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【阪神・淡路大震災24年】震災を知らない世代が、知らない世代に語り継ぐ

南文枝ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者
自分たちが学校や地域で「1年以内にできること、必ずすること」を考える

「震災を知らない世代が次の世代に語り継ぐことが、とても大切になってきています。ここから始めていきましょう」

 6434人が亡くなり、負傷者は4万人以上、約64万棟の住宅が全半壊するなどの甚大な被害が出た阪神・淡路大震災から、1月17日で24年となります。2019年1月11日、全国で初めて防災専門学科が設けられた兵庫県立舞子高校(神戸市)で開かれた「1.17震災メモリアル行事」で、谷川彰一校長は、生徒らにこう語りかけました。

「震災を知らない世代が、知らない世代に語り継ぐ時代になった」と話す兵庫県立舞子高校の谷川彰一校長
「震災を知らない世代が、知らない世代に語り継ぐ時代になった」と話す兵庫県立舞子高校の谷川彰一校長

 震災から月日が過ぎ、当時の状況を伝え、継承することが難しくなっています。しかし、全国各地で東日本大震災や熊本地震といった大きな災害が次々と起こっています。

 震災の記憶や経験を、後に続く若い世代にどう伝えて、生かしてもらうか。それを模索する取り組みが、各地で続けられています。19年1月11日から13日にかけて、震源地がある兵庫・淡路島などで行われた「全国防災ジュニアリーダー育成合宿」を取材しました。

 全国の中高生を対象に、これからの防災・減災を担う人材の育成を目指す合宿は、舞子高校と国立淡路青少年交流の家(兵庫県南あわじ市)が中心となり、毎年行ってきました。今年からは、独立行政法人国立青少年教育振興機構も主催に加わりました。19年度は東北・熊本で、東京五輪が開かれる20年度は、海外の被災地からも中高生を招き、東京で実施される予定です。

 今年の合宿には、兵庫県をはじめ、東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨で大きな被害を受けた岩手県や宮城県、熊本県、岡山県など被災地を含む12都府県の約30の中学・高校から生徒や教諭ら約100人が参加。災害時の状況や被災者の思い、防災・減災対策などについて話を聞き、それぞれの学校や地域でできる行動計画を立てました。

 生徒たちは、舞子高校のメモリアル行事で、東日本大震災で、宮城県石巻市立大川小6年生(当時)の二女を亡くした元中学教諭、佐藤敏郎さん、淡路青少年交流の家で舞子高校の谷川校長、全国各地で防災教育を展開している防災学習アドバイザー・コラボレーターの諏訪清二さんらの話を聞き、自分たちが「1年以内にできること、必ずすること」を考えていきました。

東日本大震災で被災した生徒が描いた絵を示しながら、当時の状況について話す佐藤敏郎さん
東日本大震災で被災した生徒が描いた絵を示しながら、当時の状況について話す佐藤敏郎さん

 生徒たちは、いったいどのようなことを考えたのでしょうか。被災地支援のための募金活動からはじまり、地域を巻き込んだ避難訓練、QRコードを入れたオリジナル避難所マップやAED(自動体外式除細動器)設置マップの作製、全校生徒での防災グッズの作製……。それぞれの学校に分かれて、白い紙に力強く「必ずすること」を書いていきます。和やかな雰囲気の中でも、真剣さが伝わってきました。12日夜には、各校が考えた取り組みを発表しました。

「1年以内にできること、必ずすること」を話しあい、書き出していく
「1年以内にできること、必ずすること」を話しあい、書き出していく

 神戸市内の高校から合宿に参加した男子生徒は言います。「(阪神・淡路大震災の)被災地の小中学校に通い、防災教育を受けたが、知らないことも多かった。例えば(諏訪さんの話にあった被災者への)『頑張れ』という言葉。災害のニュースなどを見て「頑張れ」と思っていたけれど、それが人を追い詰めることもある。よく考えれば分かることだけれど、自分は分かっていなかった」

「僕は阪神・淡路大震災のことを知らない。知らないけれども、こういう災害があったんだよ、近いうちに災害があるから備えていこう、分からないこともあるけれど一緒にやっていこう、と呼びかけていきたい」。

想定外の災害で命を救うのは“念のためのギア”

 佐藤さんは、自分や家族、教え子たちが、東日本大震災とどう向き合ってきたか、舞子高校の谷川校長は阪神・淡路大震災や東日本大震災の際に人々が取った行動、諏訪さんは、各地で大きな災害が起こる中、災害体験を語ることの意味、防災・減災のために学ぶことなどについて話しました。3人が重きを置いたのが「想定外の事態にどう判断、行動するか」です。

 佐藤さんは、大川小の児童や教諭らが、大津波警報から40分以上、想定外の津波が到達した校庭にとどまったことに触れ、「あの日の大川小には、子どもたちを救う時間・情報・手段はあったのに、組織として意思決定ができなかった。想定外の判断、行動というのは“念のため”。津波で助かった人は、“念のため”逃げた人です」と話しました。

「それ(念のため)にはギアがある。指針や調査、マニュアルを作成するということよりも、輝く命を守りたい、死んじゃだめだと思うことが“念のためのギア”を上げるのです」。

 舞子高校の谷川校長や諏訪さんは、東日本大震災で、岩手県釜石市の子どもたちが自らの判断で率先して津波から逃げ、大人たちも説得して多くの命を救った“釜石の奇跡”といわれる事例を取り上げ、「想定を信じるな」と説きました。

「災害の想定を信じない、自分の判断で逃げろ」と話した諏訪清二さん
「災害の想定を信じない、自分の判断で逃げろ」と話した諏訪清二さん

 

 2人とも、“釜石の奇跡”を「”奇跡”ではなく、訓練のたまもの」ととらえています。諏訪さんは「釜石の子どもたちは、避難訓練などで『一番身近なところで、全力で逃げろ』ということを教えられ続けた。ちゃんと防災教育を受けていたから、それぞれが自分で正しい判断をしたから助かった」と話しました。「想定を信じない、自分の判断で逃げようということが大事だと思います」

 今後30年以内には、70~80%の確率で南海トラフ地震が発生すると言われています。いざという時に命を守れる行動が取れるよう、次世代を担う若者たちだけではなく、私たちも正しい知識を身に付け、判断力を養う必要があると強く感じました。

次世代を担う若者だけではなく、私たちもいざという時に判断、行動できるようにする必要がある
次世代を担う若者だけではなく、私たちもいざという時に判断、行動できるようにする必要がある
ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者

1979年、石川県生まれ。同志社大学経済学部卒業後、北國新聞記者や毎日新聞記者、IT企業広報を経て、2013年からフリーライターとして書籍や雑誌、インターネットメディアなどで執筆。現在は兵庫県小野市在住。これまで当ページやニュースサイト「AERAdot.(アエラドット)」などで大阪、神戸、四国の行政や企業、地元の話題など「地方発」の記事を執筆。最近は医療関係者向けウェブメディア「m3.com(エムスリーコム)」で地域医療の話題にも取り組む。地方で面白いことをしている人に興味があります。

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