を行くと思われているIT企業だから、ということに加え、田代コーチがシーズン途中でありながら辞任を選択したことで、大きな話題となったが、ぼくは彼の辞任は大騒ぎするほどのことでもないと思う。

人間というものは、だれでも(それがプロ野球選手やコーチという個人事業主でも)組織で働いている限りは(その是非は別にして)理不尽な状況が付いて回るものだ。ぼくは、組織人の処世術の究極は「表面張力」だと思っている。

ぼくも、そしておそらくあなたも、組織人である限りはいやな上司や納得しかねる評価などの苦労に囲まれているはずだ。しかし、それらは組織で生きる以上はある程度織り込み済でならねばならず、細かいことにいちいち口を出す上役に都度ブチ切れていては日々を過ごせない。そんな不満も自分が受けている待遇ややりがいとのバランスで許容範囲であれば、ぶつくさ言わずに自分の役割のみを全うせよ、と言いたい。そして、不満という名の水が表面張力を超えてコップから溢れてきたならとっとと辞めれば良い。田代コーチも含め、だれにでもその権利がある。それだけだ。

それが、監督であれフロントのGMであれ、いわんやオーナーであれ、本来自分の責任範囲と思われる事項に上司に介入され不快な思いをしているコーチはいくらでもいるだろう。田代コーチもその中の1人にすぎない。そして、彼の場合は表面張力を超えたというだけだ。

ちなみに、「コップ」の大きさは個人により異なる。水があふれ出したからと言って、コップの容量が一定だという前提で物事を見るべきではないだろう。また、同じ事象に対してそれをどれだけ「不満」を感じるかも相対的なものだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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