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「収入は平等」か「収入差を広げ努力を刺激」か。世界各国の考え方をさぐる(2017~2020年分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 収入において極力平等か、格差をつけて努力・競争を促すべきか。(写真:KIMASA/イメージマート)

人は欲を行動の燃料とする生き物である以上、どのような選択肢でも対価が同じならば意欲を失い、社会は活動を停止してしまう。罰則を設けて強制的に行動させる方法もあるが、状況の進化発展はおろか、現状維持も難しくなってしまう。一方で過度の成果主義を取り入れて平等的な保証がないと、生活弱者は生きる道をなくし、荒廃した社会が待ち構える状況と化してしまう。要はバランス感覚の問題ではあるのだが、それでは人々はそのバランスについて、どのような思惑を持ち、それは国によって違いが生じるのだろうか。世界規模で国単位の価値観を定点観測している「World Values Survey(世界価値観調査)」(※)の結果を基に、各国の国民単位での認識を確認する。

次に示すのは収入格差に関する2つの考え方のうち、回答者はどちらをより望むかについて、10段階で答えてもらったもの。1つは「収入はより平等であるべき」、もう1つは「成果に従う形での収入の差別拡大化を促進すべき」。完全な平等化を1、完全な努力に従う差別拡大化を10とし、自分の考えに一番近い値を答えてもらい、それを平均化している。例えば全員が「完全に平等であるべき」と答えていれば1.00になる。つまり数字が大きいほど、成果報酬主義を望む声が大きいことになる。

↑ 収入はもっと平等にすべきか、個人の努力を刺激するよう収入格差を拡大すべきか(1(平等)~10(格差)の選択肢での平均値)(2017~2020年)
↑ 収入はもっと平等にすべきか、個人の努力を刺激するよう収入格差を拡大すべきか(1(平等)~10(格差)の選択肢での平均値)(2017~2020年)

真ん中の値は5.50であることから(回答選択肢に5.50はないが)、おおよそイタリアより左側にある国が「成果報酬主義寄り」、右側にある国が「平等主義寄り」ということになる。そして後者においては特にチリが、平等主義に強いこだわりを抱いていると見なすことができる。(元)社会主義国家や福祉国家ほど平等主義寄りかと思えばそうでもなく、日本やアメリカ合衆国などが顔を見せる一方、成果報酬主義にロシアやスウェーデン、ポーランドなどが入っているのが興味深い。

日本の値は5.36。いくぶんながらも平等主義志向。過去においてもおおよそ変化はない。もっとも前回調査(2010~2014年)では同一の条件下で4.68の値が出ているので、それと比べるとやや成果報酬主義に寄った感はある。

それぞれ国の産業や文化、社会的制度によって、成果や努力と報酬との間における、正当だと認識される関係には大きな違いがあるため、単純に国ごとの数字のみでの比較は誤解を招きかねない。この点には注意してほしい。一方で個々の国の平等主義的な流れや実力主義的な傾向がある程度数字として表れているのは、やはり興味深い話ではある。

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※World Values Survey(世界価値観調査)

世界100か国以上が参加して実施している国際的プロジェクト「世界価値観調査」によるもの。各国・地域毎に全国の18歳以上85歳以下の男女1000サンプル程度(実際には1000~2000人程度)の回収を基本とした個人対象の意識調査。調査そのものはおおよそ5年おきに実施されているが、調査期間によって一時的に対象外となる国も少なくない。また現時点では集計が完全には終わっておらず、値が掲載されていない国もある。直近の調査結果は2017年から2020年にかけて行われたものだが、記事執筆時点で項目によって調査結果が掲載されていない国が複数確認できる(最終的な報告書は2021年秋に発表予定)。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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