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【落合博満の視点vol.70】ペナントレースで開幕ダッシュより大切なこと

横尾弘一野球ジャーナリスト
キャンプの練習試合でノックを受ける中日の新人・津田啓史と辻本倫太郎(右から)。

 プロ野球12球団の春季キャンプは終盤に入り、2月23日には巨人×阪神×、中日×広島でオープン戦も始まった。これまではルーキーや新外国人の力量を見極めたり、注目選手の成長度が話題になっていたが、実戦が始まるとチーム力は勝敗に基づいて評され、それはペナントレースが幕を開けるといっそう熱を帯びる。そこで、リーグ優勝に近づくには開幕ダッシュが不可欠だと言われるが、落合博満監督が率いた2004~2011年の中日は、「今年こそヤバいのでは……」とファンやメディアをやきもきさせるほどスロースターターだった。

 以下が、落合監督時代の中日の3・4月の成績だ。

[2004年~2011年の中日ドラゴンズの3・4月の成績]

2004年 10勝10敗1引き分け  首位から1.5ゲーム差の3位タイ

2005年 16勝9敗       2位に2.5ゲーム差の首位

2006年 12勝8敗1引き分け  首位から4.0ゲーム差の2位

2007年 13勝12敗1引き分け  首位から2.0ゲーム差の3位

2008年 16勝9敗2引き分け  首位から2.5ゲーム差の2位

2009年 10勝13敗      首位から5.0ゲーム差の5位

2010年 15勝15敗1引き分け  首位から4.5ゲーム差の3位

2011年 6勝7敗1引き分け   首位から2.5ゲーム差の4位

 2005年は開幕ダッシュでリーグ連覇は確実かと思われたが、5月5日のヤクルト戦で内角を突いてきた藤井秀悟をタイロン・ウッズが殴って退場となり、翌6日から始まったセ・パ交流戦は出場停止に。すると、初体験の交流戦で勢いを失い、阪神にペナントを奪われてしまった。それ以外のシーズンは、優勝4回、2007年は2位からクライマックス・シリーズを勝ち上がったが、開幕から快走したシーズンは一度もない。

 それはなぜか。落合監督は「オールスター・ゲームまでの前半戦は、勝率5割でいけば勝負になる」と考えており、開幕ダッシュにはこだわっておらず、そうした選手起用をしなかったという点は大きいだろう。また、「90勝でぶっちぎりの優勝チームでも、50敗はしているんだ」と得意の数字を持ち出し、特に前半戦では選手に無理をさせない馬なりの試合運びに徹していた。

 そうした中でも、一番の理由は「開幕した頃は、選手が一番疲れている」というものだ。プロの春季キャンプとは、開幕から万全な状態でプレーできるように調整するものだと思っていたが、当時の落合監督はこう語った。

「もちろん、それもあるが、勝ち続けるために他のチームよりも質、量ともに高い練習もしているから。それに、春先に万全な状態にしても、寒い日もあるから目一杯は動けないこともある。それよりも、どのチームもキツくなる夏場でもペースを落とさず、勝負の秋にしっかり戦うためには、やはり厳しいキャンプで体力を養っておくべきだと考えている」

 そして、そんな落合監督の意図を十分に理解した選手たちが、右肩上がりのペースでペナントレースを駆け抜けていたというわけだ。近年、それに近い春季キャンプからの調整を見せているのが、中嶋 聡監督のオリックスではないか。実力が拮抗しているパ・リーグで、どんな展開になっても最後は勝っているという戦いぶりで3連覇を果たしており、今季は阪急時代の4連覇に並ぶことができるだろうか。また、新たに指揮官となった巨人の阿部慎之助監督や福岡ソフトバンクの小久保裕紀監督は、どんな考え方で長いペナントレースを戦っていくのか。

 監督それぞれの戦いは、春季キャンプから始まっている。そして、楽しみな2024年シーズンが近づいている。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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