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「乗客400体、赤黒く凍り谷底に散乱」北朝鮮列車事故の生々しい現場

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 昨年末、北朝鮮の首都・平壌から東海岸の鉱山都市に向かっていた列車が、急勾配で脱線、転覆し、数百人が死亡したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が16日付で報じた。

 咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋が伝えた事故の詳細は次のようなものだ。

 先月25日午前、平壌駅を出発した11両編成の列車は、端川(タンチョン)市の検徳(コムドク)鉱山最寄りのクムゴル駅に向かっていた。所要時間は13時間で、傾斜の多いルートだ。

 列車は端川駅、汝海津(ヨヘジン)駅を経て、クムゴル線に入った。その後、北大川(プクテチョン)沿いの谷を通り、途中の東徳(トンドク)駅からの20キロの区間で、700メートルの高度を駆け上る。

 当日は大雪だったこともあり列車は徐行していたが、梨坡(リパ)駅の直前で、電気機関車の車輪が空回りを起こし、坂道を逆走し始めた。電圧が低いのが原因だった。運転士はなんとかブレーキを掛けて列車を止めようとしたが加速する一方だった。

 そして、新坪(シンピョン)駅の手前の急カーブで真ん中の客車が脱線、その勢いで後方の客車が谷底に転落した。残りの客車は東厳(トンアム)駅まで逆走しつつ次々に脱線して、谷底に落ちていった。無事だったのは機関車とその後ろに連結された「上級列車」と呼ばれる幹部用の車両2両だけだった。

 一般的に北朝鮮の列車編成は機関車、上級列車2両、一般客車7両、郵便車1両の11両で、一般客車には60座席がある。今回の事故で谷底に転落した客車は7両で、少なくとも420人が乗っていた計算となる。列車はジャガイモ、鉛、亜鉛を売りに行く商人が多く利用し、常に満員だったという。情報筋によると、これら客車の乗客のほとんどが死亡したが、その数は少なく見積もっても400人はくだらないだろう。生存者も、北朝鮮の劣悪な医療事情で次々と死んでいった。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

 別の情報筋は、事故の発生はすぐに鉄道省に報告された。咸鏡南道安全部(県警本部)と教導隊が生存者の救出に当たった。重傷者は端川市病院に搬送されたが、抗生剤など医薬品不足で治療ができずに死亡した。

一方で当局は、朝鮮労働党中央委員会総会の開催を翌日に控え、地域一帯を非常区域に指定してかん口令を敷くなど、情報統制にばかり熱心だったという。重要な政治的行事の前後は、一切の事件・事故の発生を封じ込めようとするのが北朝鮮当局のやり方だ。

 遺体の捜索・搬送は事故から2週間以上経った今月13日の時点でも依然として続けられている。身分証を持っていた人は家族に訃報を伝えているが、身分証を持っていなかった人や、寒さで赤黒く凍りついた損傷の激しい遺体は身元確認ができず、病院の霊安室に運び込まれている。あまりにも死者の数が多く、今月中の完了は困難だとの見込みだ。

 列車には、商売で各地を行き来していた女性や、強いられた「嘆願」で鉱山に向かっていた20代の若者が多く乗車していた。

 ちなみに列車の終点であるクムゴル駅周辺には、77号教化所(刑務所)が存在する。ここの関係者が乗車していたこともありえるだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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