新変異株への不安が大きな実影響を…2022年1月景気ウォッチャー調査
現状は下落、先行きも下落
内閣府は2022年2月8日付で2022年1月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、持ち直しに弱さがみられる。先行きについては、持ち直しへの期待がある一方、コスト上昇等や内外の感染症の動向に対する懸念がみられる」と示された。
2022年1月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス19.6ポイントの37.9。
→原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは35.9。
→詳細項目は全項目で下落。「飲食関連」のマイナス39.8ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス7.8ポイントの42.5。
→原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは43.6。
→詳細項目は全項目が下落。「雇用関連」のマイナス9.2ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は皆無。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年1月では新型コロナウイルスのオミクロン変異株が猛威を振るい、新規感染者数は激増を示し、複数の地域でまん延防止等重点措置が発出されるようになったこともあり、人や物の動きは大いに減退。それを反映し、大きな下落を示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2022年1月では新型コロナウイルスのオミクロン変異株にかかわる国内外情勢への懸念や、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足による不安が強く、下落を示している。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2022年1月は新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響によると思われる新規感染者数の大幅増加や、それに伴い複数の地域でまん延防止等重点措置が発出され、人や物の動きが減少した実情を反映する形で、全体では前回月比で大きなマイナスを示している。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は皆無。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は皆無。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の猛威への不安が強まっており、さらに半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰による懸念が足を引っ張る形となっている。
現状の大きな影響、先行きの不透明さ、そして物不足の足かせ
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・新型コロナウイルスオミクロン株の感染拡大により小学校などの休校が相次いでいる。昼食需要として冷凍食品、カップ麺、菓子パンなどが急に売れ出した(スーパー)。
・1月中旬までは、気温の低下などで、来客数は前年を上回るペースで推移し、防寒衣料やグッズなどの動きも活発であった。ただし、月後半は新型コロナウイルスオミクロン株の感染が急拡大した影響で、特に年配層の来客数が明らかに減少した。レストランの予約キャンセルなど、消費減退の具体的な動きが発生している(百貨店)。
・新型コロナウイルスオミクロン株による感染拡大の影響が大きく、せっかく盛り返してきた旅客の動きも減少に転じている。イベントの中止も徐々に発表されている(旅行代理店)。
・1月上旬は、東京都内の新型コロナウイルス感染者数がかなり増えたが、その割には週末の夜もそれほど変わりなく客が来店してくれていた。やはりまん延防止等重点措置が適用されてからは、週末の予約も立て続けにキャンセルとなり、予約数がゼロとなってしまったので、また飲食店は厳しい状態になっている(一般レストラン)。
■先行き
・3回目のワクチン接種や経口薬などにより、新規感染者数は新年度までには落ち着き、春物消費の最盛期には活発に動くと期待している(百貨店)。
・春には食品の値上げも予定されている。賃金が上がらず、値上げが進む状況では、景気がよくなる可能性はほとんどない(スーパー)。
・新規感染者数がピークアウトすれば、景気も回復し始めるとみているが、時期については不透明である(観光型ホテル)。
・まん延防止等重点措置が解除されるまでは人の動きは少なくなる。また、新型コロナウイルスオミクロン株の新規感染者数が更に増加した場合、再度緊急事態宣言が発出されれば、当面景気の回復は見込めない(コンビニ)。
新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいるものの、それを打ち消すかのようなオミクロン変異株の猛威が、現状ですでに大きな影を落とし、将来にわたる不安感を掻き立てている実情が確認できる。特に先行きでは見通しが立たない実情が、不安感を大きなものとしているようである。
企業動向でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
■現状
・受注量が回復している。ただ、ウッドショック、コンテナ不足の影響を受けて現場工事の進捗が遅れており、売上は見込みよりダウンしている(木材木製品製造業)。
・新型コロナウイルス感染拡大による定期業務の延期や従業員の感染による管理業務の減少により、売上が減少している。燃料費や資材価格の値上げによる経費増も続いており、減益額が拡大している(不動産業)。
■先行き
・諸外国の状況から、新型コロナウイルスオミクロン株の感染状況は早めに落ち着くと考えられるため、今後の経済活動の再開に期待が持てる(その他サービス業[建設機械レンタル])。
・物量の減少傾向に加え、運転手不足や半導体不足を主因とするトラック納入の大幅遅延が重なって生産力が足りず、売上確保に支障が生じると見込まれる(輸送業)。
コロナ禍の厳しさで生じた人手不足や原材料不足が大きな影響を与えており、頭を抱えている企業が少なからず見受けられる。トラックの生産が滞っているために新車の納入が果たされず、必要な輸送力が確保できずに売上が落ちるといった、玉突き事故的な事案も生じている。
雇用関連では新型コロナウイルスのオミクロン変異株流行による企業の足踏みが、求人にも影響を与えている実情が見受けられる。
■現状
・堅調に求人数が増加していたが、まん延防止等重点措置が適用され、求人数が3か月前比では減少に転じている(人材派遣会社)。
■先行き
・求人数は増えつつあるものの、労働条件の改善はみられない。そのため、求職者とのマッチングになかなかつながらない状況が続いている(民間職業紹介機関)。
新規感染者数の急増による複数地域でのまん延防止等重点措置の発出が、企業に不安感をもたらし、求人数が減少したことをうかがわせる内容が確認できる。また、求人数は増えているが、先行きが明るいとは言えないことから企業側の姿勢は慎重さを維持しており、結果として労働条件は厳しいままとなっているため、求職者との間のミスマッチが多発しているようである。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが終息点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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