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元キャスターが未成年の性的写真作成で起訴 問われるBBCの説明責任

小林恭子ジャーナリスト
BBCの元キャスター、ヒュー・エドワーズ(写真:REX/アフロ)

 29日、BBCの元大物キャスター、ヒュー・エドワーズが未成年者の性的写真を作成した罪などで起訴されたことが分かった。ロンドン警視庁が発表した。

 筆者は夕方、ラジオを聞いていて、このニュースを知った。驚愕した。

 というのも、もともと、性的写真疑惑が発覚したのは、昨年7月、大衆紙サンの記事がきっかけだが、その後「警察は刑事犯罪の証拠を見つけられなかった、捜査は中止された」という説明がBBC側からあり、「もう終わった事件」という認識があったからだ。

 サンによると、エドワーズは3年間にわたって、性的に露骨な写真を10代の若者に要求し、合計で3万5000ポンド(約600-700万円)を支払ったという。この若者はこの時までに成人になっていたが、当初は17歳だった。

 この報道のどこまでが本当だったのか?

 現在に至るも、真相は不明だ。初報道時、サンがこのキャスターの名前を出さなかったため、「あの人か?あるいはこの人か?」と様々な憶測が生まれた。

 最終的には、 妻が声明文で「渦中の人物は自分の夫ヒュー・エドワーズ」と公表した。妻によると、エドワーズは「深刻なメンタルヘルスの問題を抱えている」という。時期が来たら、本人から説明するということだった。

 これでは、何があったのか分からない。はたしてエドワーズはこの若者とどんな関係にあったのか。性的な写真を要求したのかどうか。サンの報道はどこまでが真実だったのか。問題の若者の代理人が「不適切なことはなかった」としていることをどう考えたらよいのか。

 同時に、BBCは、「警察は犯罪行為があったことを示す証拠がないと判断した」と伝えてきた。

 BBC内部での調査が行われていたはずだが、エドワーズの退職によって、その内容は明らかにされなかった。

 つまるところ、「何だかわからないままに、事件が終息した」ような状況になっていた。

年次報告書で分かった、エドワーズの報酬額

 7月23日、BBCは年次報告書を発表したが、この時、エドワーズは高額報酬者のリストの上部に顔を出した。1年間のうちほとんどが職務停止状態となっていたにもかかわらず、報酬額は前年度よりも4万ポンドほど増額されていた。

 退職金は出なかったけれども、BBCの経営陣トップ、ティム・デイビーは増額は通常のことであるように説明した。

 ところが、今回のロンドン警視庁の発表で、BBCの視聴者や放送受信料を払う人に様々な事実を伏せていた可能性が出てきた。

警視庁の発表が明らかにしたこと

 エドワーズは現時点でも全くの無実の可能性はある。

 それでも、まずは警視庁の発表内容を見てみよう。

 警視庁によると、エドワーズは未成年のわいせつ画像を作成した罪3件で起訴されたという。

 「作成した」というのは能動的な行為である。先の若者に「性的写真を要求した」という表現よりも、強い。

 また、エドワーズは昨年11月に逮捕され、6月に起訴。今週中にもロンドンの裁判所に出廷する見込みだ。

 筆者も、そしてこの事件を報道で追ってきたほかの人も、エドワーズは重い心の病気で入院中か自宅で静養しているものだとばかり思ってきた。

 そうではなく、「昨年11月に逮捕され、6月に起訴」されていたのである。

 少なくとも、逮捕時点でBBC幹部やBBC内のエドワーズの友人・知人らは事の次第を知っていたはずである。

 BBC経営陣が「エドワーズが昨年逮捕されていたことを全く知らずに、7月23日の年次報告書発表時に、エドワーズの報酬増額を弁護していた」とは考えにくい。

 繰り返すが、エドワーズは現時点でも全くの無実の可能性はある。

 しかし、BBCのジャーナリストたち、経営幹部が事の経緯を何も知らなかったはずはなく、いかにも「警察の捜査は終わっている」ような報道をしてきたことについては、何らかの責任を取るべきではないのか。少なくとも、説明する義務があるのではないか。

 エドワーズが裁判所に出廷するまでに、この事件の報道は過熱化するだろう。

 BBC内で「誰が何をどこまで知っていたのか」は報道するべき点の一つになる。

 既に複数の新聞は「起訴について知らされたのは、発表の直前だった」と報じているが、本当にそうなのか。

人気司会者であるが故のプレッシャーか

 もう一つ、思うのが、BBCの人気司会者であることから生じる大きなプレッシャーだ。

 エドワーズが重度のうつ病にかかったのは、職業について回るプレッシャーが原因ではなかったか。

 まだまだ、この事件は終わっていなかった。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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