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厚切りジェイソンが明かす自らの“限界点”

中西正男芸能記者
仕事への思いをストレートに語った厚切りジェイソン

 IT企業役員、タレントと二つの顔を持つ厚切りジェイソンさん(34)。新型コロナウイルスの感染拡大が再び危惧される中ですが、タレント活動と役員としての仕事を両立させるため、以前からテレワークを駆使してきました。ジェイソンさんだからこそ感じるテレワークの課題と今後。そして、その入口から見た自身の“限界点”についてもストレートに言及しました。

テレワークの可能性

 私の仕事の現状を申し上げますと、勤めている株式会社テラスカイの本社は東京・日本橋にあるんです。ただ、その中で僕はアメリカ法人を担当していて、そちらの所在地はカリフォルニア州、シリコンバレーのあたりにあるんです。

 でも、芸能の仕事を始めた5年前からどちらにも行かず、基本はメールや電話、画面共有ソフトなどを使って連絡を取って仕事を進めています。

 富士通さんが今後もテレワークをやっていきますと表明されましたけど、もともと、アメリカではテレワークは珍しくないんですよ。アメリカは広いから、ホームオフィスから働いている人もたくさんいますしね。

 先ほど、僕が担当しているアメリカ法人はカリフォルニア州にあると申し上げましたけど、一番取引している会社はテキサス州にありまして、実際に行くと飛行機で4時間くらいかかるんです。なので、基本的には担当者がリモートでやりとりをするのが日常なんです。

 もっと言うと、僕は新卒の時はアメリカの「GE Healthcare IT」に入って医療系のプログラミングをやっていたんですけど、チームがインドやヨーロッパにもあったんです。なので、アメリカとインドとヨーロッパのチームが電話やメールでやりとりして、時差の関係があるので、24時間体制でずっとチームは動き続けることになるんです。こっちが寝ている間に向こうは働いているし、グローバルに回せるような形が取れる。そうすると、奇跡的な生産性が見せられるんですよ。

 例えば、社長が夜に「明日、朝一番に〇〇社の担当者さんと会うので、それに向けてこの資料を作ってください」と他の地域のチームに声をかけておいたら、朝には資料ができあがっている。社内的にもそういう便利さがありますし、お客さまからしても「え、昨日話したばかりなのに、もうできあがったの!?」と感動的な速度が実現できたりもします。

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「よろしくね!」が通じない

 ただ、そうやってリモートをフル活用してグローバルにやっていくと、どうしても出てくるのが「全てを具体的に指示する」ということです。

 同じ国で、同じ文化で、同じような育ち方をして、ましてや同じ職場で日々の作業を共にしている人たちならば「よろしくね!」で通じることがたくさんあります。

 でも、それを他の国のチームに伝えるとすると、全てを明確に指示しておかないとなかなか成立しません。実際、僕がアメリカから各国とリモートで仕事をしていた時も、これでもかと事細かに仕事のやり方を書いて、各地のチームに指示していました。

 日本は全般的に「そこまで言わなくても、何となく分かるだろう」という空気がすごく強い国ですが、距離が離れたり、文化を越えるとうまくいかない部分が出てきます。これは必ず出てくるんです。

共感の難しさ

 実際、僕も芸能の仕事を始めた時に、それを強く感じました。文化の違いを踏まえての芸能の仕事、特に、芸人としてネタを作って笑ってもらうという中で、文化を共有していないことはすごく大きなことだと思ってはいましたが、本当に難しいと感じました。

 芸人として何かタイトルを獲得するとなると、ピン芸人なので基本的には「R-1ぐらんぷり」になると思うんですけど、ネタの方はもう正直無理だと思います。

 僕は日本人とは環境も教育も違う中で育ちましたんで、特に“共感”という部分が難しいんです。みんなが知っている日本のベテラン俳優さんのモノマネとかもできないし、かといって、アメリカの人気者のモノマネをしてもお客さんからしたら「?」となってしまう。

 なので2015年に「R-1ぐらんぷり」に出場した時には漢字などに対して「外国人から見たら、ここはおかしい」という方向のネタを作って、何とか決勝までは行けましたが、これはその時の自分の鮮度、インパクトなどを考えても、ずっとやれるものではない。今でも、もし新しい方向が見つかればまたネタをやりたいとは思っていますが、それはとても難しいことだと考えています。

 今後、芸能の仕事でやっていけたらなと思うのは「楽しんで仕事をやることイコール不真面目ということではないんだよ」ということが伝わるような企画ですね。最近は知識を生かした方面の仕事が増えていますけど、体力にも自信がありますので(笑)、過酷な環境で冒険するとか、そういうお仕事もさせてもらえたらなと思っています。

 あとは、娘が3人いるんですけど、彼女らに見せたいと思える仕事をしていけたら本当にありがたいことだと思います。

 これは、家でもそうなんですけど、どうなってほしいかを言葉で伝えるよりも、行動で見せる方がいいと思っているんです。例えば、毎日娘たちに英語を教えているんですけど、頭ごなしに「英語の勉強をしなさい」と言うのではなく、僕は僕で漢字の書き取り練習を毎日しています。そして、あえて、その姿を見せることで「やりなさい」ではなく「パパもやってるよ」ということを伝える。テレビのお仕事でも、そんなことが伝えられたりしたら、これはとてもうれしいことです。

 もちろん、良いネタを思いついて、それが芸人の仕事でできるなら、それもやってみたいんですけどね。

 以前も、事務所のライブに出て新しい模索として、どんな料理にも僕がピーナツバターを塗って食べるという一人コントをしたんです。お寿司屋さんに行っても「味が薄い」と言ってピーナツバターを塗りたくる。ただ、思いっきりスベりました…(笑)。これはね、本当に難しいけど、挑戦する気持ちは持ち続けたいと思います。

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(撮影・中西正男)

■厚切りジェイソン(あつぎりじぇいそん)

1986年4月9日生まれ。アメリカ出身。本名はジェイソン・ダニエルソン。身長186センチ。ミシガン州立大学工学部卒業。IT企業の役員を務めるかたわら、ワタナベエンターテインメントの先輩にあたる「ザブングル」の加藤歩の勧めで養成所に入り、2014年にデビュー。「R-1ぐらんぷり2015」では決勝に進出する。TBS「グッとラック!」などに出演。講演活動なども精力的に行っている。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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