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乳児期のピーナッツ摂取でアレルギー予防!?衝撃の最新研究結果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【乳児期のピーナッツ摂取がアレルギー予防に効果的】

イギリスの研究チームが、生後4〜11ヶ月の乳児640人を対象に行った大規模な臨床試験「LEAP研究」の結果、ピーナッツアレルギーのハイリスク乳児に対し、早期からピーナッツを与えることでアレルギー発症リスクが大幅に減少することが明らかとなっています。

研究では、アトピー性皮膚炎や卵アレルギーのある乳児を、ピーナッツを摂取するグループと避けるグループに分けて5年間追跡。その結果、ピーナッツ摂取グループでは、非摂取グループと比べてアレルギー発症率が86%も低かったのです。

この結果は、従来の「アレルギーの家族歴がある場合、離乳食でアレルゲン食品を避けるべき」という考え方を覆すものです。早期の経口摂取が免疫寛容を誘導し、アレルギー予防につながる可能性が示唆されました。

日本ではアレルギーへの懸念からピーナッツを離乳食に取り入れることを躊躇する親御さんも多いかもしれません。しかし、今回の研究結果は、早期摂取のメリットを示唆するエビデンスとして注目に値します。ハイリスク児の場合、医師とよく相談した上で、慎重に取り入れていくのもよいかもしれません。

【ピーナッツアレルギーの急増と予防の重要性】

欧米では近年、ピーナッツアレルギーの子どもが急増しており、社会問題となっています。アメリカの調査では、ピーナッツアレルギーの有病率が2010年の1.4%から2018年には2.2%に上昇。日本でも、ピーナッツを原因とする食物アレルギーの報告が増えてきています。

ピーナッツアレルギーは小児期に発症することが多く、重症化するリスクが高い。時に命に関わるアナフィラキシーショックを引き起こすこともあります。ピーナッツアレルギーの治療法は未だ確立されておらず、原因食品の除去が基本です。そのため、発症予防が非常に重要だと考えられるのです。

LEAP研究は、ピーナッツアレルギーのハイリスク児に早期摂取を促すことで、発症を大幅に抑えられる可能性を示した点で画期的です。

【乳児期のピーナッツ摂取の安全性と注意点】

一方で、ピーナッツを早期に与える際の安全性への配慮も欠かせません。LEAP研究では、ピーナッツ製品の経口負荷試験でアレルギー反応が出た乳児には摂取を中止するなど、慎重に進められました。

乳児にピーナッツを与える際は、窒息の危険があるためペースト状にするなどの工夫が必要です。自家製で与える場合は、ピーナッツをよく砕き、ミルクやお湯でのばすとよいでしょう。市販のピーナッツバターを利用するのもおすすめです。

アトピー性皮膚炎のある乳児は、皮膚からピーナッツタンパクに感作されている可能性があります。LEAP研究の知見は、皮膚からの感作を経口摂取により防げる可能性を示唆していますが、重度のアレルギー反応のリスクもあるため、必ず専門医に相談しましょう。

ピーナッツアレルギー予防のための乳児期の摂取は、リスクとベネフィットを考慮しながら、医師と相談の上で慎重に検討していくことが大切だと言えるでしょう。

参考文献:

Du Toit G, et al. Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy. N Engl J Med. 2015;372(9):803-813.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1414850

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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