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『観光客ほとんど来ません…』京都で見つけた地元民に愛される町中華【誠養軒】

町乃華菜子町中華愛好家

京都と言えば日本を代表する観光スポット。歴史的建造物や街並み、名物グルメを目当てに外国人観光客にも人気の観光地だ。そんな京都の街で観光客がほとんど訪れない町中華がある。北野天満宮の近くに店を構える1970年創業の『誠養軒』だ。大阪万博があった年に暖簾を出して以来54年もの間、地元民に根強く愛されている。

『観光客ほとんど来ません…』

誠養軒は創業当時の姿を守っている。長年にわたり営業してきた店構えや店内は、お世辞にも綺麗とは言えない。その趣ある雰囲気を写真だけ撮影して帰る人もいるそうだ。
『観光客ほとんど来ません…』と話を聞かせてくださったのは二代目の高田敬さん。誠養軒が開店して3年ほど経った19歳で店に入り、先代の父の手伝いを始めた。現在は一人で店を守っている。

資本金3千円から始まった町中華

先代は婦人下着を販売する店を営んでいた。婦人下着は戦後の京都の街で発展していき、今でも有名企業が本社を置く。業績が厳しくなり店を畳んだが、縁あって中華そば屋台の親方から店をやってみないかと声がかかった。それをきっかけに中華そば屋を始めた。資本金3千円を元手に、修行することもなく店を出した。開店から3日間だけ親方が弟子を手伝いに出してくれた。それを見よう見まねで学び、中華そばの作り方を覚えた。

注文が入ってから包む焼き餃子

一皿に8個ものった焼き餃子は注文が入ってから包んでいる。軽くつまめるふんわりとした野菜がメインの優しい餃子。特徴的なのは薄い皮。焼き目はパリッとしているが、全体的にへにゃっと柔らかい。

焼き餃子450円※お酒は二十歳になってから
焼き餃子450円※お酒は二十歳になってから

京都は野菜を多く使った餡の餃子を出す店が多いそうだ。

自慢の中華そば

この店でしか食べられないオリジナルの料理がある。『白梅麺』(790円)と『紅梅麵』(790円)と名付けられた中華そばがある。白梅麵は炊いた豚肉に梅肉が、紅梅麵は鶏肉に梅肉が添えられている。店の近くの北野天満宮に祀られる菅原道真が愛した花の梅苑があり、この地域に白梅町の地名もある。土地にちなんだ名前の自慢の中華そばを出している。
中華そばの決め手になるスープは『血抜きした豚と鶏を鍋にほうりこんだだけ』と話す。継ぎ足さず毎朝その日に出すスープを仕込んでいる。

チャーハンも人気メニュー

玉子がふんわりと炒められたチャーハンも人気メニュー。玉ねぎが入った甘さのある優しい味わい。餃子や中華そばと食べたくなる。

チャーハン710円
チャーハン710円

誠養軒の魅力

『こだわりなんてありません』と面白おかしく話す。店外に置かれたケースには、種類豊富にさまざまな銘柄のビールが揃えられている。客の好みに寄り添った思いやりを感じる。初めて来たであろう客にも気さくに話しかけ、あっと言う間に打ち解ける。店主の愛嬌も誠養軒の魅力となっている。

店内のメニュー表には"毎日やる気が無くなり次第、帰ります"とある。人との壁を作らず、ゆるく面白おかしく話す人柄がにじみ出ている。以前は日付が変わっても店を開けていたそうだ。現在は最終バスが到着する22時頃まで店を開けている。それも馴染み客の帰りを待つ優しさだと感じた。

高田さんは生まれ育った京都の街や歴史を重んじている。この地域の観光スポットや、神社仏閣の魅力や歴史を詳しく話してくれる。
残念ながら店の後継者はいないそうだ。たじろいでしまいそうな渋い外観からは、想像できない魅力ある町中華だと思う。京都旅行に訪れた際に、勇気を出して誠養軒の暖簾をくぐってみてはいかがだろうか。陽気な店主があたたかく出迎えてくれるだろう。

※価格は取材当時のものです。

【店舗情報】
誠養軒
京都府京都市上京区新建町10
営業時間 12:00〜22:00
(毎日やる気が無くなり次第、帰ります)
月曜日定休(25日の月曜日は営業)

町中華愛好家

味わいある 『町中華』や食堂を巡る体験記。東京近郊の人気店から、常連客が通う隠れた名店を巡る。”日式中華”の文化や魅力、店主の想いを伝えて行きたい。Instagramで町中華での食事の記録を発信中。

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