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「厳しい世界に入っちまったなぁ」。「平成ノブシコブシ」徳井健太が噛みしめる40代の苦悩と恩人への思い

中西正男芸能記者
今の思いを語る「平成ノブシコブシ」の徳井健太さん

 独自の世界観でオンリーワンの存在感を放つ「平成ノブシコブシ」の徳井健太さん。40代半ばに差し掛かり「改めて、厳しい世界に入っちまったなぁと思います」と今の思いを吐露します。若手でもベテランでもない世代の苦悩。そして、どんな状況にあっても心の指針としている恩人への思いとは。

もう終わった

 今44歳になったんですけど、改めて「厳しい世界に入っちまったなぁ」と思っています。

 30代の頃から気づいてはいたんですけど、バラエティーでひな壇に座るとか、スタジオでVTRを見るとか、そういうゲストに呼んでもらうたびに「なんで、オレはここにいるんだろう」という思いがあったんです。

 ウチの相方(吉村崇)とかはまだしも、オレはリアクションも上手じゃないし、モデルさんなんかがゲストにいても「かわいいですねぇ!」と言ったりもしない。ずっと「本来、ここはオレの席じゃないんだろうな」と感じてきました。

 じゃ、誰の席なんだと考えた時に「ここは代々引き継がれてきた“その時に旬と思われている人”枠で、ありがたいことに今そこに座らせてもらっているだけ。5年ほど経ったら、また次の人が座っている席なんだ」という答えに行きついたんです。

 そうやって次々とスライドしていく中で自分が40代になった時、有吉弘行さんや「千鳥」さんみたいになっていない限り消えていくんだろうな。さらに50代になったら「ダウンタウン」さんや「ウッチャンナンチャン」さんみたいになってないと無理。60代になったら、明石家さんまさんみたいになっていないとダメ。

 と考えると、もう終わった…。厳しい世界に来てしまったんだなと30代の時に気づいたし、今もそれを噛みしめてもいます。

 現時点で仕事があるのは本当にありがたい。ただ、ウチらは劇場で勝負するタイプのコンビでもないし、ゆくゆくは若い人に仕事をもっと取られていくだろうし。なるべくそうならないように頑張るしかないんですけど、しょうがいないのかなという思いもあります。

自らの生命線

 もがくのも、もがかないのも、どちらもカッコいいとは思います。ただ、一つ明確に「これはやらない」と思っていることがあるんです。

 オレがまだ20代の頃、10年以上先輩の芸人さんが「子どもが生まれたから仕事をくれ」と吉本興業の社員さんに言っているところを見たんです。当時、オレはまだテレビにも出ていないし仕事もなかったんですけど「こうはなりたくない」と思ったんですよね。

 その人がお情け的に仕事をもらうことによって、本当は面白い人とか、勢いが出そうな若手にいくはずの仕事が一つ奪われることになってしまう。

 「徳井がこの仕事に向いてるから」「この仕事を徳井がやると盛り上がるから」という理由で呼ばれる仕事はもちろん全力でやりますけど、そうではなく「子どもがいるから」「ローンがあるから」ということで吉本興業に頭を下げてもらう仕事はしない。それをもらうくらいなら辞めるべき。ここはずっと思ってきました。

 だからこそ、今、難しい年代になっていますけど、なんとか商品として求められる自分でいたい。そう思うんです。

 それで言うと、ここから自分がお仕事をもらえるとしたら“周りの人を引き立てる”という要素なのかなと。

 ものすごく客観的に自分を見た時に「一緒に出ている人が盛り上がって、いい感じになる」という確率が、自分がいる現場で高いなと思うんです。芸人みたいに面白いことを言うプロではない方々。アイドルさんとか麻雀の雀士さんとか。そういう方々が生き生きとその現場で仕事ができる。そういう状況を作るという部分では、自分はうまいと思いますし、そこでは負けることはないんじゃないかとも感じています。

 地方の人気ラジオパーソナリティーみたいな人は自分を強く出して自分の王国をつくるような力が強い人だと思うんですけど、自分にはそういう仕事は向いていない。どう周りを引き立てて、どう和やかにその場をまわすか。そこを求められるようになることが、本当にリアルな話、ここからの自分の生命線だとも思っています。

 そこに気づいたのはウチの奥さんからの一言がきっかけでした。麻雀番組のMCをオレがやった時、番組を見ていた奥さんから「温度が全然違っていて、スベッてたよ」といわれたんです。

 オレとしたら番組に出演されているのは雀士さんたち。自分は芸人なので、雀士さんよりも面白いという気持ちがあって、思いっきりその場をまわしまくって、しっかりやりきったという感覚があったんです。ただ、見ている人からするとそれが面白くは感じなかった。これはなんだろうなと。

 変なたとえですし、失礼なたとえになってしまうかもしれませんけど、お笑いという面では雀士さんたちは当然プロではないし、いわば草野球的なところがあるのかなと。そこで自分が150キロのストレートを投げたり、140キロのスライダーを投げたりして「どうだ!」とやっても、確かに見ている側ややっている人たちも「ん~…」としらけるだろうな。それだったら、110キロくらいの妙な曲がりをする変化球を投げたほうが盛り上がる。普段はやらないようなプレーや動きを皆さんがノリノリでやってくださる。そんな景色が見えるようになってから、自分の特性を認識した気がしています。

 タモリさん最強説なんてことを並べるのはおこがましいですけど、プロの人はタモリさんのすごさをよくおっしゃる。何かをガンガンやるわけではないけれど、タモリさんがいらっしゃるからこそ盛り上がる。そういう領域を目指すことが、自分がこの厳しい世界で残っていくポイントなんじゃないかなと思っているんです。

恩人の存在

 20代の頃なんかは本当にとんがっていたというか、面白ければなんでもいいと思っていました。

 不義理とか、不道徳があっても、面白ければいい。仮に法に触れることがあったとしても、それが面白ければいい。それくらい面白さが第一だと思っていました。

 「ピカルの定理」(フジテレビ)に出してもらっていて時なんかも、協調性の欠片もなかったですからね。

 それが以前に比べると少しは考えられるようになった。この変化を作ってくださったのが小籔千豊さんでした。

 「バイキング」(フジテレビ)でご一緒させてもらった時が初対面だったんですけど、その日にお寿司に連れて行ってくださいまして。ものすごく高級なお店だったんですけど、お寿司を食べながらおっしゃったんです。

 「寿司というのは、今日のネタの具合とか食べる順番とかを四六時中考えている大将が出してくださっているものだから、自分勝手に食べることは理にかなっていない。これはお笑いも同じ。たとえば深夜番組でディレクターさんから『このネタをこんな感じでやってほしい』と言われても『その時間帯とそのメンバーだったら、こっちのネタのほうが盛り上がるのにな』と思ったこと何回もあるやろ?自分たちのネタにおける大将は自分なんやから、そこは自分が思ったことを出すほうが絶対にいい」

 それを言っていただいた時点で目からうろこというか、本当に頭のいい方なんだなと一瞬で思ったんです。もちろん、小籔さんご自身が面白くて説得力があるからというのもあるんだと思いますけど、全てにおいて筋が通っている。

 その日を機に頻繁にご一緒させてもらうようになったんですけど、常に考えの中心にあるのが感謝や配慮。自分の考えがいかに浅はかだったのか。人の気持ちを考えていなかったのか。痛感しました。

 お客さんがドン引きしていても、面白いと思っている先輩が一人笑ってくれたらいい。スポンサーさんが激怒していても、面白かったらそれでいい。そこで考えが止まっていたところ、その先をやっと(笑)考えられるようになったといいますか。

 誰かがその仕事にオレを呼んでくれているということは、番組なら番組の会議で「徳井さんがいいんじゃないですか」と言ってくれた人がいるということ。そんな人が反対派の人の考えもおさえて自分を呼んでくれているのに、ムチャクチャやって反対派の人から「だから、呼ばない方がいいって言ったんだ」と言われていたりしたら申し訳なさすぎますからね。

 少し考えたら分かることなんでしょうけど、そこの領域の考えが全くなかった。ものの見方の根本から小籔さんに教えてもらいました。

 ただ、小籔さんにそんな話をしても「オレ、そんなこと言ってたか?」みたいにおっしゃるんですけど、それくらいオレのみならず広く当たり前のこととしてやってらっしゃるのかなと。それならより一層すごいことですし、小籔さんにお返しすることは難しいかもしれませんけど、自分より後輩たちに自分がしてもらったことを送っていこう。それは思っています。

 …気づいたらリアルな話ばかりしてましたね(笑)。ただ、本当に思っていることですし、そんなことができる自分でいられるようにしたいなとは思っています。

(撮影・中西正男)

■徳井 健太(とくい・けんた)

1980年9月16日生まれ。北海道出身。吉本興業所属。2000年、NSC東京校5期生の同期、吉村崇とコンビ「コブシトザンギ」を結成。後に「平成ノブシコブシ」に改名する。10年にフジテレビ「ピカルの定理」出演を機に知名度がさらに上昇する。ボートレースや競輪、パチスロなどに造詣が深く、関連番組への出演も多い。来年1月1日に行われるネクストブレイク芸人を決める吉本興業主催のお笑い賞レース「100×100」(ハンドレッドハンドレッド)の司会を務める。大会の様子は元日午後5時から吉本興業の公式YouTubeチャンネルで配信される。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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