「家族でないとわからない世界」障がいのある兄弟姉妹を持つ「きょうだい」の知られざる苦悩を映像化
障がい者の「きょうだい」の葛藤を描いた自主製作映画『ふたり~あなたという光~』が、6月11日の1日限定で劇場上映され、16日から動画サービスでも配信される。
「きょうだい」とは、障がいや疾病のある兄弟姉妹を持つ人たちのことをいう。1人の障がい者に対して、2人以上のきょうだいがいるケースもあり、障がい者の数は全国に約1000万人と推計されていることを考えると、障がい者とほぼ同じ1000万人のきょうだいがいるともいわれている。しかし、こうした障がい者の兄弟姉妹であるきょうだいの苦悩については、家族の中の話をなかなか外に言いたがらないため、メディアなどで取り上げられることもほとんどない。
この映画は、そんなきょうだい当事者である「きょうだい映画製作委員会」代表の三間瞳さんが、自らの体験をもとにクラウドファンディングを利用して自主製作したもので、大人になったきょうだいが結婚を機に直面する苦悩や課題を映像化した貴重な作品だ。
統合失調症の妹・希栄は、言葉を発しない。ある日、希栄と両親と一緒に暮らす姉ののぞみに、結婚話が持ち上がる。
「希栄がいたら、結婚がダメになることがあるでしょ?」「相手のご両親がどう思うの?」と心配する母親に、のぞみは「お母さん、私には、私の人生があるの。気づいてくれてた?」と問いかける。
一方で父親は、希栄が自宅で暴れて姉が助けを求めても、「仕事で忙しいんだ」と言って電話を切る。
いなくなってくれればいいのに
「ごめん。隠してたわけじゃないんだけど。幻聴が聞こえたり、妄想したり、突然暴れたり、逃げ出したりもする」
そう恐る恐る妹の存在を打ち明けるのぞみに、婚約者の崇は尋ねる。
「いつも、その状態なの?」
「調子のいいときと、悪いときがあって…」
もちろん統合失調症にも働けるくらいまで回復する人たちもいて、個人差がある。しかし、希栄の状態は「20年続いているから、難しい」と言うのぞみ。
崇が困惑して言う。
「何と言っていいのかわからない」
のぞみは思わずこう続ける。
「ごめん」
結婚相手に謝ることしかできずにいる姉。そして、婚約者が初めてきょうだいの自宅にあいさつに来たときの修羅場は、林真理子さんの著書『小説8050』に描かれていたシーンを彷彿とさせる。
「いなくなってくれればいいのに…」
そんな、のぞみのつぶやきは、筆者の元に寄せられるきょうだいからの相談の中でも時々出てくる本音の部分だ。しかし、こうしたきょうだいの愚痴などを吐ける受け皿や支援制度は十分に整備されているわけではないし、親戚などの周囲の理解も進んでいない。もしどこにも相談できずに追いつめられれば、その矛先は、障がいを抱える本人に向けられることになり、実際、命や尊厳が脅かされるトラブルも起こっている。
そうした現実は、「もし親が亡くなったら、私はきょうだいの依頼した引き出し業者によって、家から追い出されるのではないか…」などと、本人も不安や疑心暗鬼を募らせる要因になっていて、きょうだいとの「持ち家問題」にもつながっていく。
「ああいうことはね、うちでは日常茶飯事なの」
のぞみが婚約者に語りかける言葉には、すべての思いが込められていると三間さんはいう。
「自分自身のストーリーに近い作品。何が起こるかわからない不安感の中で、毎日緊張感がある。約40分の時間で伝えられることは限られていますが、家族でないとわからない世界、抱えている葛藤を映像化することで知ってもらいたかった。自分の周りにもいたのではないかということを気づいてもらいたかったんです」
障がい者の姉、のぞみを演じた中西美帆さんは、「これまで知らなかったことを知りました。社会全体で1人1人の意識が変われば、もっときょうだいの方や障がい者のいる家族の人たちが過ごしやすい未来が作れるのではないかと、今は思っています」
また、妹の希栄を演じた納葉さんは、実際に三間さんの妹にも面会したという。
「統合を失調する状態がどういう状態なのかを常に考えながら演じました」
佐藤陽子監督は、「家族の中の話はなかなか外には言いたがらない。リアリティがないと伝わらないので、統合失調症の人たちの情報を集めました」と話し、三間さんの話を基に細かな描写を入れたという。
同映画は、6月11日(日)15:30~高円寺シアターバッカスにて、1日限定で劇場上映され、6月16日から、定額制動画配信サービス「U-NEXT」でも配信される。