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デジタル時代こそ成長するアナログ半導体

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

マキシム、といってもコーヒー会社ではない。創業33年目を迎えた米国の中堅アナログおよびミクストシグナル半導体企業である。「あれっ、デジタル時代なのにアナログで商売しているの?」と思う人がいるかもしれない。実はデジタル時代こそ、アナログ半導体をたくさん使うのである。なぜか?

私たちがスマートフォンやタブレットを使ってデジタル時代全盛と思いがちだが、ページをめくる動作や、拡大・縮小のピンチオフ・オン動作はアナログ回路でできている。画面を90度傾けるとスクリーンの中のコンテンツも一緒に90度回転してくれるのもアナログ回路だ。iPhoneではデフォルトで内蔵されているハートマークのアイコンの歩数計もアナログ回路。要は私たちが身近に楽しさを感じて、いわゆる「ユーザーエクスペリエンス」と呼ばれる機能はほとんどがアナログ回路でできている。スマホは3.6Vのリチウムイオン電池1個で動作するが、搭載されている半導体には1.2Vで動作するチップだけではない。電源電圧が3.3V、5V、7Vなど、ICによって全く異なる。だからこそ、DC-DCコンバータと呼ばれる電源ICが必要で、これもアナログ半導体である。1チップで10種類の電源を出力するDC-DCコンバータもある。

実は、デジタル時代の進展と共にアナログICの出荷数量がデジタルICよりも増えているのだ(図1)。1980年のはじめから半ばにかけて、これからデジタルエレクトロニクスの時代が始まる、と米国のElectronics誌をはじめElectronic Design誌や、EDN誌、80年代半ば創刊のEE Times誌などが盛んに書き立てた。ところが現実のICの出荷数量はアナログICの方がデジタルICを徐々に凌駕していく、という現象が起きている。

図1 アナログICがデジタルICを毎年、浸食してくる 出典:IC Insights
図1 アナログICがデジタルICを毎年、浸食してくる 出典:IC Insights

これはどういうことか。今はデジタル回路といっても、全てANDやOR、NOTなどの論理記号だけで回路を構成する訳ではない。CPUとメモリ、周辺回路、I/Oインタフェース回路などから構成される「組み込みシステム」を中心にするようになっている。CPUとメモリはデジタル回路だが、I/Oインタフェースや周辺回路の一部はアナログ回路である。さらに、デジタル回路に入る前の人間とのインタフェースやセンサとのインタフェースはアナログそのものだ。しかも、回路を動かす電源回路もアナログである。デジタル機器に入っているICの数を比べるとおそらくアナログICの方が多いかもしれない。

私たちの身の回りのデジカメやスマホ、テレビなどのデジタル製品の中身はアナログICが多い。だからこそ、アナログICはビジネスになる。マキシム(Maxim Integrated)社は、1983年創業で、本社をカリフォルニア州サンノゼ市に置く。いわゆるシリコンバレーのど真ん中にある。創業時にアナログICにフォーカスした点で、リニアテクノロジー(Linear Technology)社とも共通している。アナログ半導体でトップを行くテキサスインスツルメンツ(Texas Instruments)社やアナログデバイセズ(Analog Devices)社の歴史はもっと古く、デジタルエレクトロニクス時代から着実にビジネスを広げてきた。

マキシムは、これからの成長産業として、カーエレクトロニクスへとシフトしてきた。自動車用半導体を伸ばしてきた(図2)。なぜクルマの世界にやってきたのか。自動車用アナログ半導体の市場規模(ユニバース)は2015年に87億ドルと、スマホ用アナログ半導体の86億ドルとほぼ同程度だが、2018年にはスマホ用が89億ドルに対して自動車用は102億ドルと大きく成長すると見ているからだ。

図2 マキシムは自動車用アナログ半導体と共に成長してきた
図2 マキシムは自動車用アナログ半導体と共に成長してきた

自動車用のアナログ半導体はなぜ期待されているのか。自動車部品がメカニカルからシリコン半導体へと切り替わっているからだ。機械や機構部品は常に擦れ合い、摩耗し、何度も折り曲げられるとポロリと切断してしまうことが多く、寿命は半導体ほど長くない。信頼性と品質の高さが求められる自動車部品では、半導体の丈夫さにはメカエンジニアは舌を巻いたことがかつての取材であった。

半導体のメリットはそれだけではない。機械ではできない、例えば死角をなくしたり、前方を走るクルマや横から飛び出す自転車や人間を認識したりすることも半導体ならできる。前方に障害物を見つけて止まってくれる自動ブレーキシステムはアナログ半導体なしでは実現できない。内燃エンジンからハイブリッド車や電気自動車では文字通りバッテリの電気量を半導体が調整してモーターを制御する。ヘッドランプやテールランプは、光る半導体であるLEDに変わりつつある。このLEDへ電気を供給するのもアナログ半導体である。ボタンひとつでクルマのドアを開けるキーレスエントリもアナログ半導体が多く使われている。安全を高める機能にもアナログ半導体が多用される。枚挙にいとまがないほど半導体を使う事例は多い。

また、米国の自動車と比べると日本車はカーエレクトロニクスで進んでいる。だからマキシムの日本法人への本社からの期待は大きい。トヨタ、ホンダ、日産、スズキ、富士重工など日本を代表する自動車メーカーは皆、カーエレクトロニクスを推進しており、ここではデジタルに加えアナログ半導体も伸び続けている。

(2016/03/25)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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