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大谷翔平との契約合意で今オフに使える予算が4000万ドル以下になりそうなエンジェルスの厳しい現実

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ミナシアンGM(左)にとって厳しいオフになりそうだ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【今年も厳しいオフになりそうなエンジェルス】

 シーズン終了を待たずに、年俸調停最終年を迎える選手としては史上最高額の3000万ドルで大谷翔平選手と来シーズンの契約に合意したエンジェルス。チームにとって大谷選手との契約が今オフ最大の懸案事項の1つだっただけに、年俸調停を回避し早期決着できたのは大きかったはずだ。

 だからと言ってエンジェルスが、安穏としたオフを迎えられるというわけではない。すでにアルテ・モレノ・オーナーがチーム売却の方針を明らかにし、オフには本格的な新オーナー探しを始める一方で、それと並行してチーム補強に取り組んでいかねばならないからだ。

 今シーズンはマリナーズが21シーズンぶりに、さらにフィリーズが11シーズンぶりにポストシーズン進出を決めたことで、とうとうエンジェルスとタイガースの8シーズン連続でポストシーズン進出を逃しているのが、現存する最長記録になってしまった。

 この長期不振は確実に観客動員に影響を及ぼしており、今シーズンの観客動員数は245万7461人となり、短縮シーズンとなった2020年を除くと、2002年(230万5565人)以来初めて300万人を割り込んでしまった。

 この2年間大谷選手の活躍が話題を集め続けたものの、その裏でファン離れが進行していった証であり、エンジェルスにとって今オフのチーム再建は急務であるとともに、最重要課題になってくる。

【来シーズンの年俸総額はよく見て現状維持?】

 とりあえずエンジェルスは大谷選手との契約合意に成功したわけだが、今後も順調にチーム戦力を補強していけるのだろうか。ファンならずとも一番気がかりなところだが、現実は決して甘くなさそうだ。

 選手補強を担当するのは各チームの編成責任者であり、エンジェルスの場合ペリー・ミナシアンGMということになる。だが補強に費やせる予算などが決まらないと動きようがないので、まずは経営陣の判断が必要になってくる。

 モレノ・オーナーは新オーナーが決まるまで、責任を持って経営を継続していくと宣言しているので、当面は引き続きモレノ・オーナー下で選手補強を続けていくこになりそうだ。

 それを踏まえた上で、これまで徹底的にぜいたく税の限度額を超えることを回避し続けたモレノ・オーナーが、将来的に売却予定のチームに対し、これまで以上の予算を投じるとはどうしても考えにくい。よく見て現状維持というのが妥当ではないだろうか。

 そこで来シーズンの年俸総額予算が今シーズン開幕時の年俸総額である約1億8200万ドル(MLB8位)になるだろうと想定して、以下話を進めてみたい。

【今シーズン終了後の余剰予算は7275万ドル】

 まず現在のエンジェルスはシーズン開幕当時と比較すれば、すでにかなりの余剰予算を得ている(だから大谷選手と3000万ドルで合意できた面も否めない)。シーズン中に高額年俸選手たちを放出していったからだ。

 年俸2800万ドルのジャスティン・アップトン選手をシーズン開幕直前にDFA(その後ウェーバーを経て解雇)した後、6月から不振に陥ったチーム状況により、トレード期限内に2100万ドルのノア・シンダーガード投手と1000万ドルのライセル・イグレシアス投手を放出している。そのためこの3選手だけで、計5900万ドルの余剰予算を生み出している。

 さらに今シーズン限りで契約が終了する175万ドルのカート・スズキ選手、675万ドルのマイケル・ロレンゼン投手、375万ドルのアーチー・ブラッドリー投手、150万ドルのマット・ダフィー選手との再契約を見送れば(スズキ選手は現役引退を表明)、さらに1375万ドルを浮かせることができ、合計金額7275万ドルの予算を得ることになるわけだ。

【実質的な余剰予算は4000万ドル以下】

 その一方で、すでに来シーズンの年俸総額で増額が決定しているのが、大谷選手の2450万ドル(550万ドル→3000万ドル)、マックス・スタッシ選手の400万ドル(300万ドル→700万ドル)、デビッド・フレッチャー選手の200万ドル(400万ドル→600万ドル)で、その合計金額は3050万ドルとなる。

 この時点で選手補強に回せる余剰予算は、単純計算で4225万ドルということになる。

 だが実際は3選手の増額に加え、今シーズンある程度の実績を残したテイラー・ワード選手、ルイス・レンヒーフォ選手、パトリック・サンドバル投手と、来シーズン正一塁手として復帰が待たれるジャレッド・ウォルシュ選手が今オフに年俸調停権を取得するため、今シーズンほぼ最低年俸額に近かった彼らが、かなりの年俸を得られることになる(場合によっては12月にノンテンダーされる選手も出てくるかもしれないが…)。

 そう考えると、エンジェルスが選手補強に使用できる余剰予算は、間違いなく4000万ドルを割り込むことになると考えられる。

 それを踏まえた上でエンジェルスの現有戦力を考えると、投手陣だけでも最低ラインとして先発投手1~2人(ロレンゼン投手と再契約しなければ、やはり2人は必要になるだろう)、クローザー1人の補充が必要になってくる。

 それを限られた予算でやりくりしなければならないとなると、実績あるFA選手に手を出しにくくなるし、十分な補強など望めそうにない。仮にモレノ・オーナーが予算を削るようなことになれば、さらに選手補強は厳しくなってくる。

【重くのしかかるトップ3の高額年俸】

 すでにここ数年指摘されてきたことだが、エンジェルスが長年にわたって解決できていないのが、年俸総額に占める高額年俸選手たちの比重が重すぎることだ。昨シーズンまではマイク・トラウト選手とアンソニー・レンドン選手、アルバート・プホルス選手の3人が年俸3000万ドルを超えていたが、来シーズンはプホルス選手に代わり大谷選手が加わったことで、その状況はまったく変化していない。

 ちなみに来シーズンの3人の合計年俸額は約1億600万ドル(大谷選手3000万ドル、トラウト選手3711万6667ドル、レンドン選手3857万1428ドル)に上り、これだけで今シーズン開幕時の年俸総額の6割近くを占めており、完全にフレキシビリティーを失っている状態だ。

 もちろん早々に新オーナーが決まり、来シーズン以降の経営を新たな経営陣に移行できれば、大胆な選手補強にシフトできる可能性はある。だがマーリンズの買収交渉などの流れを見ている限り相当に時間を要する作業であり、当面はモレノ・オーナーに任せざるを得ない状況が続きそうだ。

 ミナシアンGMにとって、例年以上に厳しいオフが待ち受けていると考えた方がいいだろう。果たして何らかの起死回生策はあるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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