藤井聡太棋聖が驚愕の構想で山崎隆之八段を完封!~第95期ヒューリック杯棋聖戦第1局~
6月6日(木)、第95期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局が行われ、藤井聡太棋聖(21)が挑戦者の山崎隆之八段(43)に勝利しました。
振り駒で先手になった山崎八段は得意の相掛かりを選択しました。
駒組み段階で作戦勝ちを収めた藤井棋聖は、プロも驚愕の構想でリードを奪い、逆転を得意とする山崎八段を完封して勝利を収めました。
プロも驚く構想とは
図では陣形のまとまりがいい藤井棋聖の作戦勝ちです。
先手がやや立ち遅れているのは、▲7七銀の一手が▲7五歩に代わっていること、飛車や玉の動きで手損している(飛車は2八→2九→2六、玉は5八→6八と動いた)ことが理由として挙げられます。
しかし、少し形勢が悪いところから混戦に持ち込み、最後は勝ってしまうのが山崎八段の将棋の特徴です。勝負はこれからと思われていました。
図の▲6八玉も5八から寄って陣形の立て直しをはかった手で、容易に崩れないように指していることがわかります。
まだ駒組みが続く、誰もがそう思う中で指された△3五歩には驚かされました。藤井棋聖は囲いを崩して攻めに出たのです。当然の▲3五同歩に△3四歩▲同歩△同銀右と進むと△3五歩の狙いがわかります。
守りの銀を繰り出し、△3五銀▲2九飛△3六歩で桂得する手を狙っているのです。
この構想には控室にいた棋士も驚きの声をあげました。
「玉の反対側から戦いを起こすべき」というセオリーを無視しているからです。
▲2六飛や▲6八玉と手損を受け入れて山崎八段が陣形を立て直したところでもあります。
しかし、この構想が秀逸でした。山崎八段側から見ると、右辺から攻められると左辺の壁が玉の逃げ道を塞いでいるのがネックです。藤井棋聖が桂を持つと△7六桂の王手銀取りも厳しく、7五歩型が悪い形になっているのも辛いところです。
一気の決着
先ほどの△3四同銀右に山崎八段は▲2九飛と先受けして長期戦を目指しました。
しかし▲2九飛の受けに対してさらに攻勢を強めた藤井棋聖、図の一手が山崎八段に立て直しを許さない素晴らしい一手でした。
▲1七角に対して△3四歩と銀取りを防ぐのが普通ですが、歩を打たせることで△3六歩(桂を取る手)を消すのが▲1七角の狙いです。とはいえ、△3四歩としても後手が十分と見られていましたが、藤井棋聖は△3四銀と再び囲いを崩し、銀取りを受けながら攻めに厚みを加えました。
この一手が実戦的に指しにくい手ながら、緩まずにリードを広げる好手でした。
今度こそ△3六歩がくるため▲3六歩はやむを得ず、以下△同銀▲同銀△同角と進みました。
その場面で△3四銀と指したために▲4四角の活用が生じてしまうのが△3四銀の弱点であり、それゆえに指しにくい手なのです。しかし、藤井棋聖の読みはさらに先を行っていました。
図の▲4四角に対して、△4七銀とさらに攻勢をかけたのが好着想で、形勢が藤井棋聖に傾いたことが誰の目にも明らかになりました。
▲同金△同角成では先手陣が崩壊して勝負になりません。
金を逃げるようでは大勢に遅れるとみて実戦で山崎八段は▲2四飛と金取りを手抜いて勝負に出ましたが、藤井棋聖は△4八銀不成とまたも攻めの手を優先して一気に勝負を決めました。
藤井棋聖の強さ
「肉を切らせて骨を断つ」を地で行くような構想には唸らされました。
昨日、筆者は棋士仲間たちと食事をしていたのですが、その場にいた全員が藤井棋聖の一連の構想に感嘆し、称賛していました。
対戦相手が粘り強い山崎八段だっただけに、その山崎八段が全く粘れなかったことも藤井棋聖の構想の素晴らしさを物語っています。
この一局に関しては、藤井棋聖の強さばかりが目立った、そんな印象です。
果たして山崎八段は巻き返すことが出来るのか。
注目の第2局は6月17日(月)に行われます。