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世界一を達成したカブス指揮官がみせた常識破りの若手育成術

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
優勝パレード後のイベントで挨拶するカブス・マドン監督(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

カブスが遂に“ヤギの呪い”を打ち破り、108年ぶりにワールドシリーズ(WS)を制覇した。

今シーズンは両リーグ最多の103勝をマークし、ポストシーズンもその勢いのまま勝ち進み頂点を極めた。改めて就任2年目のマドン監督の采配が高い評価を集めているのは言うまでもないだろう。

中でも注目すべき点が、若手選手の育成方法だ。WS第2戦ではWS史上初めて、スターティングメンバー9選手(DH採用なので投手を加えれば10人)のうち6人を25歳以下の選手を起用して周囲を驚かせた。

しかもWSの登録枠25選手のうち約1/3の8名が25歳以下で構成。そんな若手選手たち各人が大舞台でも活躍をしたお陰でポストシーズンでも勝ち続けることができた。

ここで特筆すべきは25歳以下の8選手のうち、メジャー初昇格が2014年だった選手はバエス選手、ソレア選手の2人だけ。残り6人はすべてマドン監督の指揮下でメジャー昇格した選手なのだ。

仮にこれらの選手が他の監督の下でプレーしていたとしたら、果たしてこれだけの活躍をできたか疑わしい。それほどマドン監督の育成方法は独特そのものだった。その根本にあるのが部手練選手同様に若手選手たちの自主性を重んじたことだった。

今シーズンのマドン監督の采配で特徴的だったのが、ミーティングの撤廃とシーズン途中から試合前の打撃練習を必須ではなくオプション制(希望者のみで行う方式)に切り替えたことだ。指揮官はその意図について以下のように説明している。

●ミーティングの撤廃

「元々自分がミーティングを好きではないというのがある。それに今シーズン、チームとしての目標、さらに我々がやるべきことはスプリング・トレーニング中に説明してあるし、選手たちも皆理解している。これ以上こちらから説明することはない」

●打撃練習のオプション制導入

「シーズン中盤以降、我々が選手に対し一番気をつけなければならないのが疲労だ。それは各選手が一番理解している。チームとしての基本練習はスプリング・トレーニングで十分やったし、だから1ヶ月半もの期間が与えられている。もちろん打撃練習、守備練習が必要だと思えば、選手がしたいようにすればいいし、コーチも全面的に協力する」

結局マドン監督はこの姿勢をポストシーズンに入っても崩すことはなく、最後まで若手選手たちの自主性を重んじ、彼らもそれに答えるように最後まで溌剌としたプレーを続けた。

ただマドン監督は若手選手に対してベテラン選手以上に目を光らせていたことがある。それは“メンタル・ミステイク”(メンタル的なミス)の予防だった。

「選手が失敗することは仕方がないこと。それは若い選手だって同じだ。それはまったく問題ない部分だ。しかし彼らがメンタル・ミステイクをしていないかはいつも意識している。そういう時はしっかり彼らと話し合うようにしている」

例えば、若手選手が調子に乗って野球と向き合う姿勢に問題があったり、プレー中に不必要な態度を見せた時なのは、彼らが納得するまできちんと話し合いを行った。

自分が現場で取材をして若手選手を見てきた限りにおいては、彼らはマドン監督が与えた環境に甘えることなく、逆に彼らの向上意欲、責任感を刺激し、自らの意識で成長意欲を芽生えさせていったように思う。ポストシーズンでの彼らの活躍がそれを証明しているだろう。

MLBでも他のチームなら、現在も若手選手に対してはシーズンを通して基本練習を重要視しているし、ミーティングを行いながら様々な知識を植え付けようとするのが一般的だ。日本のプロ野球ではさらにそのカラーが強いように思う。

果たしてマドン監督の育成方法がMLB球界に一石を投じることになるのか?ただ野球界に限らず、マドン監督の思考法、采配は十分に一般社会にも反映できるものではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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