学園ドラマ2本のクラスが美少女とイケメンばかり問題。ほのぼのした『クラ好き』の身近な教室感との違い
『ビリオ×スクール』と『素晴らしき哉、先生!』で先生が主役
夏クールの連続ドラマでは、最近に珍しくGP帯に学園ドラマが2本ある。『ビリオン×スクール』(フジテレビ系)と『素晴らしき哉、先生!』(ABC・テレビ朝日系)だ。
いずれも主人公は先生。『ビリオン×スクール』で山田涼介が演じる加賀美麗は日本一の財閥系企業のCEOで、天才的な発明家でもある。超高精度の教育用AIプログラムの研究を名目に、身分を隠して教師として赴任。底辺クラスの担任となる。
設定は令和風だが、生徒1人1人の問題と向き合いながら心を掴み、クラスを少しずつ立て直していく展開は、『GTO』や『ごくせん』を思わす王道だ。
『素晴らしき哉、先生』では、元乃木坂46の生田絵梨花が2年目の新米教師・笹岡りおを演じている。こちらはヒロイックな主人公でなく、理不尽で過酷な教育現場で生徒や保護者、同僚の板挟みでストレスだらけの毎日を送っていた。一度は退職を決意したものの、急きょ欠員となったクラス担任を任されることに。
愚痴をSNSの裏アカで吐き出し、部屋で「教師だって人間なんだよ!」と叫んで暴れたりもしながら、様々なトラブルと向き合う。リアルに人間らしい教師像が描かれている。
生徒役から新たなスター候補
学園ドラマと言えば、生徒役からニュースター候補が生まれるのも常だ。『ビリオン×スクール』ではいじめを受けていた女子生徒、梅野ひめ香役の上坂樹里が筆頭格。
昨年から『いちばん好きな花』の田中麗奈が演じた美鳥の高校時代、『となりのナースエイド』の心を開かない入院患者役など、1話に出演しただけで「あの美少女は誰?」とネットをざわつかせていた。
今回はメガネを掛けてもの静かな役柄だが、メイン回だった2話以外にも要所でフィーチャーされ、端正な美貌と繊細な演技が注目を集めている。
また、1話で加賀美のCEOとしての顔を知った西谷翔役の水沢林太郎も、学級委員長になってクラスをいち早くまとめていこうと存在感を発揮。「MEN’S NON-NO」モデルも務める184cmの長身とさわやかな佇まいで、好感度を高めた。
問題児の役が新たなステップに
『素晴らしき哉、先生!』のこれまでの3話では、年齢を偽って銀座のクラブでホステスのバイトをしている沢井谷玲奈役の茅島みずき、授業をサボったりタバコを吸ったりの不良生徒・大木戸光源役の小宮璃央が目立っている。
茅島は登竜門と言われる「ゼクシィ」CMガールを務め、『最高の教師』や放送中の『あの子の子ども』など、すでに出演作は多い。小宮も『魔進戦隊キラメイジャー』の主役から、公開中の映画『恋を知らない僕たちは』など出演を重ねていて、共に今回でさらにステップアップしそうだ。
りおの退職を思い止まらせた料理部の永瀬莉子らも、今後スポットが当たることが期待される。
各事務所が推す若手が集まって
こうした新星が注目されるのは、もちろん喜ばしいことだ。ドラマ界の活性化にも繋がる。一方、両作ともクラスの美少女・イケメン率が高すぎる。ほぼ全員が美形。こんなクラスは現実にはほぼ存在しないだろう。
今期のドラマに限ったことではない。『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(2023年)、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019年)、『ごめんね青春!』(2014年)、『35歳の高校生』(2013年)、『幽かな彼女』(2013年)など、かなり遡ってもこの傾向は見られていた。
大きな要因としては、2010年代に若い世代のテレビ離れが進み、大人向けのドラマが増えてきた中、学園ドラマ自体が減少。たまに制作されると、各事務所がここぞとばかり、推したい若手をオーディションに送り込んでくる。
制作側もそうした美少女やイケメン人気を当て込み、太った生徒やおちゃらけ担当などの枠を数名設ける程度で、リアリティは薄い美形クラスが出来上がっていた。
引用された『金八先生』のクラス構成
『ビリオン×スクール』10話では、加賀美が文化祭のクラスの演目にソーラン節を提案。「お前らのような問題の多いクラスが行う演目として最もふさわしいとデータが示している」と言い、秘書で副担任の芹沢一花(木南晴夏)が「代表例は桜中学の3年B組」と続けた。学園ドラマの伝説的な金字塔『3年B組金八先生』シリーズからの引用だ。
山田涼介の加賀美は「腐ったミカンです」と、武田鉄矢の金八先生のものまねも披露。若い視聴者に伝わるのか、とも思ったが。
1979年から2011年にわたり、第8シリーズまで作れらた『3年B組金八先生』。たのきんトリオ(田原俊彦、野村義男、近藤真彦)に始まり、沖田浩之、風間俊介、亀梨和也、上戸彩、加藤シゲアキ、八乙女光、高畑充希など、旧ジャニーズ勢を中心にスターを発掘してきた。
一方で、劇中の3年B組にはメガネのガリ勉、肥満体型の女子や小柄な男子といった外見の生徒も。それぞれに特徴があって問題も抱えつつ、二枚目や美少女が多くはなかった。地味な生徒にスポットを当てた回も多かった。
やはりシリーズが進むにつれて、美形率が増えてはいったが、普通にありそうなクラス構成に見えた。昨今の学園ドラマとはだいぶ様相が違っていて。
回想シーンの中学時代が和める
そんな中、深夜枠で純粋な学園ドラマではないが、回想シーンのほのぼのとしたクラス感に和めるのが『クラスメイトの女子、全員好きでした』(読売テレビ・日本テレビ系)。
木村昴が演じる主人公の枝松脛男が、中学時代に埋めたクラスのタイプカプセルから、誤って自分のところに届いたノートに書かれていた小説を盗作。それが文学賞を獲ったことで起こる騒動が描かれてきた。
脛男は「全員好きだった」というクラスメイトの女子たちの思い出を綴る連載を始めて、中学時代のシーンが毎回半分ほどを占める。25年前のスネオを演じる及川桃利から、純朴だが冴えない中学生の佇まいだ。
ベルマークを1000枚集めたらキスする約束をした子、プロレスラーを目指していてジャイアントスイングの練習台にさせられた子、よくゲロを吐いていた子、幽霊が見えて除霊ができる子……など、スネオが好きになるクラスメイトの女子たちも、ほとんどが特別に美少女というわけではない。もちろん、及川も含め、一般レベルでは十分整ったルックスだが、キラキラ系ではなくて。
そこにいる同級生気分になれるのが本来の形
それだけに大人としては、クラスにこんな子がいたな、ちょっと好きだったな……とノスタルジックな気分にさせてくれる。ドラマのどこか愛おしい感じの空気感も、こうした生徒たちが生み出している部分が大きい。
深夜帯だから成立した作風かもしれない。しかし、GP帯の学園ドラマでも、こんなクラスがあっていい気がする。
美少女は映っているだけで目を引くし、スターになる可能性はより高い。クラスにそんな美少女が1人か2人いるのも、またリアルではある。
とは言え、そういう生徒ばかりの教室はどうなのだろうか。もっと身近に感じられるクラスで、視聴者もそこにいるような同級生気分になれたほうが、作品としての学園ドラマの本来の形だと思う。
今週で最終回を迎える『クラ好き』を観てきて、そんなことを感じた。