引退して1年・・・「代打の神様」桧山進次郎氏の今
「代打の神様」として名を馳せた桧山進次郎氏が、野球解説者としての1年を終えた。引退してなお衰えぬ人気に、あちらこちらから仕事のオファーが絶えない毎日。現在は関西の朝日放送でテレビ、ラジオのレギュラー出演や日刊スポーツでの評論に加え、講演、トークショー、野球教室などと多忙を極めている。
11月30日には、現役時代から続けているファンミーティング「ヒノキガタリ」を地元・京都で開催し、122名のファンが集まった。関東や九州からも駆けつけてくれたファンに、惜しみなくサービスをした桧山氏。現役時代と比べて5キロ痩せ、洋服もXOからLにサイズダウンしスリムになった姿に、女性ファンから黄色い歓声が注がれた。
■「野球バカやった」
イベントの中で、ファンから「早くタイガースの監督になってください」という要望があった。これには桧山氏、「まだまだ勉強中で、今の自分には無理」と即答した。「もし今後、そういう時期が来て、『桧山の力を貸してほしい』と言われることがあれば。そう言ってもらえるように、今は色んな勉強をしていきたいと思っている」と話した。
前打撃コーチの水谷実雄氏からも「お前は指導者にならなアカン。これを覚えとけ」と教わったのが「眼力・判断力」の重要性だ。水谷氏の打撃指導論によると、「打撃の10の力が9、8くらいでは何も言わなくてもええ。5になるかならんかになった時には的確なアドバイスが必要や」という。5以下になってからでは、戻すのは至難だそうだ。「それを見極める目を持てと言われた」と桧山氏は明かす。
またアドバイスも「するだけでは考えなくなるヤツもおるし、考えさせると悩み過ぎるヤツもおる。性格も見極めなアカン」とのことで、桧山氏も「そういう意味でも色んな人と会って、人を見る勉強もしないといけない」と語る。
これまでの自分を「野球バカやった」と言い切り、「その分を取り返さないとあかんから」とジャンルを問わず何にでも興味を持つ。現役時代から様々な分野の人との交流を大切にしてきたが、今は更に意識的にどの分野の人とも会うように心掛けているという。
年齢も問わない。「人生の大先輩には昔のことを聞く。若い頃は鬱陶しかったのに、今は楽しいもんね。若い子からは、今何が流行っているのか、どういうことを考えているのかということを聞いたりね」。
「元々、疑問に思ったことを追究したいタイプ」と言い、「なんで?」「なんで?」と、さながら成長過程の子供のように様々な疑問を見出しては調べ、人に尋ね、スポンジのごとく吸収していっているという。「政治、経済、国際、芸能、他のスポーツ…覚えることが多くて、頭パンクしそうや」。そう言いながら、どこか楽しそうだ。
■解説者としてのプロ意識
引退して1年が過ぎ、現役時代とは全く違う生活を送っている。「何が変わったかというと、プレッシャーというものが無くなったということかな。もちろん今の仕事の緊張感はあるけど、絶対に結果を出さないとというのとは違う。辞めてみて『そんなところでやってたんやなぁ』と感じる」。しみじみとした口調に、現役時代のプレッシャーが相当なものであったことが感じられる。
今シーズンの解説には、反省点が多々あったと振り返る。「短い時間の中で、もっとわかり易く説明できればよかった。もう少し付け加えたいなぁと思っても場面が変わっていたりもするし、数秒間の中でいかにわかり易くまとめて喋れるか。頭の回転が速くないとね」。
解説者といっても様々だ。試合開始直前に球場に来て、試合中に起こったことに対して見たまま喋るだけの人もいる。しかし桧山氏は違う。仕事の都合もあるが、出来る限り練習から見て、選手や首脳陣と言葉を交わし、試合に臨む。そして自身に高いハードルを課して言葉を紡ぐ。そこには、その世界のプロであろうとする姿勢が窺える。
「解説1年生やからね。もうプロ野球選手じゃなく、違う世界の1年生。失敗もたくさんあるけど、それを糧にして次に進もうと思っている。若手選手に言っていることが、そのまま今の自分に当てはまる」と常に謙虚な姿勢でいることも、プロ解説者としての高い意識の顕れである。
解説をしていて、タイガースが劣勢な時など歯痒い思いをすることもあるかと思いきや、「打つ、打たないに対しては、そういうのはないな。残念に思うことはあっても。失敗は当然ある。失敗の連続が野球なんやから」と意外にも落ち着いて見ていられるようだ。
だが「それよりも」と続けた言葉が桧山氏らしい。「同じミスやうっかりミスには腹立つね。『何しとんねん!』と。タイガースの選手だけじゃないよ。相手チームに対しても、野球人として許せないね」。そういう時には、語調も厳しくなるが、それは“野球人”として幅広く選手やプレーを見ているからこそなのだ。
■緊張感の重要性
今季のタイガースの戦いぶりを見て、9月のドラゴンズ戦、ジャイアンツ戦での6連敗を課題に挙げる。「大事なところでズルズルいってしまった。そういう時に誰かが締めないと。そうなってしまってからでは遅い。その前に必ず予兆がある。その時にピリッとさせる人が必要」と提唱する。「平田さんが1軍ベンチに入るから、締めてくれるんじゃないかな。戦力は整っているから、優勝する力は十分にある。どれだけ緊張感を持てるか。緊張感がないと、いい結果は出ないから」。
自身も外野を守っている時、常に緊張感を保つためにしていたことがあるという。「1球1球、ピッチャーを応援していた。『頑張れ!』『抑えろ!』って」。そうすることで凡エラーやカバーリングの遅れも無くすことができたそうだ。どのポジションでも、どの打席でも、緊張感を持つことでプレーが変わってくる。今後もそれを訴えていくつもりだ。
■来るべき日に備えて・・・
今季も球場で多くの桧山ユニフォームを見かけた。桧山氏もそれがとても嬉しかったそうだ。街を歩いている時などに「解説、聴いてますよ」や「楽しませてもらってます」などと言われることも多く、そういう時に仕事のやりがいを感じるという。「今までは結果を出すことで皆が喜んでくれたけど、今は違うからね。自分の仕事で気持ちが和んでくれたりするのが、やりがいやね」。
新たなやりがいを求めて、日々研鑽を積む桧山氏。来るべきユニフォームに袖を通す日に向かって―。