イギリス 半数以上の大人が「ホロコーストで何人のユダヤ人が殺害されたか知らない」ユダヤ機関が調査
10人に1人が「ホロコーストは作り話か誇張されすぎている」
1938年11月9日はドイツ全土で「クリスタルナハト(水晶の夜)」と呼ばれた日でユダヤ人に対する暴力、ユダヤ人店舗の略奪、破壊が行われた。ユダヤ寺院のシナゴーグも襲撃、放火された。店舗やシナゴーグの破壊されたガラスが夜の月明かりに照らされて「水晶」のようだったので「水晶の夜(クリスタルナハト)」と呼ばれている。その後、第2次大戦での欧州全体でのナチスによる約600万人のユダヤ人大量虐殺のホロコーストへと繋がっていった。
「水晶の夜」から83年目を迎えたユダヤ人対独物的請求会議(Claims Conference)はイギリス人の成人約2000人にホロコーストに関するアンケート調査を行った。その調査結果によると、イギリス人の成人の52%が何人のユダヤ人が殺害されたか知らないと回答していた。また32%が強制収容所の名前を1つも知らなかった。
主な調査結果
・52%がホロコーストで何人のユダヤ人が殺害されたか知らない。
・32%が強制収容所の名前を1つも知らない。
・アウシュビッツ絶滅収容所の名前を知っているのは63%。
・アンネ・フランクが死亡したベルゲン・ベルゼン強制収容所の名前を知っているのは14%のみ。
・ドイツにあるナチス初の強制収容所のダッハウ強制収容所の名前を知っている人は10%のみ。
・ユダヤ人で殺害されたのは200万人以下と思っていた人が22%。
・10人に1人が「ホロコーストは作り話か誇張されすぎている」と回答。
・欧州大陸のユダヤ人の子供たちがイギリスに避難してきた「キンダートランスポート」知らない人が76%。
76%が「キンダートランスポート」知らない
ユダヤ人対独物的請求会議の議長のギデオン・テイラー氏は「英国におけるホロコーストの知識や情報があまりにも乏しいことに懸念しています。英国は迫害されていたユダヤ人の子供たちを受け入れてくれました。いわゆるキンダートランスポートです。このような歴史的な出来事を今のイギリス人の多くの方が知らないのは驚きました」と語っている。
イギリスの多くの学校ではホロコースト教育が導入されており、子供たちはホロコーストに関する学習を学校で受けることが多い。だが大人になってしまってからホロコーストに関する知識や情報は忘れてしまうのだろう。
イギリスにあるユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのホロコースト教育センターでは「ホロコースト歴史教育」や「反ユダヤ主義学」「ホロコーストと文学」などに関する講義も提供しており筆者も受講したことがある。特に「反ユダヤ主義学」はユダヤ教の始まりから始まって、中世、近世、現代までの各国でのユダヤ人と反ユダヤ主義の状況が多岐にわたって網羅されており、とにかく難しかった思い出がある。
今回のイギリスの調査でも10人に1人が「ホロコーストは作り話か誇張されすぎている」と回答している。日本人にとってはほとんど馴染みがないかもしれないが、欧米では反ユダヤ主義が今でも蔓延っており、「ホロコーストなんて存在していなかった」というホロコースト否定論を支持する人も多く、その度にネットは炎上している。ホロコースト否定の発言はたいていSNSに投稿されることが多く、Facebookやツイッターはホロコースト否定論の投稿を禁止している。だが露骨なホロコースト否定の文言ではすぐに削除されてしまうので、隠語などで表現して仲間内にしかわからないような表現でホロコースト否定を語っていることも多い。
戦後70年以上が経過し、ホロコースト生存者は高齢化が進み、ホロコーストを体験した人たちは年々減少している。「ホロコーストは当時、実際にあった」と証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に拡散されることによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことにならないために、欧米やイスラエルでは多くの学校でホロコースト教育も導入されて、正しいホロコーストの歴史を後世に伝えようとしている。