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アイドルからミュージカル女優へ道を拓いた田村芽実の5年 「好きというより苦しくてもやめられません」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 スタイリング/小林聡一郎

5年前、ミュージカル女優を目指して、アイドルグループ・アンジュルムを卒業した田村芽実。今や数々の舞台に出演し、歌唱力を高く評価される存在になった。8月からイギリス発の大ヒットミュージカル『ジェイミー』でもヒロインを務める。上演を前に、舞台に懸けてきた想いと目指していくものを語ってもらった。

事務所もやめて1人で挑戦したかったんです

――5年前にアンジュルムを卒業して事務所もやめたときは、先行きに不安はありませんでした?

田村 まったくなかったです。自信があったというより、ミュージカルをイチからやっていくうえで、どんな作品のどんな役でもうれしいと思っていたので、ある意味、目標が低いところにあったのかもしれません。

――事務所に残ったまま、ミュージカル女優を目指すことは考えなかったんですか?

田村 考えなかったですね。事務所にいたら甘えてしまうので、1人で挑戦してみようという気持ちが強かったです。だから、不安も迷いもありませんでした。今考えたら、すごいことをしたと思いますけど(笑)。

――もともと小さい頃の夢がミュージカル女優で、ハロー!プロジェクトの『演劇女子部』などでミュージカルをやって、改めて目指すことにしたんでしたっけ?

田村 それもきっかけでしたし、「いつまでも歌っていたい」という夢があったので。そのためには、アイドルはある程度の年齢で卒業しなくてはいけないと思っていました。あと、子どもの頃から宝塚が好きだったんです。宝塚の音楽学校は中学卒業の年から高校卒業の年まで受けられるので、自分と同い年の子が毎日、歌やダンスのレッスンを受けているんだと考えたら、「私も早くしないと」という焦りがあって。それで、他のメンバーより早く卒業を決めました。

――結果的には、卒業から1年後に『minako-太陽になった歌姫-』の主演に抜擢されましたが、それまでの1年はずっとレッスンをしていたんですか?

田村 はい。レッスン三昧の日々でした。歌も呼吸法から学び直して、踊り方も何もかもミュージカルに合わせる練習を1年間していたので、アイドル時代の歌い方は忘れてしまって(笑)。たまに歌うとヘンな感じがします。

毎回プレッシャーで“稽古うつ”になります

――本当に5年前に描いていた夢を着々と叶えているようですが、ミュージカルの世界で壁にぶつかったこともありました?

田村 いやもう、簡単だと思ったことは一度もなくて、どの作品も難しくて、壁にぶち当たりまくりです(笑)。毎回、“稽古うつ”みたいになるんですよ。稽古期間の真ん中を過ぎた頃、プレッシャーで「稽古が怖い、行きたくない」という時期が絶対あって。稽古場の最寄りの駅に着いた瞬間、お腹が痛くなったり(笑)。

――目指すレベルが高いゆえに?

田村 どうなんだろう? とにかくミュージカルは本当に難しいうえに、みんなで作るものだから、1人でどうにかできるわけでもないので。それだけに、自分が皆さんに付いていけてないと落ち込みますし、相手役の方とステージ上でのコミュニケーションがうまく取れてないと、どうやって心を開くかも悩みます。

――ごはんが食べられなくなったりもするんですか?

田村 ごはんも食べられないし、どうしたらこの舞台がないパラレルワールドに行けるかとか、タイムリープする方法まで調べます。でも、無理なんですよ(笑)。

――そうでしょうね(笑)。

田村 だから、やるしかないんですけど、それくらい追い詰められます。やっぱり自分の中で「もっとこうしなきゃ」というのがあるので、その目標に近づきたいから、そうなるんだと思います。

――何だかんだと、毎回その稽古うつは乗り越えているんですよね?

田村 役の内面を作って作って作ったうえで、最終的に衣装やかつらを着けて、みんなで通し稽古をしたときに、ハッとなったりはします。「こういう作品で、こういう役だったんだ」と気づかせてもらうことは多くて。本番中も胃が痛くなったり、「キツい!」と思ったりはしますけど、それでもやるのは、ミュージカルがすごく好きだからでしょうね。

身も心も作品に捧げて「これが最後でもいい」と

――今までで転機になった作品はありますか?

田村 どの作品もそうです。出演させていただくたびに、その作品のトリコになってしまうので。ミュージカルは稽古から1~2ヵ月、長い作品だと3~4ヵ月、共演者の皆さんと過ごして、命を懸けているイメージです。いつも「この作品を最後にお仕事をやめてもいい」と思っていて。この前の『IN THE HEIGHTS』は、公演中に緊急事態宣言が出されて、千秋楽と前楽はできなかったんですけど、その前の何日間は、みんな本当に「今日が最後かもしれない」という気持ちでステージに立っていました。私は全編には出ない役だったので、袖から見ていたりもしたんですね。スクリーン越しとかでは絶対に伝えられない、生ならではのエネルギーをコロナ禍で改めて感じました。

――芽実さんにとって、ミュージカルの醍醐味はどんなことですか?

田村 お芝居と歌とダンスを融合させたのが、ミュージカルというコンテンツですよね。ショーではなくて、あくまで作品。音楽やダンスや脚本が素晴らしいほど、「これをちゃんとお伝えしないといけない」と悩むところなんです。でも、いろいろな表現を通して作っていくのは、本当に最高です。

――ミュージカル女優として4年やってきて、大切にしていることは何ですか?

田村 自分の身も心も作品に捧げる。これひとつですね。私は曲を作ったり脚本を書いたりはできないので、体を使って演じることでひとつのコマになる。誰かが伝えたい世界をお届けするために、すべてを懸けようと思っています。

「うまく見せよう」という感情がなくなりました

――芽実さんは「私は女優でなくて舞台女優」と発言していたことがありました。

田村 映像がイヤとか舞台が何より素晴らしいというわけではなく、私個人としては舞台上で繰り広げられるお話が好きなんです。だから、自分も舞台に立つ女優を夢見てきました。ミュージカルをやっていると「目標は映画に出ること?」と聞かれたりもしますけど、私の夢はあくまで、ステージ上でお芝居をしたり歌ったりする女優なんです。それはずっと変わらず、一番大切にしたいことです。

――お客さんの前で生で演じるのも、面白みですか?

田村 もちろんそうですし、舞台って2時間とか3時間の作品を通してやるじゃないですか。それは当たり前のことのようで、とても難しくて魅力的でもあると思うんです。始まったら終わるまで2~3時間、役になって演じ続けるのはすごく疲れるんです。でも、その苦しさが幸せで(笑)、取り憑かれているような感じがします。舞台が好きというより、やめられない。私は舞台中毒なんだと思います。

――だからこそ、途中で稽古うつになっても、舞台に上がり続けるんでしょうね。

田村 そうなんです。稽古中は「何でこんなに苦しいことをしているんだろう? もうやめてやる!」と思うんですけど、やっぱり絶対やめたくはないんですよね。

――今は夢が叶って幸せですよね?

田村 最近ようやく「これでいいんだ」と思えるようになりました。半年くらい前までは「これじゃダメだ!」と切羽詰まって生きる毎日だったんです。「もっとうまくならなきゃ」と思い続けてきて、もちろん今も思ってますけど、できない自分をようやく受け入れられるようになって。お芝居はみんなでやるもの。できないところは他の人に助けてもらおうと考えるようになったら、肩の荷が下りました。そしたら、すごく余裕もできました。

――そう考えられるようになったのは、何かきっかけが?

田村 ある種の挫折もあって、それを受け入れたことで、今は逆に、いろいろなことが楽しくできている気がします。うまくなることを諦めたわけではないですけど、「うまく見せよう」という感情は全然なくなりました。「いいや!」みたいになっていて。

主人公を応援する役でお客さんの気持ちを代弁

2017年にイギリスの劇場で大ヒットを記録し、ロングラン上演された『ジェイミー』。ドラァグクイーン(女装した男性)に憧れる16歳の高校生・ジェイミーが、マイノリティへの偏見や逆境を乗り越え、なりたい自分になろうとする。田村はジェイミーの一番の理解者で、イスラム教徒の女子生徒・プリティを演じる(Wキャスト)。

――今回の『ジェイミー』もやっぱり難しい作品ですか?

田村 ジェイミーという男の子が主役で、私が演じるプリティは親友。プリティの目線、ジェイミーを通した目線と、いろいろなところから役を作らないといけなくて、その作業をする時間が足りるか心配です。それと、1人1人のキャラクターが濃くて、現代のミュージカルなので、珍しく何気ない日常会話が教室で飛び交うんです。だから、キャラクター同士のキャッチボールが難しくて。

――プリティはイスラム教徒の優等生で、人物像をどう捉えていますか?

田村 それも本当に難しくて。この作品はプリティも含めて、制服を着た16歳の高校生がたくさん出てくるんです。16歳は大人と子どもの間でもがき苦しむというか、みんなが「自分は本当はこうなりたいけど、流れでこうなっちゃった」とか「どうなりたいかもわからない」と悩んでいるんです。その中でプリティは芯の通った子ではあると思うんですけど、この作品で、プリティも他の子も「こういう人」と決めつけることはしたくなくて。特にプリティはジェイミーを応援する役なので、お客さんの代表でもあるなと思っています。

――ハツラツとした子ではあるんですかね?

田村 でも、恥ずかしがり屋で、みんなの前では自由に発言できないんです。ジェイミーといるときはハツラツとしていて、やっぱりプリティがどれだけジェイミーを応援できるかで、お客さんがジェイミーを応援する気持ちも決まってくると、今お話していても思いました。

内面に積み重ねた無償の愛をどれだけ渡せるか

――今までの出演作で、プリティと近かった役はありますか?

田村 それが本当になくて。相手役が恋人とか親で、一緒に作っていく作品はありましたけど、今回はジェイミーという輝く存在がいて、その周りを取り巻く中の1人なので。自分の内面にいろいろなものを積み重ねて、それをどれだけジェイミーに渡すことができるか。自分とジェイミーを比べて葛藤もしたうえで、応援しているところもあって、私の中では無償の愛みたいな気持ちがあります。

――マイノリティもひとつのテーマになっていますね。

田村 現代的な大きな問題で、すごく大事なところです。でも、ジェイミーという1人の若者が夢を叶える物語で、彼にとっての夢がたまたまドラァグクイーンだったと私は考えています。だから、みんなに向けられたメッセージがあって、社会問題を切り取っただけの作品ではないんですよね。キャストにアンサンブルは1人もいなくて、それぞれのキャラクターに「こうであってはならない。こうでなくてはいけない」という文章がありました。スポットライトが当たるのはジェイミーでも、登場人物の1人1人が問題を抱えている。そういうところも印象に残せないといけないのかなと思います。

歌で失敗すると作品の本質も変わってしまうので

――今回、歌はどんな感じですか?

田村 すごくポップです。私はソロを2曲いただいて、どちらもジェイミーを応援する歌。お客さんに向けてとか、自分の内面を歌うのでなく、1人に向けて……ということで、どれだけ訴えられるかが勝負ですね。いつも自分のことで精いっぱいな私が、誰かのことを想って、ひたむきに演じて歌うことに挑戦しないといけない。難しいだろうけど、めちゃめちゃ楽しみです。

――芽実さんは歌も表現力豊かです。

田村 いえ、まだまだ全然です。毎回、歌にも苦労していて。ミュージカルでは、英語詞のために作られた楽譜に日本語が乗ることが多いので、どうしても歌い辛い箇所は出てきます。そういうところのバランスも考えないといけないし、言葉をちゃんと伝えることも大事ですけど、それだけではないニュアンスも届けないといけなくて。

――ミュージカルでは、歌は台詞でもありますよね。

田村 台詞のように歌うのは簡単なようで、めちゃめちゃ難しくて。いつも思うのが、田村芽実として歌うなら、間違えても田村芽実の失敗になりますけど、たとえば歌のうまい役を演じて、音を外したり裏返ったりしたら、役の設定そのものが一瞬で崩れてしまう。劇中の人物に合わせて書かれた歌を失敗すると、作品の本質まで変わってしまうかもしれない。そこはいつもプレッシャーですね。

やりたいことは自分で企画書から作ります

――芽実さんはミュージカルの舞台に立つだけでなく、ソロCDを出したり、ソロミュージカルを配信したりと、多彩な活動をしています。

田村 やりたいことは何も捉われずにやりたい人間なので。大人の方たちにやらせていただくことと、自分で企画してやることが、もう半々くらいです。わがままではなく、企画書を作ってお金のことも全部計算して、自分で大人の方たちを説得しています。

――2月に配信したソロミュージカル『ひめ・ごと』のプロジェクトも?

田村 あれはまさにそうでした。自分で企画して、直談判に行って、クラウド・ファンディングをやることも自分で決めました。それにしても、こんなに大変なのかと思いましたね。制作費とかわからないことがたくさんあって、マネージャーさんに助けてもらったので感謝してますけど、もっと自分でできるようにならないと。『ひめ・ごと』のときは何が良くて何が悪いかもわからなくて、大人の方たちに心の中でずっと土下座みたいな毎日でした。自分で言ったからには、できてもできなくても、良くても良くなくても、責任を取らないといけないですよね。

――アイドル時代に培ったことが、今活きている面もありますか?

田村 すごくあります。多感な時期に5年間活動させていただいて、田村芽実の名前と存在を知ってもらえたからこそ、今の私があるので。パフォーマンスは今と全然違いますけど、ミュージカルだけやっていたら備わっていなかった表現も、たくさんあると思います。

日々を社会の中で誠実に生きたいと思います

――今、舞台女優として向上するために、日ごろからしていることはありますか?

田村 尊敬する俳優さんに「舞台に立つのは心を裸にすること」と教えてもらいました。大事なのはテクニックでなくて心なので、自分にウソをつかず、日々を誠実に生きたいと思っています。テレビで見るニュースも、電車の中で起きていることも、ひとつひとつ見逃さず、社会の中に自分がいることを最近は心掛けています。

――社会の一員としてエンタテイメントに携わろうと?

田村 本当にそうです。舞台は美しいものではありますけど、私が共感するのは自分と近いものや、そこに人間が見えた瞬間なので。普段もそういう瞬間を見逃さないように、生きていなきゃいけないなと。

――苦しいときには、どんなことが支えになっていますか?

田村 甥っ子です(笑)。めちゃめちゃかわいくて、コロナの前は1日でも休みがあったら、会いに地元に帰っていたんです。今はなかなか会えなくて、ちょっと残念ですけど、苦しいときには甥っ子の顔が思い浮かびます(笑)。

昭和歌謡の世界をミュージカルで表現できたら

――アンジュルムを卒業したとき、ミュージカル女優としての夢に、『レ・ミゼラブル』のエポニーヌや『ミス・サイゴン』のキムを演じることを挙げていました。今も変わりませんか?

田村 今もひとつの夢ではあります。でも、こうやって輸入作品に出演させていただく機会が多くなった分、和製ミュージカルも大きな夢になりました。私も小さい頃は、ミュージカルといえば海外モノのイメージがあって、そこが好きだったんですけど、より親しみやすい和製の作品にも出演していきたいと思っています。

――『ひめ・ごと』のように翻訳でない歌だと、また違いますよね。

田村 翻訳した歌の良さももちろんありますけど、私は昭和歌謡が好きで、そういった世界観をミュージカルで表現できたら、すごく面白いと思います。でも、今まであまりなかったということは、きっと難しいんですよ。想像するだけで、楽しそうな反面、めちゃめちゃ難しいのはわかります。でも、ミュージカルにはいろいろな可能性があると思うので、新しい挑戦はどんどんしたいです。

撮影/松下茜 スタイリング/小林聡一郎 衣装協力/Fumiku、ARLETTE LILIY

Profile

田村芽実(たむら・めいみ)

1998年10月30日生まれ、群馬県出身。

2011年にスマイレージ(現アンジュルム)のメンバーとしてデビュー。2016年にグループを卒業。2017年に舞台『minako-太陽になった歌姫-』で主演。主な出演作は『マリーゴールド』、『ラヴズ・レイバーズ・ロスト-恋の骨折り損-』、『ウエスト・サイド・ストーリー』など。8月よりミュージカル『ジェイミー』、10月より『GREASE』に出演。

ミュージカル『ジェイミー』

8月8日~29日/東京建物 Brillia HALL

9月4日~12日/新歌舞伎座

9月25日~26日/愛知県芸術劇場 大ホール

公式HP

ホリプロステージ提供
ホリプロステージ提供

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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