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「ワクチンが足りない」風疹が流行する日本で、医師を悩ませる事態とは?

市川衛医療の「翻訳家」
イメージ(写真:アフロ)

 いま、首都圏を中心に風疹(ふうしん)の流行が大きな話題になっています。

 今月23日には、アメリカCDC(疾病対策予防センター)が妊婦や風疹ワクチン未接種者の日本への旅行を控えるよう警告を出すなど、国際的な問題になりつつあります。

 対策として重要なのがワクチンの接種です。現在は、小学校入学前に2回予防接種することが推奨されています(定期接種)。しかし過去には女性のみが定期接種だったり、1回だけだったりなどの時期がありました。

 そうした世代には、十分な免疫を持っていない人が少なくなく、流行の原因になっていると指摘されています。

 ※定期接種…法律に基づいて市区町村が主体となって実施するもの。接種の費用は公費で補助される。

 詳しくは下図を参照していただきたいですが、今年8月1日時点で28歳4か月より上の年代の人は、1回しか接種を受けていないか、いちども接種を受けていない可能性があります。

 ※年齢は2018年8月1日時点のもの ※国立感染症研究所 首都圏における風疹急増に関する緊急情報: 2018年8月15日現在より
 ※年齢は2018年8月1日時点のもの ※国立感染症研究所 首都圏における風疹急増に関する緊急情報: 2018年8月15日現在より

 そこで最近、十分な免疫を持っていない可能性がある世代の人に対して、自費でワクチンの接種を受ける(任意接種)よう勧める報道などが増えています。

 ところが一方で、このところツイッターなどでは「ワクチン接種を希望して医療機関に行ったが、在庫切れで出来なかった」という声が聞かれるようにもなりました。

 いま、実際に予防注射を行う現場では、どのような状況になっているのでしょうか?現役の医師にインタビューしました。

風疹ワクチンは不足している?

 お話を伺ったのは、都内で内科クリニックを開業する金澤信彦さん(日本内科学会 総合内科専門医)です。

金澤信彦さん(とよす内科クリニック院長)画像は本人提供
金澤信彦さん(とよす内科クリニック院長)画像は本人提供

Q1 いま風疹の流行が話題になっています。ワクチンを受けに来る人は増えていますか?

 とても増えています。通常は、風疹などの予防接種に来られる方は週に1人から2人といったところですが、8月から風疹の流行が報道されたこともあり、この9~10月には週に10人(月に40人)を超える方がいらっしゃっています。

 ただ悩みどころがあって、国内で生産されているワクチンの中心は、風疹と麻疹(はしか)の免疫を一度につけられるMRワクチンというものなのですが、今年は風疹だけでなく麻疹の流行も報道されたので接種希望者が増えており、ワクチンの流通量が少なくなっています。

 卸会社は出荷を調整して、子どもや妊娠希望の女性など、まず優先すべき人にいきわたるようにしてくれているのですが、その影響で、成人向けの任意接種に回せる量が少なくなっています。私のクリニックだけでなく、首都圏では同様に不足に悩む声が聴かれているようです。

 現在は、報道などで話題となりせっかくお問い合わせくださった方にも、在庫不足でお断りしている状況で、心苦しいです。

Q2 MRワクチン以外の方法で予防接種をすることはできないのですか?

 はい、当院では、MRワクチンが不足するようになってから、海外で中心となっている「MMRワクチン」を独自に輸入して希望者に接種しています(任意接種のみ)。今年だけでおよそ200人に接種しました。

 MMRワクチンは、いちどの接種で風疹と麻疹のほかに「おたふく風邪」の免疫もつけられ、安全性も国内産のものと大きな違いはありません。ただ日本では薬事承認されていないので、万が一、重大な副反応が出た場合の公的な補償を受けることができません。ご希望者にはその点もしっかり説明し、納得いただいてから接種しています。

 ただ現在、このMMRワクチンも在庫を使い切ってしまい、いったん受付を止めさせていただいている状況です。

 希望者のためにはできるだけワクチンの在庫を確保しておきたいのですが、あまり入荷しすぎると、流行が去って希望者が減ってしまえば廃棄するしかなくなるので、慎重にならざるを得ないのが難しいところです。

Q3 日本では定期的に風疹の流行が繰り返されています。現場の医師として、どう感じていらっしゃいますか?

 もどかしいです。2013年に起きた風疹の大流行では、45人の赤ちゃんが先天性風疹症候群(妊婦が風疹にかかった結果、胎児に影響が出る)を抱えて生まれたとされています。

 風疹だけでなく、先進国では撲滅されていることが多い、麻疹やおたふく風邪も定期的に流行を繰り返しています。ワクチンで防げる病気で悩まされたり、ときに後遺症や命の危機に苦しんだりする人がいることが残念でなりません。

 流行期の今こそワクチンを啓発するチャンスなのに、やっと打とうと興味を持った方が問い合わせしてきても、ワクチンがないとお答えするしかないのは悔しい思いもあります。

 ただワクチンの製造や流通を担う企業も、いつ来るかわからない流行期に備えて大量に在庫を抱えては経営に響きます。やはり国が主導して、流行時に十分な量を確保できるようにワクチンの増産をしたり、任意接種を希望する人に費用を補助するなど、実効性のある対策をしてほしいと強く願います。

 なお今後についてですが、いま当院ではワクチンの在庫が少ない状態ですが、11月にはMRワクチンが入るという情報を得ていますし、MMRワクチンも追加で入荷します。ほかの地域の小児科の先生からは、現在でもMRワクチンを入荷できているという情報も来ています。

 これからインフルエンザワクチンの接種の時期を迎えますが、MRワクチンはインフルエンザワクチンと同時に接種することも可能です。ぜひ、ご自分が風疹ワクチンを2回接種した世代かどうかを確認し、そうでない場合は予防接種を受けていただくようにお願いします。

取材協力:金澤信彦さん(とよす内科クリニック院長)

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※筆者は今回の記事の執筆に関し、いかなる個人や組織からも金銭や資料の提供を含む利益の供与を受けていません。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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