「国民の血と汗を搾り取るのか」金正恩演説に国民の不満爆発
先月末の大雨と洪水で、北朝鮮の鴨緑江流域では、甚大な被害が発生した。韓国は今月1日、いち早く支援の用意があると表明したものの、北朝鮮はこれを完全に黙殺した。また、ロシアのプーチン大統領からの支援の申し出に対しては、金正恩総書記は謝意を表しつつも、「今後必要なときに助けを請う」として辞退した。
金正恩氏は被災地を視察し、家を失った人々の住むテントを訪れ、老人や子どもなどを首都・平壌で受け入れると述べるなど、自らの指導力アピールに余念がない。国際社会の支援の拒否も、この延長線上にあるのだろう。
だが、その目論見は北朝鮮国民に見抜かれてしまっている。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
被災地に所在する朝鮮労働党新義州(シニジュ)市委員会は、今月1日から市内の各企業所や朝鮮社会主義女性同盟(女盟)を周り、被災者に渡す衣類、生活必需品、家を補修するための資材の調達に必要だとして、1人あたり2万北朝鮮ウォン(約200円)から3万北朝鮮ウォン(約300円)を徴収した。これは、コメ3.5キロから5キロに相当する額で、ただでさえ飢えている庶民にはかなりの負担だ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
国民に供出させたものを、党や最高指導者の名前で配給することは今までもよくあったことで、国民はそのからくりに気づいている。
金正恩氏は被災地で行った演説でも、「多くの国と国際機関が人道支援を提供する意向を表明している」としながらもそれを受け入れず、「今回の被害復旧でも党中央と政府は一にも、二にも、十にもわが人民の愛国的熱意と勇気、わが国家の潜在力に頼る」と評みしている。
当然、国民は不満である。
「他の国が出すと言っている支援を断って、結局は住民からカネを搾り取る魂胆か」
「トウモロコシ数粒しか出す能力しかないのに、(国際社会の)良い提案をなぜ拒否するのか。ワケがわからない」
「結局は、人民の血と汗を搾り取ろうというものではないか」
「他の国の支援を拒否することが、本当に人民のための選択なのか疑問だ」
また、当局が被災者支援に積極的に乗り出すことで人心を掌握できても、結局、その費用を一般国民に転嫁することで背を向けられてしまい、「貪小失大」(目先の小さな利益にこだわり、大きな利益を失うこと)になるのではないかと、情報筋は指摘した。
「一朝一夕に家を失った人々にタダでトウモロコシを与えると、党と国家に対する忠誠心は高まるが、そのトウモロコシを用意するためにお金を出さなければならない人民は飢える。彼らは、党と国家がまるで敵になったようにうんざりしている」
「生きるだけで精一杯な人々に、被災者を支援せよと強制的にお金を出させるのは、乾いたタオルを絞るようなものだ。今回の洪水被害で党と国に不満を持つ人が大きく増えるだろう」(情報筋)
金正恩氏は以前、地方当局が様々な名目で住民から法的根拠なしに金品を徴収する「税金外の負担」を厳しく諌める発言をした。国民がこれに少なからぬ不満を抱いていることに気づいてのことだろうが、このような悪習は依然として続いている。