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150周年の全英オープンに押し寄せたリブゴルフ騒動の数々の余波が果てしない。一体どこまで続くのか!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 ゴルフの「聖地」セント・アンドリュースが舞台となった今年の全英オープンは記念すべき150周年を迎え、歴史の節目に見事な逆転優勝を飾ったのは、オーストラリア出身の28歳、キャメロン・スミスだった。

 最終日は北アイルランド出身の33歳、メジャー4勝のローリー・マキロイに4打差から追撃をかけ、8バーディー、ノーボギーの見事なゴルフでメジャー初優勝を遂げた。

 そんなスミスのプレーぶりは、20歳代の若者とは思えないほど堂に入っていた。

「信じられない。言葉にならない」

 感無量という様子で優勝会見の壇上に座ったスミス。しかし、歓喜で胸がいっぱいだった彼に、欧米メディアは、こんな質問を投げかけた。

「この状況で、この話を持ち出して申し訳ない。しかし、今週、リブゴルフに関する取材において、アナタの名前が出続けている。だからアナタの立ち位置を教えてほしい。リブゴルフに本当に興味があるのですか?アナタがリブゴルフと契約したというのは本当なのですか?」

 スミスの表情から笑顔が消え、当惑した表情に変わった。

「僕は今、全英オープンに優勝したばかりなのに、そんなことを尋ねるなんて、あんまり、いいことではないですよね」

 しかし、その記者はさらに質問を続けた。

「そうですね。でも、私の疑問なんです。リブゴルフに興味があるのですか?リブゴルフに行くという話は真実ですか?」

 スミスは表情を硬化させて、短く答えた。

「わかりません。僕のチームも困っている。僕はゴルフの試合に勝つためにここにいるんだ」

 質問に対する直接的な答えにはなっていなかったが、スミスが言った通り、150周年大会となった全英オープンを制したばかりのチャンピオンに投げかけるべき質問ではなかったのかもしれない。

 だが、リブゴルフの在り方や創設のプロセスがこれまでのゴルフ界の常識を超えてしまっているせいか、リブゴルフに関わる一連の騒動も、これまでの常識では計れないような話が次々に出現している。そんな中、欧米メディアの動きも常軌を逸したレベルになりつつあるのかもしれない。

【全英オープンの姿勢が試金石になる!?】

 常軌を逸したムードは、今年の全英オープン開幕前から漂っていた。

 大会を主催するR&AのCEO、マーチン・スランバーズ氏は、開幕前の会見で欧米メディアからの質問が「150周年」「聖地」「全英オープン」に関するものではなく、リブゴルフ関連ばかりであることに強い不快感を示した。

 メディアの質問の中心は「今後、全英オープンがリブゴルフ参加選手を受け入れるつもりなのかどうか」という点だった。

「はっきり言っておくが、それは私たちR&Aのアジェンダ(議題)ではない。全英オープンは、あくまでも誰に対しても“オープン”な(開かれた)大会であり続ける。だが、出場資格に関して見直しや変更はすることになるだろう」

 つまり、リブゴルフ参加選手の出場を「禁止」や「拒絶」はしないが、「制限」はするという意味である。

 すでにリブゴルフに参加した選手たちの中には、来年あるいはそれ以降の全英オープン出場資格を有している選手たちが複数見られる。

 2020年全米オープン覇者のブライソン・デシャンボー、2020年マスターズ覇者のダスティン・ジョンソン、2018年マスターズ覇者のパトリック・リードらは、いずれも来年の出場資格を持っている。

 2013年全英オープン覇者のフィル・ミケルソンは60歳になるまで全英オープンに出場する資格があり、メジャー4勝のブルックス・ケプカの全英オープン出場資格は、あと2年有効だ。

 だが、そうした資格を見直し、改定する権限はR&Aにあり、リブゴルフ参加選手たちの全英オープンへの道が、地区予選からの自力出場を含め、大幅に狭められる可能性もある。

 しかし、扉を完全に閉ざすことだけはしないと明言したスランバーズ氏の姿勢は、今後、他のメジャー大会主催者のリブゴルフ参加選手への対応に影響を与えることになりそうである。

【リブゴルフ&アジアツアーが主戦場になる!?】

 150周年の記念大会だというのに、セント・アンドリュースでは「次にリブゴルフに移るのは誰だ?」という問いが飛び交い、欧米メディアは、そのための取材に躍起になっていた。

 その中で、「次」の筆頭に挙がったのがスミスだったのだが、そのスミスが優勝したとあって、欧米メディアはスミスの胸の内を尋ねずにはいられなかったのだ。

 スミスの返答は曖昧なままとなったが、すでにリブゴルフへ移籍したセルジオ・ガルシアは「僕はDPワールドツアー(欧州ツアー)のメンバーシップを返上する。ライダーカップ出場資格も捨てる」と、スペイン・メディアに明かしたそうだ。

 とはいえ、現段階でガルシアのライダーカップ・ポイントのランキングは80位以下ゆえ、わざわざ「捨てる」と言わずとも、彼が欧州チーム入りできる可能性は皆無に近い。

 それはさておき、気になるのは、ガルシアのこんな言葉だ。

「もはや(スター選手を失いつつある)欧州ツアーは、PGAツアー、リブゴルフ、アジアツアー、コーンフェリーツアーに次ぐ世界で5番目のツアーに成り下がるだろう。僕は、僕を求めてくれる場所でプレーしたい。今後は、リブゴルフとアジアツアーでプレーしようと思う」

 リブゴルフを率いるグレッグ・ノーマンは、すでにアジアツアーに合計4億ドルを投入し、実質的に傘下に収めている。

 それゆえ、リブゴルフ参加選手は、米欧両ツアーから締め出されても、今後はリブゴルフ&アジアツアーを主戦場にしていけばいいという姿勢。

 この姿勢は、ガルシアのみならず、すでにリブゴルフに移籍したポール・ケイシーやイアン・ポールターといった選手たちにも見られる様子で、このスタイルがリブゴルフ参加選手たちの新たな潮流になりそうな気配が漂っている。

【余波は、どこまで続く!?】

 リブゴルフへ移る「次」の候補者として、スミス以外にも、スウェーデン出身のヘンリック・ステンソンら数名の名前が挙がっている。

 ステンソンは来年のライダーカップの欧州キャプテンを務めることが決まっているにも関わらず、それさえも放棄してリブゴルフへ移ることが、今、現実として懸念されている。

 欧州チーム入りが完全なる「圏外」のガルシアはともかく、もしもキャプテン自らライダーカップを放棄し、チーム入りが確実視されているケーシーを筆頭に、リー・ウエストウッドやポールター、グレーム・マクダウエル、マーチン・カイマーらが、みなライダーカップにそっぽを向いてしまったら、歴史と伝統を誇る米欧対抗戦の存在意義は今後どうなってしまうのか。

 リブゴルフ騒動の余波は、とどまるところを知らない様子だ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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