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トルコの軍事ドローン「バイラクタル」3日間でロシア軍の約37億円相当を破壊:ウクライナ軍総司令官語る

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ロシア軍が2022年2月にウクライナに侵攻。ウクライナ軍はトルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」を利用して、侵攻してきたロシア軍に攻撃している。トルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍の装甲車を上空から破壊して侵攻を阻止することにも成功したり、黒海にいたロシア海軍の巡視船2隻をスネーク島付近で爆破したり、ロシア軍の弾薬貯蔵庫を爆破したり、ロシア軍のヘリコプター「Mi-8」、ロシアの戦車「T-72」や120mm迫撃砲2B11を爆破したりとウクライナ軍の防衛に大きく貢献している。ウクライナ軍が上空からの攻撃に多く利用しているトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍侵攻阻止の代名詞のようになっており、歌にもなってウクライナ市民を鼓舞している。

ウクライナ軍がトルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」を活用してロシア軍を多く攻撃している。そして爆破に成功するたびに上空からの動画をSNSで公開して世界中にアピールしている。

そして2022年8月31日から9月2日までの3日間で「バイラクタルTB2」による上空からの攻撃で、ロシア軍の設備や装甲車など金額にして2650万ドル(約37億1000万円)相当を破壊したとウクライナ軍総司令官のヴァレリー・ザルジニー氏がトルコで放送されたBBC放送で明らかにした。

▼「バイラクタルTB2」でロシア軍を攻撃するウクライナ軍

ウクライナ国民には大人気、ロシア軍にとっては脅威と憎悪の象徴「バイラクタルTB2」

トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。バイカル社のCTOのバイラクタル氏はトルコのエルドアン大統領の娘と結婚しておりトルコでも有名。軍事ドローン「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやカタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。タジキスタンも購入を検討している。

2022年5月にはリトアニアのインターネット放送局がウクライナ軍のために募金を行い、3日で予定の500万ユーロ(約7億円)に達した。クラウドファンディングの募金で1人10ユーロから500ユーロまで募金できた。このクラウドファンディングで集まった500万ユーロ(約7億円)で、トルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」を購入してウクライナ軍に提供する予定だったが「バイラクタルTB2」を製造しているバイカル社は、6月に「バイラクタルTB2は無償でリトアニアに提供しますので、ウクライナ軍に渡してください。クラウドファンディングで集まった費用は人道的な支援に使ってください」とコメントしていた。そして2022年7月にトルコのバイカル社からリトアニアに「バイラクタルTB2」が弾薬とともに到着。リトアニア語で「鷹(タカ)」を意味する「バナガス」がウクライナの国旗とリトアニアの国旗のカラーで描かれたキャッチーなロゴもドローンに掲載されている。リトアニアのメディアと市民にもお披露目されてからキーウに送られた。2022年7月にはポーランドでもウクライナ軍に「バイラクタルTB2」を提供するために市民がクラウドファンディングで目標額は460万ユーロ(約6.5億円)の募金を行っていた。そしてリトアニア市民からの「バイラクタルTB2」と同様に無償でウクライナ軍に提供されて、集まった募金は人道的な支援に充てられている。

「バイラクタルTB2」はウクライナ軍にとってロシア迎撃に貢献しているし、ウクライナ国民にも人気がある。ロシア軍にとっても脅威である。そのため、ロシア軍は「バイラクタルTB2」を検知すると地対空ミサイルなどを発射して徹底的に破壊している。爆破された「バイラクタルTB2」の残骸の写真もよく公開されている。ウクライナ軍にとっては「バイラクタルTB2」は何台あっても足りない。

バイカル社のCEOのバイラクタル氏はロシア軍には同機を提供しないと明言している。このような周辺諸国の市民からのウクライナ軍支援とバイカル社CEOの反ロシア軍の発言からロシア軍にとっては「バイラクタルTB2」が憎い理由の1つになっている。このような脅威と憎悪から「バイラクタルTB2」を検知したら絶対に破壊してやろうというロシア軍のモチベーションにもなっている。

▼ロシア軍に破壊され跡形もない「バイラクタルTB2」

トルコの軍事ドローンだけでなく、米国バイデン政権は米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」をウクライナ軍に提供。さらに「フェニックス・ゴースト」も提供する。英国も攻撃用の軍事ドローンをウクライナ軍に提供している。ロシア軍はロシア製の軍事ドローン「KUB-BLA」で攻撃を行っている。またイラン政府がロシア軍に軍事ドローンを提供すると報じられている。両国ともに軍事ドローンによる上空からの攻撃を続けている。軍事ドローンが上空から地上に突っ込んでくる攻撃は破壊力も甚大であることから両国にとって大きな脅威になっている。

両軍ともに攻撃や監視・偵察にドローンを活用しているが、ドローンは上空で撃破されたり、機能不全にされている。そのためウクライナ政府は各国に武器の提供も呼びかけている。

▼バイカル社の攻撃ドローンの「バイラクタル TB2」

▼「バイラクタルTB2」を称えたウクライナの歌

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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