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被害者へ過酷な負担を強いる与党PT案 憲法違反の疑いに旧統一教会の主張と重なるのではないかとの指摘も

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

11月17日立憲民主党を中心とする国対ヒアリングが開かれました。

報道では、旧統一教会の被害者救済に関する法整備の検討をしていた与党のプロジェクトチーム(PT)は、財産保全については盛り込まず、不動産を処分する前に国へ通知することを義務付ける宗教法人法の改正案をまとめたとされています。

憲法違反の指摘は、旧統一教会の主張と重なる部分も

立憲民主党の長妻昭議員は、この改正案について「非常に中身の薄いものが出てきました。我が党としては、(被害者の)皆様からご要望いただいている、財産保全の案を通していくように取り組んでいきたい」と話します。

さらに「一部の議員に(財産保全の特別措置法が)憲法違反だと話をされる方がおられますが、衆議院の法制局に失礼な話だと思います。我々が勝手に作って出しているわけではなく、衆議院の法制局という優秀な方々が憲法違反かどうかの吟味を重ねて、憲法違反ではないという結論で法案を出しています。これを憲法違反だという方や疑いのあるという方は、衆議院の法制局、自分たちが属する委員の組織に、天に唾をするようなものだと思います」と述べます。

すでに旧統一教会からは、自民党の議員らに対して「違憲違法な(財産保全の)立法措置などがなされないように」「憲法違反であるために、このような議論を国会で進めないように改めてお願い申し上げます」といった内容のFAXが送られてきています。そうした事情に触れて「与党の主張は、我が党の案を通したくない発想なのか。どこか、統一教会の主張と重なっているのではないかと思ってしまいます。よく話し合って、適切な法案ができ上がるように取り組んでいきたい」と話します。

同党の山井和則議員も「与党PTの法案は、一歩前進のところはあるけれども、そもそも財産保全の法案ではないので、与党案と野党案とセットで成立させてください、というのが私たちの考え方です」と述べます。

与野党とも、旧統一教会が解散命令を受けるまでに、財産の流出、隠匿をする懸念があり、被害者を救済したいという思いでは一致していますので、いかに実効性のある法律にまで高められるのかが問われています。

与党PT案の弁護士の見解

全国統一教会被害対策弁護団の阿部克臣弁護士は、与党PTの法案について、次のように見ています。

「この法案では、(財産目録を提出させるなど)被害者救済では意味がある点も含まれていますが、財産を保全する内容ではありません。問題になっている教団の財産散逸の恐れは非常に高くなっており、いかに保全するかが問われているわけですが、肝心な点が不十分で、財産散逸を防止するような効果は期待できるものではありません」として「この案では、結局のところ、被害者自らが訴訟をして民事保全をしてくださいというもので、被害者の自助努力に委ねられるものとなっており、あまりにも被害者には過酷で、負担が大きいもの」と指摘します。

被害者からも、あまりに過酷な与党PT法案との指摘

元信者の母親が献金した1億円以上の返金を求めた裁判では、母親が教団に念書を書かされたことで、1、2審とも敗訴して、現在、最高裁判所に上告している被害者家族の中野容子さん(仮名・60代)も、与党PT法案について厳しい見方を示します。

「被害者の現状をしっかりと見ていただきたい。司法手続というのはあまりにも負担が大きいもので、(法案の)司法手続に対して支援しますよ、というようなものだけでは現実的ではありません。私自身が長い間、裁判を戦って、この(旧統一教会との)裁判がいかに過酷なものかをよく知っています。私が裁判を提起した時、母は87歳でしたから、そういう人が裁判を戦っていくというのは、どれほど辛いことかはおわかりになるのではないでしょうか。さらに(教団から)誹謗中傷されることもあり、本当に辛い。こういう組織を相手にして被害者一人一人が交渉して、裁判をして被害を回復してというのは、本当に過酷です。被害者を救済しようという道をきちっと用意してほしい」

宗教的な恐怖心が強いブレーキをかける

今も両親が現役の旧統一教会の信者である、田村さん(仮名)は、元2世信者の目線から、裁判を行うことの尋常ではない大変さを話します。

「(信者だった人や信者が)被害に気づいて、返金請求をしようとしても『(これから先)不幸が起こるかもしれない』といった、宗教的な恐怖心が強いブレーキをかけてきます。不当な形で集められたお金を返してもらうことがどれだけ難しいことでしょうか」と話します。

さらに「与党のPT案を拝見しましたが、2世の被害救済は非常に見えにくいと率直に感じております。もし返金をする場合には、子供である2世が自分の親(現役信者)を訴えて献金のお金を取り返させるしかないかもしれませんが、2世はそういった返金を求める訴訟を起こすことはできないと認識しています。理不尽な足かせをはめられた2世たちに対し『献金を返してもらう必要があるんだったら、自分の親をまず訴えてくださいよ』と突き放してしまうような政治であってほしくない」と強く話します。

これらの話を受けて、リモートで高知県から参加した被害者家族の橋田達夫さんも「個人で裁判をやるのは無理です。財産保全の法律を成立させてほしい」と訴えます。

実効性のない案を出してきたと指摘

ジャーナリストの鈴木エイト氏は「教団には隠し不動産があり、自分が調べただけでも、これも教団名義だったのかというものは、国内外でかなりあります。財産目録の提出の義務化などを出していますけれども、それを教団が正直に出すとは思えない」と話します。

さらに日本の宗教法人から韓国の本部に送る際の方法の一つに「申告の必要がない金額を教団の信者に持たせて、修練会などを目的にして信者に韓国へ運ばせる手口もある」として「PT案では、外為法の規制強化を言っていますが、これはそもそも無理筋です。海外を訪問する全員をどうやって調べるのかというのには無理がある。ある意味、実効性のない案を出してきた」とも指摘します。

与党PTの提言には「被害者に寄り添った相談支援体制の構築等の施策が講じられるべき」としています。

しかし「被害を受けた当事者の多大な自助努力が伴う訴訟支援だけでは、被害救済のための実効性ある救済措置とは言い難い」との被害者や有識者の声を聞く限り、どれだけの被害者の思いや気持ちをくみ取って出された法案、提言なのだろうかと首を傾げたくなるところがあります。

鈴木エイト氏は「自民党議員のなかには、統一教会のリークを恐れている疑いもある」とも話していますが、もしそうだとしたら、真の関係断絶などできていないことにもなります。今、与党は旧統一教会の問題にどう対処するのか、国民の厳しい目にさらされています。そうしたなかで、現行法での対応を求める教団と同じ姿勢をとり続けていては、旧統一教会に忖度していると、うがった見方をされてしまうこともあるかと思います。

憲法違反の疑念があれば、どういう理由に基づいての主張なのか、きちんと議論を

何より、憲法違反だと指摘する議員がいれば、しっかりとした議論に持ち込まなければなりません。その点、阿部弁護士も強く指摘します。

「与党の方で、法整備をはかれない理由として、憲法上の疑念が出ています。しかし、どこが信教の自由や財産権を侵害するのかについて、どこまで行っても出てきません。結局のところ、これが(財産保全を)やらない理由になっている印象を受けております。財産保全の法整備で必要なのは海外への多額の送金や、国内での正当な理由のない財産の移転、そのようなものです。信者の日常的な宗教活動を規制するというものではないと思います。ですので、宗教団体や信者の信教の自由をなぜ侵害することになるのか。なぜ財産権を侵害することになるのか。そこには多いに疑問があります。私が知る限り、憲法の先生に意見を聞いても、なぜそれが違憲になるのか、わからないというふうに聞いております。与党の方で疑念があれば、それがいかなる意味で、どういう理由に基づいて疑念があるのか、きちんと議論していただかないと、財産保全の法整備の話は進まないと思います」

今まさに、正面からその点をつまびらかにして議論を行い、被害者の救済にとって本当に必要な道を切り開くことが求められています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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