現地取材だから肌で感じることができるダイヤモンドバックスが寄せる中後悠平への期待感
現地時間の2月22日、中後投手がキャンプ2度目の打撃練習に登板した。といっても、1回目は雨のため室内ケージで行われ、打者はバットを振ることはなかったので、今回が実質初めての打撃練習登板となった。
1回目同様にネット越しからトリー・ロブロ監督が、最初から最後まで中後投手の投球を観察し続けた。1回目ではロブロ監督の隣に陣取っていたマイク・ヘーゼンGMも、今回は一塁ベンチからしっかり見守っていた。若手有望選手でもない招待選手の打撃練習登板に、監督、GMが揃って最初から最後まで注視するのは滅多にないことだ。それだけチームが中後投手にかなりの興味を抱いている証拠といえるだろう。
この日は左打者3人、右打者2人と対戦し、捕手とサイン交換しながら各打者に5球を投じたのだが、結局打球はファウルの4球のみ。打球は前に飛ぶことすらなく、まさに圧巻の投球内容だった。
「昨年の成績もあり、我々は彼に対し注目をしている。今日も真っ直ぐの制球が良く、またスライダーの曲がりを変えながら両サイドに投げ分けていた。非常に好印象だった」
練習後の会見で地元メディアから真っ先に中後投手の質問が飛び出すと、ロブロ監督は満足そうに話した。実はロブロ監督のみならず、ヘーゼンGMもこのオフに就任した新参者だ。昨年の中後投手獲得にはまったく携わっておらず、3Aで13試合連続無失点を記録した投手に興味を抱くのも無理からぬことだろう。そしてここまで、その期待に応える投球を披露している。
首脳陣のみならず、選手たちの評価も高い。打撃練習登板でいずれも捕手を務めたメジャー在籍8年のジョシュ・トーリ選手は、メジャーでも十分に通用する投球だと褒め称えた。
「彼の真っ直ぐは浮き上がるように伸びてくる。スライダーも曲がりが鋭いし、きちんと両サイドに投げ分けることができる。チェンジアップもスライダーに負けないくらい通用する変化球だ。特に左打者に対しては内角をツーシーム、真っ直ぐ、スライダーで攻めることができる。十分にメジャーの左打者でも効果的な投球ができると思う」
捕手ばかりではない。対戦した左打者の1人、ジェレミー・ヘーゼルベイカー選手も賞賛を惜しまなかった。
「間違いなく彼の投球は左打者に有効だ。彼は自分に対に初球、内角にスライダーを投げてきたのだが、一塁側のプレートを踏みながらあの腕の角度で投げられたら左打者はかなり厳しい。登板後に左打者に対し内角のスライダーをどんどん使うべきだと忠告したよ」
これだけの評価を受ければ開幕メジャー入りの可能性もあるのでは、と期待を寄せてしまいそうだが、スプリング・トレーニングはまだ始まったばかり。これからオープン戦が始まれば、今度は敵チームの打者に対し同様の投球を続けていかねばならない。
「我々は左のリリーフ投手を必要としている。まさにそのスポットを横一線で争っている状態だ。みんながどんな投球をしてくれるのか楽しみしている」
ロブロ監督が説明するように、中後投手を含め複数選手で1~2人の中継ぎリリーフの枠を争っている。スプリング・トレーニング開始直前まで中後投手を含め5人で争っている状況だったが、トレーニング開始後さらにメジャー経験のあるブライアン・マティス投手、ホルヘ・デラロサ投手のベテラン左腕を次々にマイナー契約で獲得。生存競争はさらに過酷を極めている。
ただそれらの投手の中で、中後投手がサイドスロー左腕として“左打者キラー”になり得る異色の存在であることは大きなセールスポイントになっているのは間違いない。
「僕はずっと結果を残していかなければならない立場。良くも悪くも後悔のないようにやることをやって、自分の持っている球を全力でぶつけるというのが僕のやるべきことだと思う」
日本ではほとんど実績もなく招待選手としてメジャー昇格が保証されていない選手に、日本での注目度は決して高くないだろう。だがオープン戦での成績次第で、素晴らしいシンデレラ・ストーリーが誕生するかもしれない。