何でいちいちフロント階で停止?→やりたくてやっているわけではありません!ホテルエレベーター問題(2)
ホテルをやっているとお客様から実にさまざまな声をいただく-というのはあるホテル支配人の弁。近年ではネット経由の予約が多くを占めており、好意的な感想から批判的な意見までネットの口コミ欄へは多様な書き込みがなされる。そんな投稿に対してのホテル側のレスポンス(口コミ管理)は“レピュテーションマネジメント”といわれ、運営の現場では重視されている。
そんな口コミの苦情で印象的な話があった。過日、ホテルエレベーター問題として、時間帯によってはなかなか来ないことをテーマとして記事にしたが、この記事が端緒となり、記事を読んでいただいたとあるホテルマネージャーとエレベーターについて話題になった。というのも、エレベーターといえばなかなか来ないこととは別のことを苦情として口コミに書かれてしまったというのだ。
そのホテルはフロントが2階にあり、チェックインに際しては1階からエレベーターで上がる形だ。チェックインの際は便利かもしれないが、滞在中に1階から直接客室フロアへ行こうとしても(或いは逆の場合にも)、都度2階で停止してドアが開く設定になっており、そのことに対しての苦情なのだという。
いちいちフロント階に停止させてドアを開閉というのでは、前掲記事のエレベーター来ないイライラ問題に繋がる部分があり、様々な点で効率が悪いというのは想像できる。この“フロント階で止まる話”は、以前にも他のホテル関係者からも客からの苦言という部分で話題になったこともあった。やはりイライラ感を覚えるゲストが多い問題なのだろうか。
「やりたくてやっているわけではないのですが・・・」と前出のマネージャーは続けた。実はホテル関係者であればよく知られた話であり、一般の方でも知っている方はおられるかもしれないが、「ご存じの通り行政(保健所)からの指導でありまして…」と解説してくれた。ネットで調べてみると京都市の例があったので以下引用する。
京都市旅館業法の施行に関する要綱 平成30年6月15日制定
(旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準)
第7条 旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準は令,条例及び市規則に定めるもののほか,次に掲げるとおりとする。ただし,特別な事情があると認められる場合については,この限りでない。
(中略)
建築物の出入口が付属する階以外に玄関帳場が設置され,玄関帳場に付属するロビー等にエレベーターの乗場戸がある場合であって,当該エレベーターが玄関帳場のある階で必ず停止のうえ,扉が自動で開口し,開口した状態が一定時間持続することにより,玄関帳場からエレベーターの内部全体を確実に直接視認し,客室を利用しようとする者を確認することができるときは,条例第8条第2号イの基準に適合しているものとする。-引用ここまで(太字筆者)。
別の全国チェーンホテルのエリア担当者からは「○○市や○○○市も厳しいですよね!」という話も出てきたが、最近を思い出すと東北のある都市で泊まった際にはそのホテルではスルーしていたし、先日も北関東の某都市のホテルでもスルーしていった。地域性がある事象なのだろう。いずれにしてもフロント階停止の意図するところは、セキュリティ、すなわち宿泊者以外の人物が客室フロアへ直行できることを忌避することであり、風紀の乱れを憂慮している。
その点では、ホテルとしてはセキュリティという面の実効性という部分も理解しつつ、都度停止していてはゲストに悪いという本音、行政の指導という建前といった狭間で様々な思いを抱えている。確かに、ホテルとしては宿泊者以外の(さまざまな目的での)客室侵入については目を光らせているところであり、セキュリティという点ではカードキーをかざさないとエレベーターが動かないスタイルも多くなってきた。
これは、宿泊者以外の客室フロア侵入という点では相当効果的だろうが、筆者の周囲の友人・知人に聞くと評判が悪い。先日泊まったホテルで朝食後にエレベーターへ乗り込んだら、右手に朝食のテイクアウトコーヒー、左手にスマホという男性がポケットに入ったカードキーを取り出すのに難儀していたようなので筆者が代わりにかざしたこともあった。まぁ一度スマホをポケットに入れてカードキーを取り出せばいいのだろうが、素早いボタン操作も求められるシーンゆえに手間といえば手間だ。
エレベーターのセキュリティといえば、エレベーターを降りたところにワンクッションあるスタイルも時々見かける。スペース的にエレベーターなら叶わないかもしれないが、こういうスタイルならば荷物をいったん置く台など設置できそうだ。様々な法令や制約のもとに造られるホテルであるが、ゲストがより高い利便性・安全性を享受できるようなホテルが増えることを願ってやまない。
どんな仕事でも同様だろうが、業界の常識と一般の認識では時に乖離していることがある。特にホテルには身を置き滞在するという側面があり、より身近な問題として感じられたテーマであった。