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独エッセンのフードバンク騒動 4月3日より外国人新規登録再開・いまだ伝わっていない現場の真相とは?

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
ターフェルの食料品はすべて寄付。在庫がなくなると供給ができない(筆者撮影)

 「18年1月から外国人新規登録は中止する」と声明したドイツ西部ノルトライン・ヴェストファーレン州エッセンのフードバンク「ターフェル」(以下、エッセナー・ターフェル)支部代表の発言が議論の的となった。

 この決断に批判の声がやまないが、4月3日より外国人の新規登録を再開した。一体何があったのか、知られざる現場の真相をここで紹介したい。

 ターフェルは、スーパーやパン屋で売れ残った食品、あるいは寄付による食料を、生活困窮者に支援する民間団体。この団体の細かい説明は後ほどにするとして、ここでは、注目の的となったエッセナー・ターフェル代表イェルク・サルトル氏が何を言いたかったのか、そして問題はどこにあるのかを探ってみた。

 外国人の新規登録を一時ストップした本当の理由とは

 まず、注目の的となったサルトル氏の決断について、簡単に振り返ってみよう。

 サルトル氏は2017年12月、「18年1月10日より外国国籍の新規登録者は一時中止する」と声明した。これを受けて「外国人締め出し」と非難が殺到し、人種差別だという指摘が相次いだ。挙句の果てにはナチスという暴言まで出る始末。

 正確に言えば、外国人の新規登録を一時中止するといっただけ。それがまるですべての外国人を受け入れないかのような間違ったニュースが多くのメディアで報道されている点が残念でならない。

 その結果、外国人差別という短絡的な解釈がなされ、醜い暴言へとつながってしまった気がする。

 エッセンに12か所あるターフェルの登録者数は6000人。ハルツ4(生活保護手当受給者)や生活困窮者証明を提示すると、登録者として食料支給が受けられる。 

 サルトル氏の詰めるエッセン・ステーラー通りターフェルでは、月、水、金、そして土曜日に食料支援をしている。

 ところが近年は、食料受給は当然と理解し、ボランテイア女性への敬意が全く見られない外国人、シングルマザーや年寄りを押しのけ、我さきにと食料を受け取る人が目立つようになった。

 受給者のマナーの悪さが急増したのは、15年末、大量の難民がドイツに流入した頃からだという。

 サルトル氏の決断「18年1月より外国人の新規登録は中止する」には、様々な葛藤があったようだ。現場で日常茶飯事のように見られた醜い光景だけではなかった。 

 「ターフェルは居心地が悪くなった」と、足を運ばなくなってしまった高齢者の声も届いている。同氏は何が問題か、何が機能していないのかを考え始め、今回の発言に至ったようだ。

 フォークス誌2月23日のインタビューで、サルトル氏は次のように語っている。

 エッセンでは2年前35%を占めた外国人が、17年末には75%に膨れ上がった。ドイツ人にも多くの生活困難者がいることを忘れてはならない。受給者のバランスをとりたかった。ターフェルで支給できる食料には限りがある。

 このまま新規登録者や生活困窮者を受け入れ続ければ、半年後には外国人登録者への食糧支援は不可能となるだろう。2年後にはドイツ人登録者への供給さえもできなくなるかもしれない。

 今回の決断の狙いは、本当に困っている人に供給したかったから。差別をする気持ちは毛頭ない。国籍云々ではなく、本当に生活苦に直面している人を支援したいだけ。この決断に対し、後悔は全くしていない。

出典:フォークス誌

 また同氏のもとで支援活動に携わる副代表リタ・ネーベルさんは、今回の騒動で受けた批判に対し、「(自主的にボランテイア活動しているのに誠意が伝わっていない点が残念で)不当だ」と不満を漏らした。

 さらに、現場のボランテイア活動者も実情を明らかにしている。

 「最近特に、他人を押しのけて食料受給を求める人が目立つようになった。ドイツ人受給者の得る食料が、年々少なくなっている。サルトル氏の決断は間違っていない」

 ドイツ公共放送ARDの取材に対してドイツターフェル代表ヨッヘン・ブリュール氏は、「サルトル氏は、国籍を問題にしたのではなく、本当に困っている人を優先したかっただけ」と擁護した。

 サルトル氏はさらにこんな事実も明かした。「2月後半、250通のメールを受け取った。その8割がポジティブな意見だった。やっと本当のことを語ってくれたと」

 ターフェルが抱える問題

 ドイツターフェルは1993年ベルリンで発足した。当初の目的は、余った食料品を活用しようという、いわゆる「もったいない」がきっかけから始まった。

 生活困窮者への食料支援スポットとなったのは、ここ12,3年前からだ。現在930以上のターフェル支部があり、食料品支援地区は国内で2100に上る。ターフェル利用者は全国で150万人に上るが、ここ数年で高齢者の利用が急増した。 

 ここで注目したいのは、ターフェルはボランテイア支援者が充分ある大都市周辺に多いという点だ。ターフェルは、少しでも他人のためになればというボランティア6万人の活動により成り立っているといっても言い過ぎではない。

 エッセナー・ターフェルは、サルトル氏の発言が引き金となりハチの巣をつつくように攻撃され注目を集めた。だが、食料支援を取り巻く現場の様子は、他の都市でも似たような問題を抱えているという。

 3月8日発売のシュテルン誌でその模様が細かく紹介されているので、ここでいくつか取り上げてみたい。

  例えば18年前にバースナー夫妻が開設したルール工業地帯の街ボーフムのターフェル。現在国内一規模の大きい民間団体のフードバンクだ。

 2016年、難民者数が増すにつれて、ここでも競り合いや暴言を交わすシーンが目立つようになり、充分な食料を支給することができなくなった。登録者が出向いても支援する食料がない時もあり、同夫妻は、本当に申し訳ないと思っていたという。

 「ドイツ人ターフェル登録者の99,9% が、現状に失望している」(バースナー夫妻)

 そこで同夫妻はすべての受給者に食料を平等に配給するために、地元警察に事情を説明し協力を求めた。

 警官がターフェル敷地内を定期的に見回る、警備員を採用してボランティア支援者を誘導するなど、ガードを固めて食料支援を続けてきたという。こうした対策をとったことで、はじめて秩序ある食料支援が可能になったそうだ。

 しかし、大型バンや最新モデルのメルセデスベンツに乗って食料品受給に来るという人もいるといい、本当に生活困窮者?と、首をかしげたくなる登録者がいるのも事実だ。ソーシャルメディア(フェイスブック)で高級車に乗って受給に来る人の動画も公開されており、話題を集めている。しかも食料受給後、近くの市場で受給品(野菜や果物)を販売するグループもいるというから驚きだ。

 シュテルン誌によれば、このような異様な光景はあちこちのターフェルでもよくみられる風景だという。

 そしてここが大きなポイントだが、ターフェルは国の支援だと思う外国人が非常に多い点だ。期待していた肉が手に入らなかったり、パンの在庫がなくなると、ボランティアに向かって平気で暴言を投げかけたり中指を立てる(強烈な侮辱のサイン)ポーズをとる人がいる現状をどうやら政府は把握していなかったようだ。

 もはや民間団体だけでは解決不可の貧困と難民受け入れ問題

 本来、生活困窮者を助けるのは政府の仕事で、一介の民間団体であるターフェルがすべてを請け負うのは畑違いと批判の声もあがっている。 

 こういった論議が巻き起こる中で、エッセナー・ターフェルは4月3日より外国人の新規登録を再開した。今後は、国籍による対応ではなく高齢者や小さな子供のいる家庭を優先的に支援したいとサルトル氏は語った。

 ターフェル騒動から貧困格差、そして難民の生活保護問題が再び表面化し、波紋は広がっていった。議論が白熱した3月上旬、ドイツのテレビ番組で大変興味あるキャッチフレーズを目にした。

 2015年末、大量の難民流入時にメルケル首相は「私たちはできる」と声明した。それが今は、「あなたたちはできる」になってしまったという政府への批判を込めたメッセージだ。  

 そう、このあなたたちはターフェルや教育、家族への受け入れなどを通して、現場で難民を支えている一般市民を指すわけだが、政府が喫緊の対策をとらねば市民の不満も積もるばかり。

 メルケル首相は、17年10月に年間受け入れ難民者は20万人以下に抑える方針を決めたが、これだけでは市民の直面している問題は解決しない。

 3月中旬、第4次メルケル政権が固まった。同首相は「国内問題に重点的に取り組む」と誓言したが、今後の動向に目が離せない。

 

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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