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掻いても掻いても治らない慢性の痒み「慢性そう痒症」の全てを知ろう

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【慢性そう痒症とは?症状と病態】

慢性そう痒症は、6週間以上続く慢性的な痒み、繰り返しの掻破行動、そして痒みを伴う皮膚病変を特徴とする神経炎症性皮膚疾患です。痒みのために患者のQOL(生活の質)は著しく損なわれ、不眠や抑うつなどの心理的ストレスを伴うことが多いのです。

慢性そう痒症には複数のサブタイプがありますが、最も一般的なのが結節性痒疹(CNPG、別名Prurigo nodularis)です。サブタイプ間で痒みの強さやQOLへの影響に大きな差はなく、いずれも「慢性そう痒症」という疾患概念で括ることができます。

皮膚の病変は、丘疹(直径1cm未満)、結節(直径1cm以上)、局面、臍窩状の丘疹・結節、線状病変など多岐にわたります。同一患者内で複数のタイプの皮疹が併存することもあるのです。罹患部位は四肢や体幹に多く、肩甲骨間に皮疹を欠く「バタフライサイン」が特徴的です。

【慢性そう痒症の診断と検査】

慢性そう痒症の診断は主に臨床所見に基づいて行われますが、原発性皮膚疾患の除外などのため、場合によっては皮膚生検による病理組織検査や蛍光抗体法が有用です。肝臓、腎臓、脾臓、リンパ節の触診や特異的な検査により、慢性そう痒症の原因となる全身疾患の有無を調べることも大切です。

血液検査では一般的に、血算、CRP、肝機能(AST、ALT、γGT、ALP)、腎機能(クレアチニン、eGFR)、LDH、TSHなどを評価します。リンパ節・腹部エコーや胸部X線により、慢性そう痒症の悪性腫瘍の関与を除外します。また、6週間以上持続する痒みの特徴や程度、薬物、合併症などを含めた詳細な病歴聴取が肝要です。

【慢性そう痒症の治療と展望】

慢性そう痒症の治療は、ガイドラインに従って段階的に行うのが原則です。外用療法(ステロイド、カルシニューリン阻害剤、局所麻酔薬、カプサイシンなど)、光線療法(特にナローバンドUVB、PUVA)、レーザー治療(エキシマレーザー)などが選択肢となります。

中等症以上の慢性そう痒症には、ガバペンチノイド、従来型免疫抑制剤(シクロスポリン、メトトレキサートなど)、神経調整療法(オピオイド調整薬のナロキソン、ナルトレキソンなど)、生物学的製剤(デュピルマブ、ネモリズマブなど)、JAK阻害剤など、多彩な全身療法が適用されます。

デュピルマブは、中等症から重症の結節性痒疹に対して現在承認されている全身療法です。IL-4とIL-13のシグナル伝達を阻害することで、2型炎症を調整します。第III相臨床試験PRIME・PRIME2では、投与12週目で37.2%、24週目で60%の患者で痒みスコアが4ポイント以上改善しました。また、IL-31阻害剤であるネモリズマブも2024年より使用可能となりました。

今後、オンコスタチンM受容体、KITなど、慢性そう痒症の病態に関わるさまざまな免疫経路や神経系の標的に対する新薬の開発が期待されています。

参考文献:

・Ständer S, Zeidler C, Augustin M, et al. S2k guideline: Diagnosis and treatment of chronic pruritus. J Dtsch Dermatol Ges. 2022;20(10):1387-1402.

・Yosipovitch G, Mollanazar N, Ständer S, et al. Dupilumab in patients with prurigo nodularis: two randomized, double-blind, placebo-controlled phase 3 trials. Nat Med. 2023;29(5):1180-1190.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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