若年層が安倍政権を支持するのは安倍政権がもっとも“革新”だから
先日放送されたTBSサンデーモーニングで、司会の関口宏氏(73歳)がこんな趣旨の発言をして話題になりました。
「若者は安定よりも変化を求めるべきではないか」
なんでも、上の世代より政権支持率が高いことに苦言を呈したのだとのこと。ついでに東大の姜尚中先生(66歳)もこんなことを言われています。
「未来に希望がないから、現状にしがみついている」
【参考リンク関口宏 安倍政権の高支持率を支える若者に苦言「変化を求めるべきではないか」】
個人的にはちょっとビックリしましたね。そういう見方も世の中にはあるんだなと。筆者はむしろ、現役世代や現政権の方がいろいろ変化させようとしている側であり、上の世代が現状維持しようとしている方だと考えてましたから。ネットで話題になっているということは、同じような違和感をもった人たちが少なからずいた、ということでしょう。
こういう世代間の認識のギャップはなぜ生じるのでしょうか。そして、なぜなんだかんだ言われつつも現政権の支持率はたいして落ちないのでしょうか。
自分たちが保守化したことを認められない老人たち
学生時代に大暴れしたけどすっかり保守化した団塊世代が典型ですが、年を取ると、人は誰でも保守化するものです。まあ保守というと右寄りの人たちとかぶるのでここでは守旧派としましょう。これまでと違う新しいことはやりたがらない、改革や規制緩和といったワードに及び腰、くらいの意味です。特に社会的に地位のある人ほどその傾向は顕著で、既に十分豊かなんだからそれらを失うリスクのあることはやってほしくない、というロジックです。
春頃にBS朝日で報道されたドキュメンタリー「あさま山荘事件 立てこもり犯の告白」で、連合赤軍の生き残りの老人が現在は自民党員やってますとおっしゃられてるのを見た時は心底驚きましたけど、中々正直で良いと思いますね。
一方、同じような老人の中でも、中途半端に頭が良かったりする人は、そういう自らの変化がなかなか受け入れられません。では、どうするのか。変に理論武装して「変わったのは自分たちじゃない。社会、なかんずく若い世代の方なんだ」と主張することになります。彼らのひねくりだした代表的な“理論”は以下の3つです。
1. 若者右傾化論
「若い世代はすっかり右傾化してしまい、同じく右翼の安倍政権を支持している。だから彼らの行うあらゆる改革は悪で潰さないといけないのに、若年層が右傾化してしまっているからデモも盛り上がらないのだ」というロジック。
朝日、東京新聞の社会部あたりに一般的にみられる論調で、社民、共産といった野党の基本スタンスですね(最近はなぜか民進党もこっち側に落ちてきましたが)。これなら一連の改革は右翼改革だから反対しても革新のメンツは守れるし、若者から人気なくてもそりゃあいつらが右傾化したからだよ、と言っておけば済むわけです。
ただ、ちょっと冷静に考えればわかるとおり、30歳以下の7割近くが政権支持する理由を“右傾化”の一言で説明するのはいくらなんでも無理があります。実際、田母神さんみたいなホンモノは選挙であっさり落選するし、百田尚樹さんも大学の講演会から締め出されるわけですし。
そもそも筆者は、安倍政権や(同じく都市部の無党派層の支持率の高かった)小泉政権が右翼という設定に無理があると思います。トランプやルペンといったホンモノのナショナリストに比べたら、TPPも教育無償化も大好きな安倍さんなんてただの中道でしょう。
2. 若者ヘタレ論
そこで最近台頭してきたのが「若年層は草食系でやる気ないから体制に従順なんだ」という若者ヘタレ論です。今回の関口氏の意見も同じ観点に立ったものですね。最近の若いもんはヘタレだからデモもしない、目先の安定にしかこだわらない。だから自分たちの後に続いてくれないんだ、というロジックです。
ただ、現状維持を望んでいるのは彼ら守旧派老人自身であり、目先の安定にしがみついているヘタレがどっちなのかは改めて言うまでもないでしょう。
筆者は安倍政権を優等生扱いするわけではありません。むしろ、経済政策で言うなら、もっとも重要な第三の矢(規制緩和を中心とした構造改革)をほとんど実現できていないため、とても合格点は出せないレベルだと思います。それでも、まったく成長志向でない野党四党に比べればよほどマシなのも事実であり、マイクを向けられた若い世代が「とりあえず今の政権でいい、わざわざ野党に変えたいとは思わない」と答えるのはごく自然な流れでしょう。
3. 下を向いて生きろ論
もう充分お腹いっぱいだよという人もいるでしょうが、まだまだ強烈な論も出現しています。それは一言でいえば“脱成長論”とでも言いましょうか。もう成長の時代じゃないんだから、これからの若い世代は多くを望まずつつましく生きなさい、という論調です。
【参考リンク】平等に貧しくなろう 社会学者・東京大名誉教授 上野千鶴子さん
これはいったい何なんでしょうか。共産主義ですらないですね。本気で「平等に貧しくなる」ことを目指すのであれば、そもそも既得権など認められる余地がないわけで、徹底した規制緩和と高齢者向け社会保障に大ナタふるって、その上で平等に再分配なり何なりしなきゃならないはず。アベノミクスや小泉改革の10倍くらい過激な改革路線を突き進む以外にないわけです。でも、彼らはそこは言わない。「自分たちが持ってる分は再分配しない、墓場まで持っていく。若い世代は下を向いて生きろ」というのが芯にあるメッセージなわけです。筆者は一種の狂気すら感じます。
まとめると、現在の経済政策を巡っては右か左かという対立軸はほとんど意味が無く、本当の対立軸というのは成長という果実を求めて前進しようとする若い世代と、心地よい現状を維持したいという高齢者の間に存在するということです。後者の中には、一応は自分で保守だリベラルだと名乗っている人も多いですけど、そういうのは全部ひっくるめて「時計の針を進ませたくない人たち=シルバー主義」とでも思っておいてください。
これから先も何かことあるごとに、既存メディア上では右や左を代表する論者が議論を戦わせることでしょう。ただし、それらは両輪併記ではなく、右や左風味のふりかけをかけただけの「現状維持してほしいというホンネ」が仲良く並んでいるだけなのかもしれません。その論者が反対のための反対を述べていないか、具体的なビジョンや処方箋を提示出来ているかを、若い世代はしっかりとチェックすべきでしょう。