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“スーパー座長”内場勝則が見据える新喜劇のこれから

中西正男芸能記者
吉本新喜劇の“スーパー座長”、内場勝則

吉本新喜劇座長の内場勝則さん(56)。内場さん、辻本茂雄さん、小籔一豊さん、川畑泰史さん、すっちーさんに続き、7月26日からは6人目の座長として酒井藍さんがお披露目公演を行います。若い世代の座長誕生以外にも“乳首ドリル”の吉田裕さんや独特のギタープレイを魅せる松浦真也さんら新たな人気者も続々と登場しています。まさに、今、波に乗っている新喜劇ですが、そんな中、内場さんは舞台「FILL-IN~娘のバンドに親が出る~」(7月13~23日、東京・紀伊國屋ホール)に主演。初挑戦となるドラム演奏に四苦八苦しながらも、新境地を開拓する意味とは…。新喜劇へのあふれる思いを語りました。

新喜劇の3つの時代

僕は三世代というか、最初は花紀京さん(2015年没)、岡八朗さん(2005年没)時代に若手としてやらせてもらいました。次に僕らが軸になる時代。そして今の新喜劇。3つの時代を経験してきました。

それぞれを振り返るとすると、花紀さん、岡さんの時は笑わせる人が決まっていたんです。野球で言うたら、王・長嶋の時代。サッカーで言うたら、釜本邦茂さんの時代。要は、点を取る人は決まっているんです。圧倒的なスターがいて、周りの人はそこに点を取らせるために送りバントをする。パスを出す。そして、長嶋さんがタイムリーを打ち、釜本さんがゴールを決める。それをお客さまも待っていた。これが僕が初めに経験した新喜劇でした。

次に、僕らの時代になると、これまでの流れがマンネリやと言われて、89年に「吉本新喜劇やめよっカナ!?キャンペーン」があったんです。それによって、多くの人が新喜劇を去った。となると、残ったメンバーでゲームメイクをするしかない。これまでの圧倒的ポイントゲッターがいるスタイルから、全員野球に切り替えるしかない。みんなで必死にゴールを取りに行くスタイルにするしかない。なので、一番がいきなりホームランを打ってもいいし、場合によったら、四番が送りバントをしてもいい。

状況に迫られて、いわゆる“まわし”という存在、サッカーで言うたら、ストライカーよりもミッドフィルダーが重視される時代になったんです。だからこそ、僕も残ることができたし、ちょうど漫才でも“ツッコミがおもしろい”となってきた時代。そんな流れも加味されて、僕らの時代の新喜劇が出来上がっていったんです。

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次の人にバトンを渡すだけ

そして、そこを経て、今の新喜劇。今はボケが残ってきたんですね。ボケがたくさんいる。自分で点が取れる人がたくさんいる時代になりました。自分で点が取れるということは、分かりやすいキャラクターがあるということ。「藍ちゃん、かわいい!」とか「出た、ドリルや!」とか。だからこそ、今はお子さんにもたくさん観に来てもらえるようになって、そんなところから、ブームみたいな言葉を使ってもらうこともあるんですけど、注目してもらえるのは本当にありがたいと思っています。ただ、今はまわし役にとったら、なかなか評価をされにくいという部分もあるかなと。ゲームメイクしているのに、いろいろな食材が豊富にあるからこそ、料理人の腕が見えにくいというか。ただ、やっぱりその役がなかったらまわらないし、そこは変わらないはずなんですけどね。

今まで、いろいろな新喜劇を経験してきましたけど、いつも僕は言うんです。座長はただバトンを渡すだけやと。先輩からバトンをもらって、今たまたま先頭の方を走る立場をやらせてもらってますけど、最終的にやることは次の人にバトンを渡す。それやと。そのためには下が出てくるということも必要なんですけどね。

新しい風は吹かないんやろうな

今回、後藤ひろひとさんの作品で芝居をやらせてもらうんですけど、ずっと新喜劇という団体競技をやってきて、もし、なんばグランド花月でイベントをやるとなっても、いつもとそない変わりはない。やるなら、初めてのメンバーでやるとか、いつもと違う色の芝居をするとか、明らかにやったことがない要素を入れるとか、そんなことが必要やろなと。

そんな中、人生初のドラム演奏もある。ストーリーも、亡くなった娘の夢を継ぐという、いつもの新喜劇とは全く違う内容でもある。「うん、やったことないし、チャレンジしようか」と思ったんです。ただ、話を聞いたら、オーディションをして僕がドラムをやるバンドのメンバーを集める。え、そんなハイレベルな人と一緒に演奏をやるの?そして、東京でやるの?しかも、紀伊国屋でやるの?さらに、10日間もやるの?全部やったことないことばっかりなんです…。なんぼなんでも、ここまでやるかということも思いましたけど(苦笑)、やる以上はこれくらいのことを入れないとアカンのでしょうね。それでないと、別の刺激、新しい風は吹かないんやろうなと。

芝居の稽古は意外と順調です。今はガッチリこちらの芝居に集中させてもらっていますしね。芝居の稽古としては初日の1ヵ月前から初めました。ただ、ドラムはあの棒というか、スティックを持つのも初めて。なので、今年1月ごろから半年以上かけて稽古しています。最初は教えてくれる先生も「ま、半年ありますから、大丈夫ですよ」とおっしゃってたんですけど、今は「これは、容赦ないスケジュールでしたね…」と。今まではビジュアル系のバンドの人とかを見たら「チャラいことやって…」みたいにも思っていたんですけど、今見たら「すごいことをやってる人たちや…」と見方がガラッと変わりました。今は、なんとか帳尻を合わせられるようにはなってきました。多少間違っても、最後にシンバルを力強くたたいて「間違ってませんよ」という顔をしといたら、なんとかなるという(笑)。

60歳に向けて新しい道

ま、あとは、これから下からもいっぱい上がってくるでしょうし、上が詰まってたら迷惑やろうし。僕が今までと全く違う場に出て行って、別の方々とジョイントしたり、そういう道ができていけば、僕もこれから60歳に向けて新たな道になりますし、周りで見ている方が「新喜劇の人は、他の芝居もいけるがな」と思ってもらえたら、後輩にとっても、新しい道ができるかなと。

ただ、今からやったことないことをやるのはホンマに大変やし、慣れたところで、慣れた人らとやってる方が楽やし、分かっている場で分かっているメンバーでやる方が楽。あと、正直な話、それをやっていたら、ある程度の収入もありますし。でも、それではアカン気がして。自分もやし、下の子らにとっても。

まだ公演は始まってませんけど、初めてのことをここまでやると、早くも発見があるもんですね。ドラムの稽古は大変やし、芝居の稽古も新喜劇とは違う。そうなると、いつも以上に疲れるわけです。しかも、それを不慣れな東京でやっている。大阪と違って「ほな、ちょっと、飲みに行こうか」というような人もおらん。となるとサッと帰って早く寝るんです。結果的に規則正しい生活になって、びっくりするくらい体の調子がよくなる。こんな効果もついてくるとは、意外でした(笑)。

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■内場勝則(うちば・かつのり)

1960年8月22日生まれ。大阪市出身。大阪NSC1期生。同期は「ダウンタウン」「トミーズ」「ハイヒール」ら。故・花紀京さん、故・岡八朗さんらが中心となっていた吉本新喜劇でキャリアを積む。89年、「吉本新喜劇やめよっカナ!?キャンペーン」で多くの座員が新喜劇を去った中、95年から辻本茂雄、石田靖とともにニューリーダーに就任。99年に座長となる。現在の座長の中では最年長かつ最も長いキャリアを誇る。特定のギャグやキャラクターなどをほぼ定めず、どの役も、ボケも、ツッコミも、全てができるスタイルから“スーパー座長”とも呼ばれる。主演舞台「FILL-IN~娘のバンドに親が出る~」(7月13~23日、東京・紀伊國屋ホール)は娘を事故で亡くした父が娘のガールズバンドに加入し、娘のため、自分のためにメジャーデビューを目指す物語。出演は内場のほか、相楽樹、松村沙友理(乃木坂46)ら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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