「ドラえもんは3mm浮いている」という設定がある。それは「反重力」があれば可能なのだろうか?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
皆さん、ドラえもんの足は地面から3mm浮いている、というのをご存じでしたか!?
いまでは正式にそういう設定らしいのだが、マンガの連載が始まったときは、そんな設定はなかった。
ところが『ドラえもん』がアニメ化され、多くの子どもたちが見るようになった頃、PTAの人から放送局に苦情が来たらしい。
「裸足で外を歩き回って、そのまま家に上がるのは、教育上よくない」。
うわ~、そんなコトいう人がいるのか~。
それに対する作者の藤子・F・不二雄先生の対応が
「未来の技術で、ドラえもんの足はいつも地面から3mm浮いているのです」だったという。
スバラシイ切り返しだ!
これなら『ドラえもん』の世界観も壊れないし、これまでどおり堂々と空き地を走り回れる!
こうして「常に3mm浮いている」という設定になったドラえもんだが、空想科学的にも興味深い題材である。
ドラえもんが3mm浮いていると、どういうことになるだろうか?
◆反重力とは何か?
ドラえもんはどうやって3mm浮いているのか?
これにはちゃんと理由があって、「反重力の機能で地面から浮いている」ということらしい。
ひみつ道具には、重力を操るものがいくつかあるが、ドラえもん自身の体内にも反重力を生み出す装置が内蔵されているのだろう。
「反重力」は、いろいろな作品に登場する。いったいどういう力なのだろう?
電気や磁力には、それぞれ「引力」と「反発力」があるから、同じように重力にも反発力があり、それが反重力……なのだろうか。
現実の科学では「重力には引力しかない」とされているが、ここでは22世紀の技術で反重力を生む装置が開発された、と考えよう。
それが体に働く重力と釣り合っていれば、体を浮かせることはできるはずだ。
その場合、反重力装置をつける場所が問題となる。
足についているという説もあるようだが、それだと難しいように思う。
地面にN極の磁石を敷き詰め、靴の裏にもN極の磁石を貼りつけたら、地面と靴が反発し合って、ひっくり返る。
足に反重力装置があると、それと同じことが起こってしまうからだ。
転倒を避けるためには、反重力装置は頭につけたほうがいいだろう。
そうすれば、頭は上向きに引っ張られ、体は下向きに引っ張られるから、姿勢が安定する。
◆3mmで安定するとしたら
ただし、ここで「3mm」が問題となる。
イラストのA(真ん中)を見てほしいのだが、ドラえもんの足と地面の距離が3mmのとき、重力と反重力が釣り合っている……としよう。
この状態からドラえもんがちょっと動いて、足と地面の距離が3mm以下に近づいてしまうと、どうなるか?
重力の働く「重心」が、地球の中心にわずかに近くなる。
すると重力も反重力も強くなるが、計算すると重力の増大率が少しだけ上回る。
この結果。重力が反重力を上回り、ドラえもんの足は地面に着いてしまう(イラストのB)。
また放送局に苦情を言うヒトが出てくるかもしれない。
逆に、足と地面が3mm以上離れてしまったら?
やはり重力と反重力のバランスが崩れて、今度は反重力が重力をわずかに上回る。
上向きに引っ張る力が勝るから、ドラえもんは徐々に上昇していく(イラストのC)。
下がるときは地面があって着地するだけで済んだが、屋外だったら上には何もない。ヘタをすると、そのままずんずん上昇し、宇宙の彼方まで行ってしまう。
つまり、しっかり「地面との距離3mm」を維持しないと、地面に着くか、どこまでも上昇していくか……になってしまうのだ。
また、ドラえもんが寝転がるなどして、反重力装置のある頭部を地面に近づけると、重力と反重力が反発し合って、ドラえもんの頭はバイン!と弾き上げられてしまうかも……といった心配もある。
重力と反重力という相反する二つの力をコントロールするというのは、かなり難しいのである。
もちろん、22世紀のテクノロジーで、常に距離3mmを維持できるように、反重力を強くしたり弱くしたり……という細かな操作がなされているのだろう。
それでも、足が浮いていると、地面のあいだには摩擦が働かないから、地面を蹴って進むことはできない。
「そもそもドラえもんはどうやって前進しているの?」という大きな問題が残ってしまう。
3mm浮いたまま日常生活を送るというのは、なかなか大変である。
ドラえもんが生まれた22世紀のテクノロジーは、それらを難なく解決しているのだろう。
『ドラえもん』の世界は、本当に夢とロマンあふれている。
考えるたびに感服してしまう。