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「後悔ばかりの人生」。上沼恵美子が語る今と、見据える“引き際”

中西正男芸能記者
今の思いを語る上沼恵美子さん

 しゃべる。これ一本で芸能界の頂点まで駆け上がった上沼恵美子さん(68)。読売テレビ・日本テレビ系の冠特番「人生選択バラエティ 上沼恵美子の『もしも夫がゾンビになったら…』」も1月4日に放送されるなど、新たな領域にも歩を進めています。北川景子さんが共演時に「あこがれの存在」と明かすなど存在感はさらに増してもいますが、胸に秘めた引き際。そして「人生、全て後悔」という言葉に込めた思いとは。

全て後悔

 この年齢になってくると、半生を振り返る取材をしていただくことも増えました。

 その時に感じていることをお答えしますし、それぞれ本当のことでウソではないんです。でも、きれいな言葉でまとめていたところもこれまではあったと思います。今回はストレートにお伝えしますね。私の人生、全てが後悔です。

 そもそも、根本からして、お笑い芸人になんてなりたくなかったんです。ウチの父親がお姉ちゃんの相方として私をこの世界に入れた。そこから始まったことなので、一歩目からして、自分の意志ではないんです。

 ただ、私も負けん気が強いから、その中で「なにくそ!」とやってきました。その結果、良い思いもさせてもらいましたし、もちろんそこへの感謝もあるんです。

 でも、でも、自分で選んだ人生じゃない。自分で塗った絵の具じゃないんですよ。だから、全てにおいて後悔なんです。

 「売れたからエエやないか」。そう言っていただくこともあります。でも、それは違うんです。自分で自分の人生を生きる。特に、この年齢になってくると、そこについて考えるようになる。そこで出てくるのが後悔なんです。

 じゃあ、自分の意志としては何をやりたかったのか。一言もしゃべらんでもみんなから可愛がられる犬が良かった(笑)。そんなことも言ってきましたけど、本当の思いは一つだけ。歌手です。

 いや、分かってるんですよ。もし、なっていたとしても、絶対に売れてません。でも、本当にやりたいことをやってみたかった。

 自分の曲「大阪ラプソディー」も出して「ちょっとは売れたんやから、その味も味わったんちゃうの?」と言われることもありますけど、あれは芸人が出した歌。芸人やから出せた歌です。

 ずっと、コンサートも大阪・フェスティバルホールでやらせてもらってましたけど、あれも芸人をやっているからやらせてもらえたこと。プロの場ではないんです。…ま、それでも、ごめんなさいね、チケットは一瞬で完売になるんですけど(笑)、どこまでいっても、天童よしみとは違うわけです。芸人のコンサートです。

 よしみちゃんとは子どもの頃から縁があって、二人とも出ていた「日清ちびっこのど自慢」の時から知ってますけど、よしみちゃんは歌だけで今の地位を作っています。今もうまいし、全く衰えもない。これがプロです。すごいです。

 私はそれができなかった。すみません、ちょっとスピリチュアルな話になってしまいますけど、私が死んで魂だけになったら、ずっととフェスティバルホールのマイクの前にいると思います。それくらい、歌手へのあこがれが今も、何なら今こそあるんです。チャレンジできなかった。その後悔が大きいんです。

 ただ、芸人をやっていたから、NHK紅白歌合戦の司会もやらせてもらえました。これも事実です。

 そこで古舘伊知郎さんと出会って、正直な話、感情的にアレコレ思う時期もあった。でも、このままの気持ちで人生を終えるのは良くない。そう思って去年私のYouTubeチャンネルに出てもらいました。そして、今回の読売テレビの特番にもゲストで来てもらいました。

 紅白の頃やったら、古舘さんに来てもらうなんて考えもしなかったです。今でもね、別に仲良しこよしではないんですよ。そうなる必要もないし。一緒に食事に行こうとは思いません(笑)。

 でも、番組に出てもらって、当時のこともストレートに言い合える。自分の意志で入った世界ではないけれど、長くやっていると、生きていると、こんなこともあるんだということも教えられているのかなと思います。

 母親は2015年に亡くなったんですけど、晩年入院している時によく言ってくれました。月曜から金曜まで「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」(ABCテレビ)が放送されていたので「お昼になったら恵美子がテレビに映るから、毎日お見舞いに来てくれてるみたい」だと。

 本当に、後悔の人生です。でも、この仕事のおかげで少しは親孝行ができたのかなとも思います。

引き際

 いろいろありましたけど、今年で69歳になります。人生の引き際についてはこれまでも考えてきましたけど、去年、自分の中で大きな存在だった谷村新司さんが亡くなりました。

 当たり前なんですけど、今一度噛みしめました。「みんな死ぬんだな」と。自分の最期についても、より考えるようになりました。最後に大きなことをやるとか、死ぬ日まで仕事をしていたいとか、そんなんはないんです。スーッと辞めていきたいんです。

 きちんと仕事ができているうちにスーッといなくなって、いつの間にか「え、上沼恵美子、もう死んでたん?」となりたい。そんな形が理想だと思っています。カッコ良く死んでいきたい。ここは自分の美学です。

 今回も特番をやっていただきますし、東京の番組に呼んでいただく機会も去年あたりから増えてきました。北川景子さんに「あこがれの存在」と言ってもらったり、私のあこがれの存在である上川隆也さんにお会いできたり。そういった刺激をいただくお仕事。これはいただけるならば続けていきたいと思っています。

 あとは、マイペースで続けているYouTubeチャンネル。これはね、本当に自分のやりたいことを、やりたいようにやっています。

 これまで大きな事務所にも所属することなく、自分一人でやってきました。たくさん番組もやらせてもらい、毎週、視聴率という数字と向き合ってきました。ただ、もう、その流れはいいのかなと。数字なんて関係なく、やりたいことができる場を持っておく。それがYouTubeだったんです。

 でもね、意外なことに、今度は本当にうれしい意味で、数字と向き合うことになりました。毎回たくさんの方が見ていただいている。大物タレントの方がYouTubeをやっても、なかなか数字が上がらない。そんな話を聞く中で、自分のチャンネルには本当にたくさんの方が来てくださる。

 なんかね、思ったんです。自分の意志で入った世界じゃなかったけど、毎回手を抜くことなく、なんとか皆さんに楽しんでもらいたい。それを続けてきたことが、YouTubeの数字につながっているならば、その数字がご褒美というか、自分がやってきたことを認めてもらっているような気もしているんです。感謝しつつ、心底思いもしますよね。やっぱり、私、人気あったんやと(笑)。

 いや、ま、そんな横柄な心構えではないんですけど、ここまでやってこられたのは支持してくださるファンの皆さんがいてくださったから。そこを忘れたらアカンし、皆さんへの感謝がこれまで以上に出てきたんです。いかに自分のことを思ってくださっているか。それが数字として見えるようになったのがYouTube最大の収穫だと考えています。

 YouTubeがあるおかげで、お姉ちゃんにも時々収録に来てもらえますしね。年老いた姉妹がしゃべってたら喜んでいただける。こんなにありがたいことはありませんよ。

 こんなん言うたらアレですけどね、お姉ちゃんは、貧しいんでね(笑)。出てもらうたびに、ギャラもしっかりと渡してます。普段は東京に住んでいるので、収録で大阪に来てもらう時には新幹線で来てもらうんですけど、切符もグリーン車を渡してます。お金もかかりますけど、そんな場があることが何よりありがたいです。

 お姉ちゃんも「まさかこの歳になって、こんな場ができるなんて…」と本当に喜んでます。皆さんにも、深く感謝していると思います。グリーン車のチケットを換金して、差額を財布に入れながら(笑)。

(撮影・中西正男)

■上沼恵美子(かみぬま・えみこ)

1955年4月13日生まれ。兵庫県出身。本名同じ。71年、姉との姉妹漫才コンビ「海原千里・万里」での千里としてデビュー。同年、上方お笑い大賞銀賞を受賞。歌手としても活躍し、76年発表の「大阪ラプソディー」が大ヒット。77年、結婚を機に引退するが、78年の長男出産後に復帰する。85年からNHK「バラエティー生活笑百科」にレギュラー出演し、さらに知名度を上げる。94、95年とNHK紅白歌合戦の紅組司会を務めた。「M-1グランプリ」で9回審査員を務める。読売テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、ABCラジオ「上沼恵美子のこころ晴天」に出演中。読売テレビ・日本テレビ系の冠特番「人生選択バラエティ 上沼恵美子の『もしも夫がゾンビになったら…』」が1月4日午後11時59分から放送される。出演は上沼、「ニューヨーク」、古舘伊知郎、「ダイアン」津田、菊地亜美、ゆうちゃみ、佐野雄大(INI)。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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